【紹介/試走】JAGUAR F-PACE 20d PRESTIGE

2016.11.5

    • プレミアムSUV
    • その他

覚醒、新種の大豹

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派手なパフォーマンスで高性能アピール
ムダがなく、しかしタフなデザイン

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ジャガー初のSUV、しかもこのカテゴリーでは後発も後発…という状況もあってか、そのプロモーションでは、巨大円形バンクや360°回転ループコースを走行したり、サーキットで片輪走行するなど、観客の度肝を抜く派手なパフォーマンスでユーザーへのアピールを図るジャガーFペースが話題だ。

 

果たしてこれらの曲芸的デモンストレーションが、Fペースの性能訴求にどれだけ貢献したかは不明だが、少なくともユーザー予備群に大きなインパクトを与えたことは確かだろう。

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こういったある意味奇を衒った宣伝活動とは対照的に、そのスタイリングは同ブランドのクーペやセダンとイメージを共有する落ち着きのある外観だ。近頃よく目にする過度な装飾や機能的には意味のないデザインは見当たらず、シンプルで品がありつつタフな、ひと目でジャガーと分かる個人的には好印象なスタイルである。

 

同じタタ系列にランドローバーというSUV専門ブランドを持ちながら、敢えて今さら感の強い「新型SUV投入」というこの流れに対し、このような伝統的ブランドにおいてはありがちな「ジャガーよ、おまえもか」的な批判もあれば、高まるSUV人気の波にうまく乗り、老舗ブランド活性化の起爆剤となり得るか…という期待も交錯する中、大いに注目されていることは間違いなさそうである。

ディーゼルとガソリンの計5タイプ
ライバル設定はマカンとX4

日本国内の標準ラインナップは、2リッター直4DOHCターボディーゼル搭載の「20d」に「PURE(ピュア)」「PRESTIGE(プレステージ)」「R-SPORT(Rスポーツ)」の3グレード、そして3リッターV6DOHCスーパーチャージドガソリン搭載の「35t R-SPORT」と「S」を合わせて計5タイプ。なお、現在はこれにFペース発売記念特別仕様車(世界限定生産2,000台のうち、日本限定50台)の「FIRST EDITION(ファーストエディション)」が加えられている。

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試乗車両は、ディーゼル搭載モデルの中間グレードである「20dプレステージ」をチョイス。ポルシェ・マカンGTSやBMW X4 M40iをライバルに想定して開発されたとされるFペースだから、世間的にはガソリン車の上級モデルへの注目度の高さが窺えるものの、やはり現実的には価格や経済性の面からも主流であり、最も関心が高いと思われるディーゼルモデルから、という選択となった。

 

最高出力132kW(180PS)、最大トルク430Nm(43.9kgm)を発生するクリーンディーゼルは、アクセル操作に小気味よく反応する軽快なユニットで、グイッと踏み込めばストレスなく5,000rpm近くまで一気に吹け上がるガソリンライクな4気筒だ。ボンネットを開けている時のアイドリング・ノイズはそれなりに大きいものの、ボンネットを閉めたとき、あるいは車内に乗り込んだときのノイズレベルは低く、遮音性能の高さを物語っている。

 

3リッターガソリンクラス相当の最大トルクをわずか1,750rpmから発生する特性は、発進/停止、加速/減速を繰り返す街中では非常に扱いやすい。

乗り心地を犠牲にしないセッティング
タイヤサイズもポイントに

街中で快適な理由はもうひとつある。それは、神経質になりすぎない範囲でキレのあるハンドリングと乗り心地の良さにある。上級グレードに設定されている40%-50%扁平のタイヤを履いていれば、また違った印象だったかも知れないが、そこそこ空気量のある55%扁平タイヤは、路面の凹凸を神経質に伝えてこないのでSUVらしい乗り心地である。

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フロント:ダブルウィッシュボーン、リア:マルチリンクの脚は、常に安定した接地感をドライバーに与え、4輪を素早く路面に追従させる優秀なサスペンションだ。また、このプレステージではメーカーオプション扱いだが、「アダプティブダイナミクス」と呼ばれるダンパー減衰力可変システム搭載車では、状況に合わせて瞬時に最適なダンパー減衰力に調整されるため、このサスペンションのポテンシャルをさらに引き出すことができる。

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ワインディングでは、まさに本領発揮。コーナーで軽いローリングを伴いつつ、思い通りのラインをトレースできる快感は、それが当たり前のスポーツカーより、むしろSUVの方が大きいかも知れない。重く、重心の高い巨体を意のままに操れる愉しさは、SUVならではの醍醐味である。さらにパワフルなガソリンターボとタイトなサスペンションを持つ上級グレードももちろん魅力的だが、前後の重量バランスに優れ、手に負えるパワーで乗りこなす感覚を堪能させてくれるディーゼルモデルも充分魅力的と言える。

4×4システムはFR感覚重視
燃費もコストも満足な1台

Fペースの4×4システムは、通常走行では前10:後90と、基本的にFRに近いトルク配分が行われ、路面や走行状態に応じて前90:後10まで前後配分を自動調整する。

 

今回はオフロード試走を行わなかったので、前後トルク配分の変化はアップダウンの多いワインディング路でのみ試す形になったが、実際にはドライバーにも分からないほど自然な制御が行われるので、狙ったラインをスムーズにトレースできることでこれを体感することになった。

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今回の燃費は、市街地、高速道路、山岳路(ワインディング路)の総走行距離300kmほどの走行で14.0km/Lをマーク。例によって、高速や市街地ではECOモードで省燃費運転を心掛け、ワインディングや一般道ではダイナミックモードで積極的な加減速を繰り返すというパターンでこの数値は期待どおり。その上、燃料は軽油ということで、お得感は期待以上だった。

 

走りも燃費も期待以上、満を持しての遅めのデビューがもたらしたメリットを存分に享受できる1台であり、ガソリン車の試乗にも期待が膨らむモデルである。

【細部写真】
20161105_9最高出力180PSを4,000rpm、最大トルク43.9kgmを1,750〜2,500rpmで発生する2リッター直4DOHCディーゼルターボエンジン。アイドリング音は大きめだが遮音性能が高く、車内は静か。
【騒音計測データ】
●車内・・・・42.5dB
●ボンネット閉・・・・63.0dB
●ボンネット開・・・・72.5dB
※エアコンOFF、電動ファン非作動/アイドリング時。なお、当コーナーでの騒音計測は毎回微妙に異なる環境下(天候、気温や地形等)で実施されるため、計測値を他車と比較することはできません。

 

 

20161105_1020161105_11上:アナログ表示だが、これは全て液晶メーターパネル。カラーのイメージも可変。
下:華美な装飾は一切なし。オトナのイメージ漂うコックピット。

 

 

20161105_12トランスミッションは8速AT。レンジローバーシリーズでもお馴染みのダイアル式セレクターを採用。走行モードの選択は◀▶ボタンで操作。

 

 

1105_searプレステージ・グレードにはトーラスレザーシートが標準装備。リアシートもホールド性に優れる。

 

 

20161105_15オプションのスライド式パノラミックサンルーフはこれで全開状態。

 

 

20161105_rear全車共通の40:20:40分割可倒式リアシート。中央のシートバックを倒せば、4人乗車+長尺物積載もOK。最大で1,598リッターの荷室容量を確保可能。

 

 

20161105_2020161105_21荷室の床下にはバッテリーが配置されている(上)が、非常時のジャンピングやヒューズ交換はエンジンルームで(下)。

 

 

20161105_22LED「J」ブレードポジショニングライトを採用したバイファンクション・キセノン(HID)ヘッドランプ。

 

 

20161105_susフロント:ダブルウィッシュボーン+コイル(左)、リア:インテグラルリンク+コイル(右)のサスペンション。前後とも軽量なアルミ製コントロールアームを多用している。

 

 

20161105_25タイヤはオプションサイズの255/55R19を装着。「プレステージ」の標準サイズは255/60R18となっている。

 

 

文/内藤知己
写真/佐久間清人