【BACKWOODS】 宮島秀樹

2015.11.27

  • 2015112701
    • コラム
    • Volkswagen
  • 「排ガス不正の抜本的な解決策はあるか?」: 先日閉幕した東京モーターショー。個人的に印象に残った展示として、前回の当コラムでランクル70のことを書いた。その他の4×4にも、日産、マツダ、スバルなどのコンセプトカーや、BMW X1、ジャガーF-PACE、レンジローバー・スポーツSVRなど、それなりに興味深いモデルが出展されており、世界的なSUVトレンドはまだまだ続きそうである。


そんな東京モーターショーの中で、注目した、というかやはり気になったのが排ガス不正問題に揺れるフォルクスワーゲンのブースだ。来年早々には日本市場にディーゼル車が導入されることが発表されていたが、本来目玉のひとつになるはずのディーゼル車の展示は皆無。EVやハイブリッド車をメインとする展示となっていた。それでも、フォルクスワーゲンはディーゼルモデルの日本導入をアナウンスしており、時期を延期して来年中に販売をスタートする計画だという。

 

そんなフォルクスワーゲンの排ガス不正問題だが、沈静化するどころか、ここにきて更に拡大する様相を見せている。

 

これまでの経緯を簡単にふり返ってみると、まずアメリカのEPA(環境保護局)とカリフォルニア州のCARB(大気資源局)によって、1.6〜2リッター4気筒ディーゼルエンジンに排ガス試験時だけNOx値を下げる不正ソフトが搭載されているのが公表されたのが9月のこと。その後、フォルクスワーゲンは該当エンジンのみ不正ソフトの搭載を認めたが、その対象車種は世界で約1,100万台と膨大な台数に上り、米国では約2兆円の制裁金が課されるのではないかと報道された。

 

問題発覚当初、不正ソフトは最新ディーゼルには搭載されていないというフォルクスワーゲンのアナウンスや報道があったが、11月2日にはEPAとCARBが最新の3リッターV6ディーゼルにも不正ソフトが搭載されている疑いがあると指摘。それと前後して、フォルクスワーゲンが内部調査によって1部車種のCO2値にも「不整合性」が見つかったと発表した。これにより、一連のスキャンダルは、ガソリン車にも波及する事態となった。

 

11月13日になると、フォルクスワーゲンが約80万台にCO2値の不正が認められると発表。その内の約43万台がゴルフ、パサート、ジェッタなどの最新ガソリンモデルで、対象車は当初の1車種から大幅に拡大した。

 

さらに11月19日には、EPAが3リッターV6ディーゼルを不正ソフト搭載車として発表。アウディ製エンジンであることから、アウディQ7やポルシェ・カイエンなどの最新SUVも対象モデルとして浮かび上がってきたのだ。当初、3リッターディーゼルでの不正を否定していたフォルクスワーゲンだが、どうやらこれを認めた模様で、11月25日にはCARBが3リッターディーゼル車に対してリコール命令を下している。また、ヨーロッパでは、問題の発端となった2リッターディーゼルのリコール内容(ソフトウェア変更と対策部品装着)がようやく発表されたところである。かように、フォルクスワーゲンの一連の排ガス不正問題は、まだまだ終わりが見えない状態だといえる。

 

なおドイツでは、今回の不正問題を受けてKBA(ドイツ連邦自動車局)が、フォルクスワーゲン以外の国内外のメーカーにも同様の不正がなかったか調査を始めたと10月上旬に報道された。フォルクスワーゲンのお膝元であるだけに、“逆ギレ”とも呼べる対応のように感じるが、CARBではディーゼル車の不正ソフト使用は、これまでのところフォルクスワーゲンのみであるという認識(11月10日付ロイター)を示している。

 

もっとも、ソフトウェアによる排ガスの不正問題は、フォルクスワーゲンが初めてではない。日本でも、2011年にいすゞのディーゼルトラックの一部モデルにソフトによる「規制逃れ」あった。東京都の指摘より発覚したこの問題も「公定走行モード」で走った場合だけ働くソフトが搭載されており、一般的な走行では、NOx値が公定走行モードの最大で3倍になるケースが認められたのだ(ちなみにフォルクスワーゲンのディーゼルの場合はなんと最大40倍である)。いすゞは「排ガス処理装置の保護が目的の制御で、規制逃れではない」と説明したが、結局は国交省にリコールを届け出て、ソフトの変更およびエンジン補機類の交換を行っている。

 

フォルクスワーゲンにしてもいすゞにしても、問題の発覚はEPAや東京都による走行テストによってである。つまり、実際に走らせて、排ガスを測定しないと認知できなかったのだ。「公的な測定では問題が起きないように制御されている」ソフトを使っているから、これは当たり前のことだ。

 

では、抜本的な対策として、その不正ソフトを見つけ出すことはできないのだろうか? 実は、アメリカにおいては、自動車メーカーは排ガス制御にかかわるソフトウェアをEPAに届け出ることが義務付けられている。そして、検査当局は、それらのソフトウェアが搭載されていることを前提に、排ガスの試験を行うのである。フォルクスワーゲンは、排ガス不正が発覚するまで問題のソフトウェアの存在を隠していたことになる。

 

結局のところ、こうした「隠しソフト」はメーカーが自己申告するか、何らかの理由によって不正が発覚するまでは見つけられないことになる。以前、「修理する権利」というコラムで、ブラックボックス化する現代のクルマにおいては簡単な修理もままならず、メーカーによるソフトウェアの情報開示を必須とすべきだと書いたが、今回の一件もそれに関連する大きな問題だと思う。

 

近年、某国製のPCやスマホアプリの中に、スパイウェアやバックドアを開放するようなプログラムやデバイスが仕込まれているケースが度々見つけられているという。こうしたスパイウェアや擬装プログラムを見つけ出しているのは、ソフトウェアやネットのいわゆるセキュリティー専門会社や優秀なハッカー達だ。電脳化が進むこれからの自動車業界にも、そんな人材が必要とされるのかも知れない。

 

それにしても、見た目はクリーンになった現代のクルマの排ガス、本当は真っ黒だった…、なんてのはシャレにもならないことだ。

2015112701排ガス不正問題に揺れるフォルクスワーゲン。東京モーターショーでは、日本導入予定のディーゼルモデルの出展はなく、EVやハイブリッド車にシフトしたような展示内容だった。写真はティグアンGTEコンセプト。