【紹介/試走】ランドクルーザープラド・ディーゼルTZ-G

2015.10.16

    • 四輪駆動車
    • トヨタ

トヨタが満を持して放つ「次世代」ディーゼル

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現行プラドである150系のデビューは2009年。ラダーフレームやリア・リジッドサスといったヘビーオフローダーらしい基本構造に加え、フラッグシップである200系に先駆けてマルチテレインコントロールやマルチテレインモニターなどの意欲的なオフロードデバイスを採用して、高級SUV路線を取りながらも、オフローダーとしても更なる高みを目指したモデルだ。この150プラドのマイナーチェンジは2013年に行われており、フロントマスクやリアコンビネーションランプなどのデザイン変更やマルチテレインコントロールのモード追加などが行われた。

 

そして今回のディーゼルモデル追加となったのだが、これに合わせて2.7リッターガソリン(2TR-FT)モデルもエンジンの改良や6速ATの採用(従来は5速AT)などのブラッシュアップが図られている。従来型より走りがより洗練されているのは間違いないだろう。

 

話をディーゼルに戻そう。トヨタの乗用ナンバーディーゼルは、120系プラドの3リッター直4「1KD–FTV型」搭載モデル以来約7年ぶり。今回搭載されたディーゼルエンジンは、新開発となる2.8リッター直4の「1GD-FTV型」。トヨタが満を持して国内に復活させたディーゼルエンジンだけに、最新技術がてんこ盛りとなっている。

 

そのひとつが、「次世代高断熱ディーゼル燃焼」。1GD-FTV型では、ポート形状や燃焼室形状を最適化し、より高圧で緻密な燃料噴射によって、高温燃焼と低エミッションを実現。また、メイン噴射の前に、外気の状態に合わせた緻密なパイロット噴射を行って着火遅れ時間を短縮し、どんな使用条件下でも、効率的な燃焼と高い静粛性を維持できるようになった。また、ピストン上面を世界初の技術となるシリカ強化多孔質陽極酸化膜「TSWIN」でコーティング。TSWINはアルミよりも熱しやすく冷めやすい特性があり、燃焼時はより高温での燃焼を可能にし、吸気時はより冷えた空気を取り込むことができるので、熱効率が大きく向上するという。

 

また、トヨタ内製となる小型可変ジオメトリーターボチャージャーを採用。1KDのものに比べて30%の小型高効率化を実現し、高レスポンス化とパワーアップを果たしている。燃料噴射系はデンソー製だ。

 

トヨタのディーゼルエンジンでは初となる「尿素SCR」も採用された。これはBMWやメルセデスが採用しているものと同じだ。ディーゼルの排気ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)とPM(粒状物質)はトレードオフの関係にあり、エンジンの燃焼温度を上げればPMは減るがNOxが増加し、逆に燃焼温度を下げればNOxは減るがPMが増加してしまう。どのメーカーもPMとNOx両方を同時に減らすことに苦労してきた訳だが、トヨタは燃焼温度を上げることでPMを減らし、NOxは尿素と化学反応させることで減らす手法を選んだのである。もちろん尿素水は減っていくので補充が必要となるが、トヨタではオイル交換のタイミングに合わせて補充するのが理想的としている。

 

これらの最新技術が投入された1GD-FTV型のスペックは、排気量は2,754ccで、最高出力が130kW(177PS)、最大トルクが450Nm(45.9㎏m)と、パワー・トルク共に2.7リッターガソリンの120kW(163PS)、246Nm(25.1㎏m)を上回るパワーを発揮する。特にトルクの太さは圧倒的で、最大トルクの発生回転数は1,600〜2,400rpmと、ガソリンの3,900rpmと比べて大変低く、トルクバンドも広い。オフロード走行や牽引などで低速トルクが必要とされる重量級のオフロード四駆にうってつけのキャラクターである。もちろん、ユーロ6やポスト新長期規制もクリアしている。

 


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こうした技術の数々やスペックから、図太いトルク感を感じさせるマッチョなパワーフィールを期待してしまうところだが、実際に乗ってみると、パワフルさよりも大変スムーズなフィーリングが印象的だ。アクセルの踏み始めからグイグイと車体を押し出すような感じではなく、ディーゼルとしては軽やかな吹け上がり感を伴って非常に滑らかに加速していくのだ。新採用の6速ATは滑らかなシフトを行い、2.3トンの車体はスルスルと高速の制限速度に達するのだ。高級セダンから乗り換えてもなんの違和感もない、従来のディーゼルSUVらしからぬ洗練度と言えるだろう。

 

車内でのディーゼルノイズはよく抑えられており、高級SUVにふさわしい静粛性を備えている。アイドリング時はもちろん加速時までエンジン音が気になることはないが、加速時にステアリングにごく微かながら振動が伝わってくるのが最新のディーゼルモデルとしては少し残念なところ。また、車外のディーゼルノイズは、気になるほどの音色や音量ではないのだが、やや大きめに感じる。今回は音量テストを行っておらずあくまで筆者の主観だが、機会を改めてパジェロ、CX-5などと比較してみたいと思っている。なお、排気ガスはまったくの無色無臭で、最新ディーゼルのクリーンさを改めて実感できる。

 

先に最新技術がてんこ盛りと書いたが、トヨタ独自と言えるものはTSWINだけで、高度な燃料噴射制御や尿素SCRなどの技術は既に他メーカーでは実用化さているものだ。そういう意味ではこのプラド・ディーゼルは新生代ディーゼルのスタンダードとも呼べる内容と言っていいだろう。マツダのディーゼルは、低圧縮とすることで小型軽量化を果たし、尿素水の補充やフィルター燃焼などの後処理まで不要としているが、トヨタのエンジニアが言うには、燃料事情の悪いエリアまでカバーする必要があり、想像を絶するような道路状況で生活の足として使われているランドクルーザーには。低圧縮ディーゼルは向かないと考えているという。ランドクルーザーの名が付くモデルだけに、やはりエンジンも信頼性と耐久性を重視したものでなくてはならないのだ。トヨタでは新たなGD型ディーゼルを、従来のKD型に代わるものとしてワールドワイドに展開し、仕向け地の燃料事情に応じた触媒システムを採用してくという。具体的には、日本や欧州では尿素SCRとDPF、ロシアやオーストラリアではDOC(酸化触媒)とDPF、アジア・南米・中近東ではDPFのみが搭載されることになる。GD型は、世界のどこでも使えること、ヘビーデューティーであること、が前提となっているエンジンなのだ。

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ダートやオフロードでは、低速トルクが太い分ガソリンモデルよりも余裕を持って走ることができる。高級SUVライクなスムーズさが印象的と書いたが、決して低速トルクが細い訳ではなく、大きなギャップが続く路面など、アクセルをジワジワ踏む必要がある状況では大変コントロールしやすく、ディーゼルの恩恵が存分に感じられる。別のエンジニアによれば、エンジンやATのチューニング次第でもっと出足重視でトルクフルなフィーリングにすることは可能だとのことで、どうやらこの出力特性は、高級SUVらしさを重視した設定となっているようである。

 

試乗車のTZ−Gには、マルチテレインセレクト、クロールコントロール、電動リアデフロック、リアサスのハイトコントロールなど、オフロード走行支援デバイスが盛りだくさんなので、その気になればガソリンモデルを凌駕するオフロード性能を披露してくれるだろう。ただ、その気にさせてくれないのが、その価格だ。TZ−Gは今回からディーゼルのみに設定される最上級グレードであり、価格は約513万円。TZ-Gのみのオプション設定となる(つまり他グレードでは装着できない)マルチテレインセレクト+クロールコントロール+電動リアデフロックを装着すると、更に70万円以上高くなる。走破性は大幅に向上するが、オフロードカーとして本気で乗るには相当な豪気さが必要な価格だ。また、同じグレード(7人乗りTX・Lパッケージ)でガソリン車とディーゼル車の価格を比較すると、ガソリン車が約396万円であるのに対し、ディーゼル車は約470万円と70万円以上も高額だ。いくら燃費がよくて軽油の価格が安いといっても、ガソリン車との価格差を解消するには相当長く乗り続けなくてはならない。プラドのディーゼルはエントリーグレードの5人乗りTXでも約396万円とかなりのプライスだ。装備を大幅に省き、より求めやすい価格にしたディーゼルのスタンダードモデルの登場を望んでいる四駆ファンもかなりいるのではないだろうか。そんなモデルを、70系のように限定販売するのもアリだと思うのだが。

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新開発の1GD-FTV型直4DOHCディーゼル。排気量は2,754㏄で、スペックは最高出力130kW(177PS)/3,400rpm、最大トルク450Nm(45.9㎏m)/1,600〜2,400rpm。1KD型に比べ、ダウンサイジングを果たしながらパワーアップを果たしている。

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インテリアは従来同様。TZ-Gは本革、本木目がふんだんにあしらわれており、実に高級感あふれるものとなっている。

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ATは、ディーゼル、ガソリン共に5速から6速に多段化。マニュアル操作も可能だ。

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TZ-Gのみに設定されるマルチテレインセレクト+クロールコントロール+電動リアデフロック。約58万円のナビシステムと組み合わせて装着する必要があり、オプション価格はトータルで約70万円となる。

 

 

文/宮島秀樹、写真/佐久間清人