【紹介/試走】BMW X4 M40i

2016.10.15

    • プレミアムSUV
    • BMW

Mスポーツ以上、Mモデル未満

2016101502

M車が手掛けたMパフォーマンス
Mモデルに迫る高性能バージョン

2016101501

BMWが自社初のSUVであるX5を筆頭に、その後のX3、X1も含めてこれらを「SUV(スポーツユーティリティービークル)」とは呼ばず、「SAV(スポーツアクティビティービークル)」と称して、既存のSUVとは一線を画するクロスオーバー車であることをアピールしてきたことは、SUVファンには周知の通り。

 

そして、同じX系でもX6とX4はクーペタイプということで「SAC(スポーツアクティビティークーペ)」というキャッチフレーズで展開されている。

 

今回は、その最後発となるX4。系統的にはX6のスケールダウン版というポジションで、プラットフォームをX3と共有する。試乗車両は、今年1月の北米国際自動車ショー(デトロイトショー)でお披露目され、同月より日本でも販売が開始された、X4の最高峰に位置する「M40i」だ。

20161015032016101504

モデル名のMが示しているように、BMW M社がチューニングを手掛けるホットモデルだが、X5やX6に設定のある「Mモデル」や、Xシリーズ全てに設定されている上級グレード「M Sport(スポーツ)」とはまた異なるモデルだ。これは「Mパフォーマンスオートモービルズ」シリーズに属するモデルで、サーキット走行まで視野に入れた専用チューンが施されるMモデルと、標準ラインナップのトップグレードモデル「M Sport」との間を埋める高性能版拡販モデルである。具体的には、クーペのM3やM4に搭載されるエンジンと同じピストンやスパークプラグが使用され、鍛造クランクシャフトやオイルクーラー等のスペシャルパーツが多く採用された3リッター直6DOHCターボガソリンが搭載される。ベースユニットはxDrive35iに搭載されている3リッター直6DOHCターボガソリンだが、過給圧アップや吸気抵抗低減等によって最高出力260kW(360PS)、最大トルク465Nm(47.4kgm)を叩き出す強心臓に仕立て上げられている。

迫力のエグゾーストノート
専用チューンされたパワートレイン

一瞥しただけでも、左右に大型エアインテークが配置された専用デザインのフロントバンパーや、ブラッククローム仕上げの左右出しテールパイプ、フロント40%、リア35%扁平のロープロファイルタイヤ等がただならぬ雰囲気を醸し出しているが、エンジン始動とともにその異様な気配はピークに。そのあまりにアグレッシブな排気音に少なからず面食らう。最近はアフターマーケットのマフラーでもここまで甲高いサウンドを響かせるタイプは稀だ。しかし、その気にさせるエキサイティングな音質であることは確かで、熱狂的なBMWマニアがこだわる“シルキーシックス(シルクのように滑らかな直6)”の愉しさを何倍にも増幅してくれる…そんなエグゾーストノートと言える。

2016101505

専用チューンされた8速スポーツATは選択するドライビングパフォーマンスコントロールの走行モード(ECO PRO/CONFORT/SPORT/SPORT+)に応じて細かくシフトスケジュールを最適化するが、いずれも滑らかなシフトチェンジとパドル操作によるマニュアルシフトにリニアに反応する。低回転域から分厚いトルクを発生し、アクセルの踏み込み量に忠実に、瞬時に吹け上がり、ノーマルの35iとは異次元の加速を見せる。

 

意外だったのは乗り心地の良さで、タイトでありながら路面からの入力をやんわりいなす感触が絶妙。腰高なハイパワーSUVにありがちな不安感が全く感じられない、よく調教された脚ながら、この乗り心地の良さ、そのバランスが素晴らしい。「クァーーーーン、バババババ」(フルスロットルで加速後アクセルを戻したときの排気音)と、端から見ると賑やかだし、やや演出過多にも感じるが、その間も車内は実に落ち着いた雰囲気を保っている。純然たるMモデルとの違いは、この辺りの快適性の優先度合いにあるのだろう。

FRテイスト重視のxDrive
エキサイティングなSPORTモード

標準ラインナップ車のようにモデル名に入っていないが、4×4システムはもちろん「xDrive」だ。ただし、これにもM40i専用チューンが施されていて、後輪に多めのトルク配分が行われ、FRに近いフィーリングに設定されているとのこと。

 

ただし、コーナリング中も常に各種センサーが走行状態を監視し、4輪個別のブレーキ制御やトルク制御、そしてステアリングギア比制御が自動的に行われるので、FRに近い味付けだからといってオーバーステア気味な挙動を見せるわけでもなく、アンダーステアが発生してもすぐさま電子デバイスが介入して修正される。

 

言うまでもなくこの一連の制御はドライバーにはほとんど作動感を伝えないので、ドライバーは腕が上がったかのごとき錯覚に酔える…という寸法だ。

2016101506

2016101507

ワインディングでも、ショックアブソーバーの減衰力が最適に制御(ダイナミックダンパーコントロール)されるおかげで、ほどよいローリングが快適性を保ってくれる。「SPORT」あるいは「SPORT+」モードではエンジン回転が低く維持され、ステアリングも速く、重く変化し、脚まわりもハードな設定になるので、より俊敏なコーナリングが楽しめる。このようなステージでのSUV最大の弱点である重心の高さを全くと言って良いほど感じさせない秀逸な脚である。

快適性もしっかり確保
その気になれば省燃費ドライブも

日本仕様車は左ハンドルのみ、上級車種であるX5の35iに手が届く価格(876万円)と、場合によっては選択に悩ましさがつきまとう領域ながら、やはりここは単なる35iのハイパワー版ではない「Mパフォーマンス」に魅力を感じるか否かが選択のカギだろう。

2016101508

また、純然たるMモデルとは違い、日常に即した快適性を大切にしている点も、現実的な面では大きな魅力である。

 

燃費は純正ボードコンピュータによれば11.0km/lと、カタログデータ(JC08モード)とほぼ変わらない数値をマーク。高速や市街地ではECO PRO/CONFORTモードで省燃費運転を心掛け、ワインディングや郊外の一般道ではSPORT/SPORT+モードで積極的な加減速を繰り返し、3リッター・ガソリンターボで総走行距離約400kmの結果としては予想以上の好燃費だ。

 

 

ポルシェ・マカンGTSの対抗馬としてデビューは必然だった…というマーケット事情は別にしても、“日常”をキチンと意識したSUVのハイパフォーマンスカーとしては、大いに魅力的な1台である。

 

 

【細部写真】
2016101509最高出力360PSを5,800rpm、最大トルク47.4kgmを1,350〜5,250rpmで発生する3リッター直6DOHCガソリンターボエンジン。排気音は甲高く派手だが、メカニカルノイズは小さく遮音性能も高い。
【騒音計測データ】
●車内・・・・40.0dB
●ボンネット閉・・・・56.0dB
●ボンネット開・・・・65.0dB
※エアコンOFF、電動ファン非作動/アイドリング時。なお、当コーナーでの騒音計測は毎回微妙に異なる環境下(天候、気温や地形等)で実施されるため、計測値を他車と比較することはできません。

 

 

20161015102016101511上:お馴染みのシンプルなメーターパネル。最小限の液晶表示が逆に新鮮。
下:M40iは左ハンドル仕様のみの設定。ドライバー中心のレイアウトデザインに一種の安心感が。

 

 

2016101512トランスミッションは、Mパフォーマンス専用チューンを施したステップトロニック付き8速AT。レバー左のボタンで走行モードを選択する。

 

 

20161015seat専用デザインのフロントシートには電動調整式サイドサポートが追加されており、ホールド性能はすこぶる良好。

 

 

2016101515レーシーな雰囲気を盛り上げるアルミ製内装パーツが至る所に。フットレストもそのひとつだ。

 

 

20161015rear天井が低いため、荷室高はX3より低いものの、リアシートを全てフォールディングすれば、X3と同等のフロア面積が確保できるカーゴルーム。中央のシートスルーを使えば、4人乗車+長尺物積載も可能。ランフラットタイヤ装着のため、床下も収納スペースに使える。

 

 

2016101520HI/LOビーム、ウインカー、スモールライト・リング、フォグランプにLEDを採用した灯火類。ヘッドライトはバリアブルライトコントロール機能付きの「アダプティブヘッドライト」を搭載する。

 

 

20161015susフロント:ストラット(左)、リア:5リンク+コイル(右)のサスペンション。アダプティブ M サスペンションと呼ばれる電子制御式ダンパーは、1/1000秒単位で減衰力を自動調整し、最適化を図っている。

 

 

2016101523タイヤは(前)245/40ZR20/(後)275/35ZR20のランフラットタイヤを標準装備。

 

 

文/内藤知己
写真/佐久間清人