【BACKWOODS】 宮島秀樹

2015.5.15

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いまだ1日に30台も消えている。そこに新たな手口が…

4月15日付けの産経ニュースに『イモビライザー義務化検討』という見出しの記事が掲載された。その記事によると、『自動車盗難防止対策の強化に向け、政府が国内向けの新車について、盗難防止装置「イモビライザー」の装着を義務づける法制化を検討している』というのだ。そして『法令で装着が義務づけられている欧州連合(EU)諸国やオーストラリアなど海外の事例を参考に議論する。義務化が必要と判断した場合は、国土交通省が道路運送車両法など関係法令の改正に着手する』としている。同記事によれば、『平成25年の日本自動車工業会の調査によると、国内向けに生産された180車種のうち、標準装着や一部装着の車種は158車種にとどまっている。ただ、イモビライザーの義務化は自動車価格の上昇につながるため自動車業界や利用者の意見を広く聞き、イモビライザーによる盗難防止の費用対効果も含めて慎重に検討する』ということである。

 

やれやれまだ検討の段階ですか…、という感じである。4x4MAGAZINEが自動車盗難問題を最初に採り上げたのは、今から15年以上も前のことだ。新聞やTVを含め日本のメディアの中でいち早く自動車盗難の実態を報道、盗難車の海外流出ルートを解明すべく東南アジアや中東まで出かけて取材をおこない、各方面に問題提起をしてきたという自負がある。当時はランドクルーザー100の盗難が大問題となっており、2000年初頭ではランドクルーザー100を含む年60,000台以上という膨大な台数のクルマが闇へと消えていたのだ。その後、ユーザーによる車両盗難防止システムの装着やメーカーによる純正イモビライザーの採用拡大、また「ヤード」と呼ばれる盗難車の保管・解体工場に対する警察の取り締まり強化や輸出手続きの厳格化などによって、自動車盗難件数は確実に減少してきている。

 

しかしそれでも、昨年の自動車盗難認知件数は16,104台(警視庁統計)となっており、その内「キーなし」の件数は11,825台で、いまだに1日あたり30台以上のクルマがキーなしの状態で何者かに持ち去られているのだ。盗難台数の上位5車種は、プリウス(1,376台)、ハイエース(1,014台)、ランドクルーザー(645台)、キャンター(469台)、エルフ(575台)の順。やはり海外で人気のある高級車や高額な実用車がメインターゲットとなっているが、日本車はどんなモデルでも海外での人気が高いゆえ、どのユーザーの愛車も盗難の危険に晒されていると言っても過言でないだろう。イモビライザーの義務化はとっくに検討の段階ではないはずだ。

 

もっとも、純正イモビライザーを搭載していても100%盗難を防げる訳ではない。近年問題となった「イモビカッター」というイモビライザー解除装置を使用されたり、純正イモビライザーの物理的交換という荒っぽい手口を使われたりしてしまえば一巻の終わりである。

 

さらに悪いことに、つい最近になって新たな自動車窃盗の手口が発覚した。それは「キープログラマー」と呼ばれる装置を使って、キーのコードそのものを書き換えてしまうというものだ。本来はキーを紛失してしまった場合やスペアキーを追加する場合などで、新たにキーの情報を登録するための装置なのだが、これが悪用されてしまっているのだ。もちろん、車両側は正しいキーとして認識してしまうので、イモビライザーは作動しない。おまけに、ソフトウェア的な対策法や「イモビカッターガード」のような防止装置も、今のところないようなのである。

 

以前ネット上で大っぴらに販売されていた「イモビカッター」だが、愛知県などの自治体によって所持規制条例が施行されたこともあって、今は日本語ベースで販売しているようなサイトや業者はほとんど見つからない。しかし、この「キープログラマー」は大手通販サイトなどでガンガン売られているのである。これは大きな問題となる可能性がある。まずは、その使用実態を早急に解明し、場合によっては「イモビカッター」同様、対策・規制が急務となるはずだ。新たな手口の登場と円安を背景に、減少傾向だった自動車盗難件数が増加する可能性だってあるのだ。

 

4×4MAGAZINEが自動車盗難問題を採り上げた当初から、カーセキュリティーショップのエキスパートの皆さんは異口同音に「セキュリティー技術と窃盗手口のイタチごっこですよ」と言っていたが、この「キープログラマー」の件でもそれを痛感させられた。つまり、今の事態はイモビライザー義務化の段階をとっくに越えてしまっているのだ。盗難件数が多い車種のオーナーであるかどうかにかかわらず、まずはカーセキュリティーショップに相談することをオススメしたい。