【紹介/試走】SUZUKI JIMNY 64 XC/後編

2018.8.9

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ライバル不在

発売から早1か月
既に発表前から吹き荒れていた“ジムニー旋風”は
予測どおり勢力を増す一方だ。
引き続き、メーカー主催による試乗会からのレポート「オフロード」編をお届けしよう。

文/内藤知己 写真/佐久間清人


オフロードでの実力は?
電子制御を使いこなすスキルも大切

さて、ここからはいよいよオフロード試乗コースへ。用意されたセクションは、林道、モーグル、バケツ、キャンバー、タイヤ越え、スロープの6セクション。
このうち林道、バケツ、スロープは、HDC(ヒルディセントコントロール)やHHC(ヒルホールドコントロール)システムを試すセクション。
モーグルとタイヤ越えは、ブレーキLSDトラクションコントロール・システムを試すセクションと設定されている。なお、主催者側の意向(ルール)により、セクション内での試乗は原則として全て4L走行で行われた。
 
まずは大きめのアップダウンが用意された林道(林間)コースで、HDCスイッチをONの状態でスタート。急勾配以外は路面に凹凸の少ないグリップ良好なフラットダートなので、2速発進で5速まで使用して走行する。ちなみにLoレンジ(4L)の5速は、大まかに言ってハイレンジ(2H/4H)の3速相当の減速比設定となっている。
 
途中の下り勾配(20度程度)では、HDCが作動するため一旦アクセルOFFにしたが、遅すぎるのでアクセルを踏み足して走行。この程度の勾配ならHDCを効かせるまでもないが、例えば路面が泥でヌルヌル…という状況なら、ABSの拡張機能とも言えるHDCは極めて有効と言える。
 
次にモーグル・セクション。ここはこの新型ジムニー最大のアピールポイントでもある「ブレーキLSDトラクションコントロール」の見せ場だ。
 


ご覧のとおり、コース中央を直進すると対角線上のタイヤが地面から完全に離れるため、通常ならココで前進不可能となる。ここで件のブレーキLSDトラクションコントロールが機能。空転輪に断続的にブレーキがかかり接地輪に駆動力が配分され、前進できる…というしくみだ。
 
この間のドライバーの操作は、ひたすらアクセルを一定に保ち続けるのみで前進可能。もちろん、実際のクロスカントリー走行では、最適なトラクションが得られる走行ラインを探るためのステア操作や、より強いトラクションをかけるためのアクセル操作は、安全のためにもやるべきだが、ウデに自信がなければ闇雲にこれらを行うより「アクセル一定で身を任せる」方が、効率が良い場合もある。そのような仮説が成り立つほど、このシステムの完成度は高い。と言うより、軽量なジムニーとの相性が良いと言うべきか。
 
このブレーキLSDトラクションコントロールは、4Lシフト時に最大の効果を発揮する(反応が早く、効果が強くなる)よう設定されているが、ハイレンジでも作動する。つまり、いかなる状況でもドライバーによる任意の解除はできないので、たとえ「電子制御など不要!」というベテランドライバーであっても、オーナーになる限りは、このシステムとうまく付き合っていく必要がありそうだ。
 
ちなみに、インパネ中央にあるESP OFFスイッチは「ブレーキLSDトラクションコントロール」の解除ではなく、“エンジン出力の最適化によるトラクションコントロール機能”を解除するためのスイッチなので、これをOFFにしても、ブレーキによるトラクションコントロールは有効だ。
 


次のバケツセクションは、下り急勾配(約30度)におけるHDCシステムの効果確認と、助走無し急勾配登坂を試すセクション。ここでも、先ほどの林道と同様、HDCは非常に簡単かつ安全に急勾配を下ることを可能にしてくれた。
 
なお、試しにHDCは使用せず、4Lの1速、ノーブレーキでも下ってみたが、充分なエンジンブレーキによって問題なく降坂可能だった。
 
この充分に低い減速比設定は、もちろん登坂でも有効。また、先ほどのモーグル・セクションでも極低速走行が可能で、クラッチの存在を忘れるほどの、言わば“AT感覚”でジワジワ前進可能だった。
 
助走距離の確保できないこのセクションの急勾配でも、グンと踏み込めば瞬時に立ち上がる低速ギアが有効に使えるので、安心して登坂することができた。一見当たり前なことだが、そんな当たり前のギア比設定を持つ現行型4×4は、残念ながら非常に少ないのが現状だ。
 


スロープ・セクションでは、15度程度の勾配の途中で一旦停止し、再発進時のブレーキホールドを行うHHCシステムを検証。ブレーキペダルから足を離しても最長約2秒間はブレーキングを維持する、どちらかと言えば「信号待ちからの坂道発進が苦手で…」というドライバー向けの機能だが、もちろんオフロードでも有効な場面はあるだろう。
 

逆に、オフロードで作動して欲しくない場面、つまりブレーキング後すぐに動きたいときなどは、前出のESP OFFスイッチを長押しすることで、このHHCは解除できる。
 

 


最後のタイヤ・セクションは、トラック用廃タイヤが埋め込まれた上り坂で、ここでもモーグルセクションと同様、4輪のいずれかが頻繁にグリップを失うため、ブレーキLSDトラクションコントロールが大活躍である。ただし、この手のセクションでは、腹下に廃タイヤを抱え込んで最悪4輪空転の恐れもあるので、「凹みは跨ぎ、突起は乗り上げる」の基本に則った走行ラインが肝心だ。
 
実際には、埋められた廃タイヤの突出量も小さかったため難なく走破できるステージだったが、ここでもブレーキLSDトラクションコントロールの効果は絶大だった。
 
というわけで、ひととおりの試乗コースを幾度か周回し、セクション間の移動時に2H/4H走行も試してみた。乾燥し、グリップしにくいフラットダートでの旋回時にはESPがテキメンに作動し、アクセルを踏んでもエンジン回転が上がらない…という不都合が起きるので、こういった場面ではESP解除は必須と実感する。
 


多くのメディアがこぞって紹介、賞賛している、この先進のトラクションコントロールシステムは、ジムニーにとって極めて効果の高い電子制御デバイスであることは間違いない。ただし、状況によっては「使わない」という選択肢も含めて、これをオフロードで使いこなすには、それなりの経験と知識の蓄積も必要であると強く感じた。
 
また、どんなにすぐれた電子制御システムを備えていても、結局は “極低速走行が可能なギア比設定”のような基本の部分が確保されていなければ本格的なオフロード走行は実質不可能と言える。そういう意味でも、このジムニーの基本性能の素晴らしさにはあらためて拍手を贈りたい。

※【紹介/試走】ジムニーJB64:前編はこちらをクリック