今年は、学生たちとともに! 「オヤジたちの最後の挑戦」

2018.5.3

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アジアンラリー2018「あきんど号」製作記〜中央自動車大学校

還暦を越えた漢たちの夢を乗せ、灼熱の大地を走り抜いた「あきんど号」。
満身創痍だったFJクルーザーは、今、中央自動車大学校実習場にある。
ボディーとフレーム、パーツを総て切り離し、徹底的なチェックと補修そしてマシン造りまでを行う、学生達による3ヶ月間に渡る作業がスタートした。
文章:水島 仁/写真:難波 毅

 

これからの自動車業界を背負って立つ学生達へ向けた西川氏の思い
中央自動車大学校鎌ヶ谷キャンパスの広大な駐車場の先にある実習場。ボディーとフレーム、パーツは、ほぼすべて切り離され、学生達による補修と修理といった実習作業の続きが行われようとしていた。還暦を越えた三人の漢たちの夢を乗せ、アジアクロスカントリーラリー2017を完走した「あきんど号」は、今年の参戦を目指し、今学生達の手でマシン造りが行われている…。
 
これまで山本氏と辻本氏の2名で海外ラリーに臨んでいたチーム「あきんど」は、日本でマシン造りを担当してくれていた30年来の友である4WDプロジェクト西川氏を加え、アジアクロスカントリーラリー6年ぶりの復活を見事完走で遂げた。一週間にわたるラリーは、他の日本人チームとの輪も拡げてくれる。チーム「JAOS」や「翔」「モンチ」のピットクルーには、汗と泥にまみれた中央自動車大学校に在籍する4年生と彼らを率いる先生の姿があった。
 
「学生達には、授業で学ぶだけではなく、実社会に繋がる経験を積ませてあげたい」と言う中央自動車大学校の教育理念と、学生達とともにラリーチームのマシン造りに6年携わってきた小谷副校長の真摯な姿に共感し、生きた教材として「あきんど号」を預けることになった。
 
西川氏曰く「車体をバラバラにすることで、クルマのイメージがつかめるんだ。一級の整備資格を目指すほどの彼らなら、あとはメカニックとしての実践をどれだけ積むことが出来るかにかかっているんだ」と、その訳を語る。
 
これまで「あきんど号」を手掛けて来た西川氏から学校へのリクエストは「車両整備とフレームクラックのチェック&補修、鈑金そしてボディーワークなど。ちなみに、室内のメイキングは、西川氏が行うことになっている。
 
実習場の隅には、車体から取り外されたパーツがボルトやネジとともに、それぞれ保管されていた。その様を見て「ほら、外されたパーツには、それぞれ装着されていた時の方向を示す矢印が記されているでしょ。取り付けに方向性がないパーツでも、一度装着してしまうと、パーツにクセが着いてしまうからね。俺たちプロの世界では、つい省いてしまうこともある作業だけど、本当にここの生徒達は丁寧な作業を心がけてくれるんだ」と、自動車業界に身を置く先輩として、嬉しそうに説明してくれた。
 
「彼らは、これからの自動車業界を背負って立つ人材。こういった貴重な経験を携えて、これからの人生へ羽ばたいて行って欲しい!」。若き頃に抱いた「海外ラリー挑戦の夢」の第一章を遂げた西川氏にとっては、夢に満ちあふれた学生達の眼に期待を隠しきれないようだった…。

 

勝つためのマシン造りを! 実習場とラリーが育む生徒の自信
「どことなく幼さが残っていた生徒達が、過酷なラリーのチームメカニック一員として一週間を終えると、逞しい顔になっているんです!」と語る同校小谷副校長。
 
「ただ学校内で学ぶだけでなく、将来に繋がるような経験や、時にはドライバーの生死にも関わりかねない厳しい世界での実体験を、生徒達に積ませてあげたいんです」と小谷氏が語る通り、一級整備士資格取得を目指す「一級コース(4年制)」では、ステップアッププログラムというカリキュラムが設けられている。ここでご紹介しているラリーカー造りも、チームメカニックの一員として海外ラリーへ生徒を送る(今年は、チームあきんどへ1名、チーム翔へ2名、チームモンチへ1名の計4名を選抜)ことも、ステップアッププログラムの一環でもある。
 
「彼らのほとんどは、卒業後カーディーラーへ就職します。そこは、マニュアルとアセンブリー交換を推奨する現場。おそらくここまで車両をバラすことは、彼らが送ろうとしている自動車人生では、とても稀なはずなんです。ましてや、過酷なレースを走り抜く車両造りは、ほぼ皆無でしょう。だからこそ、“ここまで出来た!”という経験は、彼らの絶対的な自信に繋がってくれると思っているんです」。
 
ところで、同校では生徒達がクルマを製作する過程で壁にぶつかったときに初めて、先生がその方法を実際に見せ、技術を伝えているのだという。この取材中もまた、遠くから学生の仕事ぶりをチェックしながら、ときには生徒達の間に入って指導していた。そのやり取りからは、4年間をともに過ごした生徒と教師の信頼感がとても強く感じられた。
 
そんな生徒と密な関係を持つ先生達でさえ、一週間のラリーでは、幾度となく生徒たちの意外性に驚かされるのだと言う。
 
小谷副校長曰く「我々教師は、生徒の嫌いな食べモノも把握しているつもりだったのですが、ラリー期間中は体調を万全にしようと、嫌いなはずの食材もすべて平らげるんですよね。彼らなりに、チームの一員としての自覚が芽生えてくるんでしょうね」と語ってくれた。
 
一週間のピットクルーとしての役割を無事終えたとき、生徒達は先生に「ラーメンを食べさせて下さい!」とリクエストするのだとか。今年もまた、生徒たちがひとりの男として生まれ変わる瞬間を、小谷副校長は楽しみにしているようだった。
 

 

昨年、アジアクロスカントリーラリーに6年ぶりの復活をはたした、チーム「あきんど」辻本氏。ラリーマシン(FJクルーザー)を預かる中央自動車大学校の取材現場には、4WDプロジェクト西川代表とともに、ご同行頂いた。
過酷なラリーへの復活の動機を尋ねると、「ラリーは、厳格なまでに時間に管理された非日常の世界。苦しいことばかりですが、日本では決して経験出来ないことです。これが自分には合っていたんでしょうね。そして、このことはラリーから6年離れて気付いたことです。だからこそ、ラリーへの参加を快く許してくれた妻と、再挑戦の夢を共有してくれた西川さん、山本さんには感謝の気持ちしかないんです」。
そして「この三人で参戦することがラリー再開の原点でした。今年は、昨年の反省点を活かした走りで臨みたいです」と、最後にラリーストとしての意気込みを語ってくれた。

 

作業前のミーティング風景。この日行われる作業内容と役割分担が告げられた。4月初旬に受けた「あきんど号」の作業は、6月中旬まで行われる。

 

ラリーカーは一時バラバラにされ、まずは各部位のチェックから行われる。それぞれのパーツはネジと一緒に保管され、そのパーツを外した担当者(学生)の名前も記されていた。
ちなみに(左写真の)パーツには矢印がマーキングされているが、これは装着されていたときの方向を現したもの。パーツの取り付けに向きが関係なかったとしても、一度取り付けたパーツには、クセが着いてしまっているためだ。実に丁寧な扱いだ。

 

マシン製作を行う「一級コース」4年生のステップアッププログラム授業風景。
◆写真最上段:本日の作業内容とサスペンションアームの整備
ボード(写真左)には、本日の作業内容が書き出されていた。ちなみに「ラッピングはがし」「フレーム側ジャッキアップとサスペンションばらし、チェック」「ブレーキオーバーホール」そして「フレームクラックチェック」という内容。

◆写真2段目:ブレーキオーバーホール
生徒達の質問を受け、先生も実作業に参加。「教師がやり方を実際に見せて、技術を伝える」が、同校のテーマのひとつでもある。

◆写真3段目:フレームチェック
フレームとボディーが切り離され、徹底したチェックと作業が行われる。生徒達のほとんどは、ディーラーへ就職予定だが、彼らが進む世界では、車両をバラバラにして作業することなど、おそらくないのでは。メカニックとして、とても貴重な経験となるはずだ。

◆ラッピングはがし
ラリーカー(FJクルーザー)には、協賛ステッカー(2017年度)が貼ってあったのだが、今年度用の製作に向け剥がす作業が行われていた。

 

マシン製作の隣のブースでは、清掃用具を入れたり、工具もおける作業台や棚を製作。クルマ創り長けた手を持つ彼らからすれば、お得意なジャンルだ。なんだかこちらの学生さんも楽しそうな表情で、作業に当たっていた。

 

4WD プロジェクト代表 西川和久氏
これまでは日本で「あきんど号」の製作に携わっていた西川氏だが、昨年のラリーにて、中央大学校副校長小谷氏の「ラリーマシン製作やラリーサービスメカニックといった、学校ではとうてい習得出来ない経験を、学生に味合わせてあげたい」という姿勢に共感。同チームのマシン製作を依頼することになった。
「学生達は、これからの日本の自動車業界を担う“宝”です。彼らの未来の礎になってくれたら、こんなに嬉しいことはない!」と語る。
 
お問い合わせ:http://www.4wdproject.com/

 

 

 
中央自動車大学校
「最高の経験を君に!」
1級コース(4年制)に設けられている同校の「ステップアッププログラム」のテーマだ。
同校では、「あきんど号」をはじめ「チーム翔」などからマシン製作を依頼され、このマシン製作を4年生が担当する。

 
これは、学校での習得が難しい「経験」を身につけてもらおうと設けられたステップアッププログラム(一級コース4年生が対象)の一環。
アジアクロスカントリーラリーへ参戦するレース車両の製作のみならず、これらチームのメカニックとして、毎年同校では選抜メンバー(今年は4名)も派遣している。
 
◆白井キャンパス 千葉県白井市根1920-7
2級コース(2年間:2級自動車整備士国家資格取得課程)/1級コース(4年間:1級自動車整備士国家資格取得課程)および研究科コース(3年間:2級自動車整備士国家資格取得と車体整備士取得課程)の2年生までの学舎。
 
◆鎌ヶ谷キャンパス 千葉県鎌ケ谷市軽井沢2130-1
今回取材をさせて頂いた鎌ヶ谷キャンパスでは、1級コースおよび研究科コースの3年生以上が在学している。
◆お問い合わせ:http://cts.ac.jp/

 

あきんど号
1991年、BJ41でオーストラリアンサファリ(11日間/走行距離8,500km)に参戦以来、特にアジアクロスカントリーラリーでは、ランクル70で12回もの出場を誇る。各国のラリドライバーからも「アジアンラリーに“あきんど号”あり!」と一目おかれる存在に。
2011年「チーム翔」2号車、2012年同サポートとして参戦。これを機に出場を控えていたが、2017年これまでふたり(山本選手と辻本選手)だったチーム「あきんど」に4WDプロジェクト西川社長を迎え、3名体制にて6年ぶりのアジアンラリー参戦復活を果たした。
3年計画の2年目を迎える今年は「昨年の走りに修正を加え、大人のチーム力で臨みたい」と秘めた思いで臨む。