奮戦記「オヤジたちの最後の挑戦」〜人生の集大成に臨むマシンを、学生に託す!

2019.6.1

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ラリーそして四駆に人生を捧げてきた還暦を過ぎた漢たちが、灼熱の大地で繰り広げられる「アジアクロスカントリーラリー2019」に挑む。
 
1991年に開催されたオーストラリアンサファリの海外ラリー初参戦以来、アジアクロスカントリーラリーでは回数を重ね、ランクル70では12回の出場を果たした「あきんど号(山本則博氏/辻本 隆氏)」に、昭和63年創業の老舗四駆ショップ4WDプロジェクト(滋賀県)代表の西川氏を迎え、人生集大成のラリーと掲げ、彼らがアジアクロスカントリーラリーに参戦したのは、2017年大会のこと。
 
すでに還暦を過ぎていた彼らは、アジアンラリーへの参戦を「3年」と決め、今年、ついに最後の年を迎えることとなった。
 
「笑いのある大人のレースで、必ず完走を遂げたい」と抱負を語る。控えめな大人たちは、一方では昨年来、マシンの整備と製作を中央自動車大学校(千葉県)に依頼してきた。それは「次代を担う若人に、生きた教材で学び、社会へ巣立って欲しい」との一心からだった。

文章:水島 仁/写真:難波 毅

 

ネジ一本にまで思いを込めて…。ラリー参戦するマシン整備と製作が学生達の「卒業制作」

学生たちが作業を行っているスペースへ入ると「こんにちは!」と気持ちのいい挨拶が返ってくる。作業する手をいったん止めて、こちらに視線を寄せてくれる。「挨拶もまた教育です」と同校の小谷副校長。充実した四年間の学校生活が垣間見えてくる。
 
あきんど号のマシンは、シャシーとフレームを離し、ネジ一本にいたるまで砂は落されキレイに磨かれていた。まだ厚みが残っていたブレーキパッドもまた同様。新品のようになったパーツ達は、もと通りに取り付けられ、次第にクルマらしさを取り戻していった。

 

マシンの整備に携わる学生たちの左腕には、同校の最高学年(4年生)を意味する「First Class cts」と刺繍されたワッペンが貼られている。
 
6月中旬をメドにマシンを仕上げるのだが、2ヶ月に及んだ作業を終えると、彼らはディーラー等へのインターン活動と、国家整備資格一級を取得するための授業が学校生活のメインとなる。このマシンの整備と製作は、彼らにとっての「卒業制作」でもあるのだ。
 
今年同校では、アジアクロスカントリーラリーに参戦するマシンを他に2台(FLEXプラドと千葉氏パジェロ)預かっているため、このカリキュラムは四年生を3班に分けて行なっている。納車の日を迎えるまで、同じ仲間で作業は進められるという。

 

「メカニックとしての先輩と後輩の関係でありたい」マシン製作が築く師弟の“絆”

作業を行う学生達からの質問に対し、懇切丁寧なアドバイスと、時には先輩メカニックとして作業の手本を見せる呉藤先生(上段左写真右:グレーの作業用つなぎを着用)は、この四年生たちを今年になってから受け持つことになったという。
 
事情を知らなかった私は、この話しを耳にするまで、彼らとは長い時間を過ごして来たのだろうと思い込んでいた。このように錯覚してしまうほど、教師との間柄は密なのだ。
 
「教師と学生という関係よりは、むしろメカニックとしての先輩と後輩の関係でありたい」と呉藤先生は語るが、これはまた、中央自動車大学校の教育方針でもあるのだろう。
 
同校では、毎年四年生から選抜(今年は6名)してアジアクロスカントリーラリーにメカニックとして参加しているが、彼らを引率している小谷副校長もまた柔らかい物腰で、学生たちと向き合っている。
 
「自分たちが造り上げたマシンは、絶対に完走して日本に戻ってきて欲しい」。そんな思いが築いた先輩と後輩を思わせる師弟関係は、見ていて実に清々しいものだった。

 

ラリーストの思い。注がれる学生と教師の熱意。同校の良き伝統は引き継がれていく

彼らが造り上げたマシンは、海の向こうの灼熱の大地で、一週間にわたる戦いに臨む。
 
そしてクタクタになったマシンは「今一度同校に戻すことになっている」と西川社長は語る。それはレース後の下回りを見せることで、ヒットしやすい箇所や強度が足りなかったパーツ等を、実際に確認してもらいたいとの思いからだ。
 
生きた教材としてマシンを整備・製作し、道具も満足に揃わない見知らぬ大地でメカニックの一員として加わり…。そしてラリースト達からは、今年もまた、これが恒例であるが如く依頼を受ける。同校の良き伝統は育まれ、そして発展し続けている。
 
ところで、還暦を過ぎたオヤジたちの挑戦は、今年が区切りの年となる。それはアジアクロスカントリーの参戦は今年が最後(正確には、FJクルーザーでの参戦となるかもしれないが!)と決めているからだ。
 
「来年は、彼らにマシン製作の依頼が出来なくなってしまいますね」との問いに、「製作を依頼することはなくなってしまうけど、僕たちのFJクルーザーは、来年、中央自動車大学校の学園祭で展示することになっているんだ!」と、西川社長は嬉しそうに語る。
 
その頃には、製作した四年生たちは社会人としての第一歩を進み始めているが、彼らが精魂込めて造り上げたマシンは、学園祭を通して在校生に披露される。先輩達が築いた証を後輩たちへ。それは役目を終えたマシンが雄弁に語ってくれるはずだ。
 
「アジアクロスカントリーで勝つためのマシン創り」。
この良き伝統は、各方面で活躍する人生の先輩たちの思いが上乗せされて、ずっと後輩達に引き継がれ続けていく。

 

ネジ一本に至るまで、キレイに磨かれたパーツは、再び取り付けられていく。もし装着方法が分からない時は、先生に問う。そして先生はただ質問に答えるだけではなく、時には、お手本となる取り付け方を見せている。それは教師と学生の間柄ではなく、メカニックとしての先輩と後輩を思わせる。まるで職場のようでもあった。

 

外したパーツは保護されキレイに保管されているのだが、この保管方法は昨年と異なっていた。このことを呉藤先生に尋ねると「外したパーツは、元通りに戻しやすくなるよう保管するように! とだけ、学生達には伝えました」とのこと。保管方法は学生たちの間で相談し、彼らが決めているのだ。

 

作業を進める学生たちの様子を見ていると、スマホを頻繁にチェックする機会が多かったことに気付く。
彼らの傍に立って覗き込ませてもらうと、外す前のパーツがどの向きで装着されていたのかを、外す際に撮影した画面で、絶えずチェックしているのだった。
過酷なラリーを走り抜いたパーツには、すでにクセが着いている。その都度、向きを確認し装着状況をチェックすることは、大切な作業なのだ。

 

 

 

 

 

中央自動車大学校 小谷副校長

「今年はラリーマシンを3台預けて頂くことになりました。来春卒業を迎える学生達は皆、クルマ関係の仕事に就職することが決まっていますが、社会人になったら、クルマをネジ一本になるまでバラバラにする機会は巡ってこないと思うんです。
そしてラリードライバーたちと実際に話し合いながら、マシン製作が出来ることも。このカリキュラムは、当校が学生生活の最後に贈る、まさに生きた教材でもあるんです。
今年は当校から6名のメカニックを選抜し、アジアンラリーに参加しますが、ここに残る学生も、そして教師たちもまた、選手達には安心して走り抜いてもらいたいという気持ちは一緒。学生と当校の看板を背負って、海を渡ります!」。

 

呉藤教諭

「アジアクロスカントリーラリーのメカニックとして参加する学生は限られていますが、私たち教員もまた、メカニックとして帯同出来るのはわずか1〜2名程度なんです。貴重な経験を積むことが出来る場として、教師も参加させて頂いております。
私は2014年以来2回目の参加となりますが、それは我が校初のことなんです。当時は、私自身も舞い上がってしまい、毎夜帰ってくるラリーマシンをどう整備したか…など、ほとんど記憶に残っていません。
しかし、二回目の機会を頂いた今年は、後輩メカニックをリードして、チームに貢献したいと思っています!」。

 

4WDプロジェクト 西川社長(写真左)

「小谷副校長には、僕たちのチームメカニックに呉藤先生と学生をひとりをお願いしました。一日を終えた夜からが、彼らメカニックの仕事の始まりです。必要に迫られた時は、僕も手伝ったりするけど、学生は、たとえ作業が夜中まで続いたとしても『ご飯食べましょうよ!』と、とにかく底抜けに明るい。還暦を過ぎた僕たちに元気の源を分け与えてくれるんだよね。
そんな彼らとの挑戦は今年が区切りの年となるけれど、ラリーを終えたとき『来年もあったらええな!』って思えたら…。70歳になってナナマルで出場という夢を掲げたくなるようなラリーにしていきたいですね」。
 

あきんど号 辻本 隆氏(写真右)

「おかげさまで海外ラリーには多く参戦させてもらいました。僕にとってラリーは、これまで生きてきた証のようなものなんです。還暦を過ぎて西川さんを誘って、もう一度ラリーに挑戦が出来きたけれど、いよいよ今年がアジアンラリーに参戦する最後の年。これまでは上位を狙うことだけを考えて山本さんと走って来たけど、今年は、参戦し続けて良かったと笑顔が分かち合えるよなレースをしたいんです。そして目標は完走!することです。
日本に帰国して、もし走りたい虫が騒ぎ始めたら、今度はナナマルでの参戦もいいかな。僕たちの原点でもあるしね。生きて来た証をアジアの大地に置いてこようと思っています」。

 

あきんど号
いざ、灼熱の大地へ!

ドライバー:山本則博氏
コ・ドライバー:辻本 隆氏
チーフメカニック:西川和久氏
(4WDプロジェクト)
 
車両製作/メカニック
中央自動車大学校
https://cts.ac.jp/