YOKOHAMAジオランダーSUV インプレッション

2012.8.28

    • タイヤ
    • FORD

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グローバルコンセプト”ブルーアース”

青いオープンカーにゴーグル着けたゴールデンレトリーバー。人気アーティスト、レイクや絢香の歌をバックに青い地球と「ブルーアース」のメッセージを重ね合わせるCMはよくご存じだと思う。

 

最後の画面にはブルーアース1などのエコタイヤが登場するのだが、この「ブルーアース」、ただのブランド名ではない。車種やブランドを超えたグローバルな “コンセプト” としてこの先、あらゆるヨコハマ製品に表示されていく可能性を秘めている。

 

ジオランダーSUVのサイドウォールにもブルーアースの文字。

ジオランダーSUVのサイドウォールにもブルーアースの文字。

 

ではブルーアースとは何か?

それは「ころがり抵抗の低減による燃費の向上」をベースに安全性能を向上させ、ドライバーや同乗者、周辺生活環境に対する負荷低減を兼ね備えたタイヤなの だという。分かりやすく言えば「低燃費で安全。乗り心地よく、ロングライフで地球環境にも優しいタイヤ」ということになるだろうか。

 

注目すべきは、ヨコハマがこのCMにプリウスやリーフではなくスポーツカーを選んだこと。実はテスラのEVロードスターだったりするのだが、ここに「ただのエコタイヤでは終わらせない」という隠れた意図を読み取ることができる。

 

今後はスポーツカーだってブルーアース。ジオランダーだってアドバンだってブルーアース!? その考え方はパイクスピークのヒルクライムレースにて、ヨコハマのEVが低燃費タイヤにこだって勝負している姿にも繋がって行く。パイクスは今年、全線ア スファルト化によりハイグリップタイヤ全盛となったが、彼らはブルーアースカラーのマシンにブルーアースタイヤで挑戦したのだ。

 

ドライバーの塙郁夫さんはこう語っている。「EVのモーターでレシプロエンジン同様のパワー競争をすれば果てしないことになる。EVならエコロジーである ことに意味がある。限られたエネルギーを効率よく使い、いかに速いタイムが出せるか。そんな戦いならタイヤもエコがいい」。競技にも将来、地球環境に優し い考えが必要なことを、彼らはイチ早く訴え始めている。

 

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ジオランダーと組み合わさったブルーアース

ジオランダーSUVはコンパクトSUVや輸入SUV向けにリリースされた。

ジオランダーSUVはコンパクトSUVや輸入SUV向けにリリースされた。

 

さて、ではこのブルーアースがジオランダーと組み合わさるとどうなるか? その答えが2012年2月に発売された「ジオランダーSUV」なのだが、その出で立ちも性能も、明らかに今までのシリーズとは違っていた。

 

ひと言で表すなら「静かで安全なSUV用低燃費タイヤ」だ。H/T-Sより更にオンロード寄りにセッティングされているのも特徴で、ターゲットは国産コン パクトSUVやクロスオーバーSUV、そして輸入SUV。転がり抵抗はH/T-Sに比べて16%も減り、走行音も格段に静かになっている。

 

にも関わらず操縦性や安定性、グリップ力や制動力、はたまた雪上性能に至るまでH/T-Sを越えている。ダートもドライならH/T-Sを越え、唯一マッド路面のみH/T-Sに敵わないというから、ただの低燃費タイヤではないことがおわかりいただけよう。

 

エクスプローラー・エコブーストに装着したジオランダーSUV。サイズは純正と同じ245/60R18。CX-5はディーゼルのXDグレードを選び、タイヤは純正と同じ225/60R17を装着した。

エクスプローラー・エコブーストに装着したジオランダーSUV。サイズは純正と同じ245/60R18。CX-5はディーゼルのXDグレードを選び、タイヤは純正と同じ225/60R17を装着した。

 

今最も話題のエコSUVに装着

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そんなタイヤを、今回はフォード・エクスプローラー・エコブースト とマツダ CX-5 に履かせてみた。どちらも今話題のエコSUV。好評につき、増産体勢を敷いたり、輸入枠を増加させたりしているが、その人気は当分続きそう。やはり、いつ の時代も時流を捕らえた製品はよく売れるのだ。

 

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まずはフォード・エクスプローラー・エコブースト。このクルマは2012年の初頭にラインナップに追加されたばかりのニューモデルで、2m × 5m というランクルより大きな体に2リッターのガソリンエンジン、というアンビリーバブルな組み合わせが衝撃的な1台。

 

ゴルフなどフォルクスワーゲンの乗用車から始まったエンジンのダウンサイジング化の波がSUVの世界にやってきた象徴的な出来事だったのだが、やはりその 恩恵は大きかった。なにせ排気量はランクルの半分以下。ボディーも軽く燃費や加速性能にも優れている。付け加えるなら、毎年4月に支払う自動車税も約半 分。エコロジーでエコノミーなクルマなのだ。

 

詳しくは、試乗記:「 エコブーストの衝撃 」をご参照いただきたいが、レギュラー仕様ながら速さのポテンシャルでは4.6リッターV8のランクルを上回り、高速80km/h巡航の実測燃費でリッター14km超を記録した。

 

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CX-5も2012年春に登場したばかりのブラン・ニューSUV。ハイブリッドやEVの技術を使わず、従来からのレシプロエンジン技術と軽量高剛性なボ ディー構造だけで、このクラスのSUVとしては並外れた低燃費を実現した。これに、マツダらしいスポーティーな感覚を盛り込みながら環境や安全性能を向 上。魅力的な高機能パッケージに仕立ててある。

 

クルマ造りのキーワードは「スカイアクティブ テクノロジー」。環境や安全、低負荷性という意味で「ブルーアース」と一脈通ずるコンセプトだが、実は「エコブースト」もよく似ている。これが、クルマ造り、タイヤ造りの時代の流れといえるのだ。

 

というワケでエコロジーなクルマにエコロジーなタイヤ。この組み合わせがいったいどのような結果をもたらすのか? 今回は燃費テストこそしなかったが、高速からワインディングまでその乗り味を存分に確かめた。

 

素晴らしい安定性と操縦性

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結論から言うとこの2台、ジオランダーSUVとのマッチングは予想以上に素晴らしかった。まず感心したのは高速のフィーリング。両車ともどっしりした直進 安定性と、しっとり安心感のあるグリップを感じる。これはエクストレイルやRAV4の試乗で感じたものより優れた感触だ。

 

さらに印象的だったのはCX-5の長所、マツダらしくややクイックでスポーティーなハンドリングがキッチリ再現されていた点。レーンチェンジはもちろん、 僅かな進路修正も意のまま。一般にオフロードユースのタイヤはステアリングを左右に振ると、ロールばかり発生してクルマの上体がフラつきがち。これに比 べ、ジオランダーSUVはタイミングをおかずにヨーが発生する感覚で、クルマの反応が機敏になる。

 

これには硬めに仕上げられたサイドウォールの剛性が影響しているはずだ。オフロードユースのタイヤはサイドウォールも大なり小なりたわみを意図的に許容す る味付けが多く、そのおおらかな乗り味は四駆乗りにとってはごく自然の感覚だ。が、パッセンジャーカーに慣れた人が新たにSUVの世界に来ると少しばかり 不安に感じる。

 

ところがジオランダーSUVは、対象車種と道路をオンロード寄りに絞ることで、いい意味で四駆用オフロードタイヤの呪縛から逃れている。ステアフィールも ダイレクトで前後独立懸架サスになった今ドキのSUVによくマッチする。でも、サイドウォールの剛性が高くなったからと言って乗り心地まで硬くなっている わけではない。路面の凹凸をダイレクトに伝えることもない。継ぎ目のいなし方は十分にコンフォート。ほどよく調教された乗り味は長距離の移動にも向いてい る。

 

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ロードノイズとパターンノイズ、そして車外で聞こえる走行音についても、その静かさは十分。コンセプト通り、乗員や周辺環境にも優しい。特に素晴らしかっ たのがエクスプローラーの静粛性。元々遮音性が高いクルマだが、このタイヤなら高速走行しながら、ダイナミックレンジの広いクラシックを十分に鑑賞でき る。

 

CX-5はディーゼルで試乗したが、高速巡航時の静かさはそこいらのガソリンSUV以上の素晴らしさ。そんなことがあるものか、と反論するガソリンエンジ ンファンもいるかも知れないが、ルマンで見せるアウディーの低い走行エンジン音とその他の甲高いガソリンエンジン音を思い出して欲しい。

 

CX-5は時速100kmでも僅か1,750rpmの低回転。トルクフルであるが故に回転数を上げずに巡航できるディーゼルならではの特性が活き、エンジ ン騒音そのものがガソリン車より小さいのだ。さすがにアイドリング時や加速時にはガソリン車よりザラついたエンジン音が響くものの、もはやこれだけ静かに なったディーゼルを敬遠する一般ユーザーはいないだろう。その静かさを、ジオランダーSUVが更に際立たせていた。

 

新感覚の “しっとり” グリップ

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続くワインディング。目指したのは伊豆スカイラインは達磨山付近のオンロード。右に左につづら折れになる道は車線がさほど広くはなく、どちらかというとサ イズの小さなCX-5のほうがラインを選びやすい道だったが、ここでもジオランダーSUVは両車と素晴らしいマッチングを見せた。

 

乗り味はやはり落ち着いたもので、クイックな操作にも十二分に対応できる。数センチ単位で狙ったラインに合わせることも可能。グリップが強いとか弱いとかいうこれまでの尺度とは違って「滑らかにしっとり走る」ような感覚。正直、このしっとり感には舌を巻いた。

 

一般的に、転がり抵抗とグリップ、あるいは低燃費とグリップはトレードオフの関係にある。16%も転がり抵抗が減れば、それに応じてグリップ感もある程度失われそうなものだが、それは感じない。ここに、CMでも大きく表現していた「オレンジオイル」の存在がある。

 

正しくはオレンジオイルを配合した「ナノブレンドゴム」の働き、と言うべきか。詳しい説明は先のリンクに譲るが、タイヤゴムの開発は今やミクロの世界に及 んでいる。オレンジオイルは、実際にオレンジの香り漂う香しいオイルだが、これが低燃費ゴムにしなやかさを与え、路面の微細な凹凸にまでゴムを密着させる という。

 

これにより、タイヤの実質的な接地面積が拡大。低燃費性を向上させながらグリップ性能を両立させることに成功した。このしっとりした転がり感とグリップ感は、ブルーアース・コンセプトのたまものといえるのだ。

 

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クルマ同士で比較すると、攻めた時のフィーリングはCX-5に軍配が上がる。が、理由の多くは駆動方式の差によるもの。テスト地はタイトなコーナーが多く 加減速も頻繁にある。そんな場面では立ち上がりで四輪にトラクションを配分できるCX-5のほうがタイヤの限界を上手く使うことができた。

 

その意味ではエクスプローラーもV6の4WDモデルなら存分に振り回せるハズだが、FFのエコブーストならではの走らせ方もある。ペースは速くともナチュラルに流すような乗り方だ。こうすると元来が大陸的なSUVだけに、ゆったり気持ち良く運転できる。

 

とはいえ、新型エクスプローラーを10年20年前のアメ車と一緒くたに語るようなインプレッションは信用しないほうがいい。サスのセッティングはカッチリ したもので欧州車、とまではいかないが日本のコンフォート系チューンよりはるかに踏ん張りが効いている。有り体に言えば、ランクルやパジェロよりずっとス ポーティーなのだ。その脚にジオランダーSUVのオンロード寄りのセッティングがよくマッチする。それは低燃費タイヤであることを忘れさせる、実にナチュ ラルな感覚だった。

 

低燃費で低騒音。耐久性は高く、ライフは長い。グリップも遜色なく、安全性は十分。乗り味もナチュラルで長距離の疲労度も少ない。ドライバーにもパッセン ジャーにも、財布にも地球環境にも優しい性能は、ブルーアースのコンセプトをそのまま体現したような完成度だ。国内向けとしては国産メジャーブランド初と なるSUV用低燃費タイヤ、ジオランダーSUV。SUVのエコ度を更にアップさせるなら、今、このタイヤがイチオシといえるだろう。