【BACKWOODS】 宮島秀樹

2015.9.25

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一番注目されるフルモデルチェンジ時よりもマイナーチェンジ後の受注台数の方が3倍近くも多いということはあまり記憶になく、それも8割がディーゼルモデルだということで、やはりいかにディーゼルが待望されていたのか、いかにクロカン四駆ではディーゼルが人気なのか、が分かろうというものだ(現行パジェロ・ディーゼルが登場したときも販売台数の約7割がディーゼルだった)。

 

これで、かつて国内でディーゼル四駆を展開していた主要メーカーからディーゼルモデルが揃い踏みして、いよいよ面白くなってきたなと思っていたところ、日産はエクストレイルのラインナップからハイブリッドモデルの登場に合わせて、併売していた従来型のディーゼルモデルを外してしまった。これでディーゼル四駆を日本市場でラインナップしているのは、国内メーカーではトヨタ(プラド)、三菱(パジェロ、デリカD:5)、マツダ(CX-5,CX-3)となった。

 

また、欧州メーカーの日本市場向けディーゼル四駆は、BMW(X3、X5)、メルセデス(Gクラス、GLクラス、Mクラス)、ボルボ(XC60)、ミニ(クロスオーバー)と国内メーカー以上に充実しており、BMWとメルセデスはセダンやステーションワゴンのディーゼルモデルも導入している。欧州市場ではディーゼルがメインとなっていることもあり、以前から日本市場に積極的にディーゼルモデルを投入してきた。排ガス規制の強化とそれに伴うイメージ悪化によって乗用ディーゼルが壊滅的となっていた日本市場に、Eクラスのディーゼルモデルを真っ先に復活させたのはメルセデスであったのは記憶に新しい。こうした欧州メーカーのディーゼル攻勢は勢いを増しており、今年ボルボが一気にディーゼルラインナップを増やしたほか、今までディーゼルモデルのなかったフォルクスワーゲンやアウディも日本市場への導入を強く示唆している(アメリカにおけるフォルクスワーゲンのディーゼルモデルのガス検不正が大きなトピックとなっているが、これは別の機会に…)。ディーゼルについては「外熱内冷」といった感じの日本市場だが、CXシリーズの好調やプラドの登場もあって再び盛り上がりつつあるのは間違いない。

 

ところが先日、クリーンディーゼルモデルや電気自動車(EV)、PHEVの購入に対する補助金(CEV補助金)が、2016年度から半分程度に減額されるとの報道があった。時事通信によれば「クリーンディーゼル車は、1台当たりの補助額を現行の半分程度に縮小。EVは補助金の算出方法を変更し、支給総額を減らす」という。現行の補助金上限額が半額とされると、パジェロが14万円から7万円、CX-3が13万円から65,000円、プラドが24万円から12万円といずれも大幅な減額となり、ユーザーにとっては大幅な負担増となる。ただでさえディーゼルモデルはガソリンモデルよりも50万円前後価格が高いので、補助金の減額はかなりマイナスに働く要因となるだろう。いくら軽油がガソリンより安いといっても、このイニシャルコストの差を取り戻すのにかかる時間は今までより余計にかかってしまう。

 

もっとも、ディーゼルの良さは価格だけでは計れない。豊かな低速トルクはディーゼルならではの魅力だ。重量が重い上、けん引能力やオフロードでの粘り強い走りが必要とされるオフロード四駆には大変マッチングがいい。そして燃費が良いことも大きな魅力だ。例えばプラドTX2.7リッターディーゼルのカタログスペック上の燃費は11.8㎞/L。燃料タンク容量は87Lだから計算上では無給油で1,026.6㎞走れることになる。一方、プラドTX2.7リッターガソリンのカタログスペック上の燃費は9.0㎞/L。計算上無給油で走れる距離は783㎞となり、ディーゼルに対して250㎞近くも短くなってしまう。また、一般的にディーゼルエンジンは耐久性が高いので、長く乗り続けられることもメリット。排ガス規制の強化も当面はないだろうから、10年、15年と乗り続けることを考えれば、イニシャルコストの差は十二分に取り戻せる。特にオフロード四駆は低年式車でもリセールバリューが高いので、長く乗り続けることのデメリットは、10年落ちでまともな値段が付かなくなってしまうような乗用車よりも遙かに少ないと言える。

 

さて、CEV補助金減額の理由だが、同記事によると「環境対応車の普及が一定程度進み、販売価格も低下したと判断したため」となっている。ここで少し違和感があるのが「普及が一定程度進み」とされていることだ。少し前の統計になるが、平成25年度のEV(軽自動車含む)とPHEVの販売台数はそれぞれ約17,000台と約13,000台(次世代自動車振興センター調べ)。ハイブリッド車を主な対象としていた以前の「エコカー補助金」は平成24年9月に申請受付が終了しているが、同年度のハイブリッド車の販売台数は約85万台(同調べ)であり、この数字と比べればEVとPHEVの普及が一定程度進んだとはとても言いがたい。

 

ディーゼル車も同様だ。確かに今年になってからディーゼル車の国内販売台数は急増しており、今年上半期で8万台を超え(クリーンディーゼル普及促進協議会調べ)、昨年1年間の販売台数を上回ったという。しかし、上記のハイブリッド車の台数に比べれば遙かに少ない数字だと言えるし、昨年度の国産自動車販売台数は約286万台(自販連調べ)であり、その3%にも満たない台数なのだ。それも8万台の内訳の多くを四駆・SUVと輸入車が占めている。これでホントに普及が一定程度進んだと言えるのか? それにしても、何故このタイミングで補助金が減額されるのか? いろいろ邪推したくなるが、ディーゼルが好調なマツダと欧州メーカーにとってはかなりの逆風となるだろう。

 

近い将来にディーゼルモデルの購入を検討している人は、補助金減額までが購入タイミングのひとつとなる。予定を少し前倒ししてでも購入に踏み切った方がオトクとなる公算が強い。また、今までディーゼルモデルに興味がなかった人、嫌いだった人も、これを機会に最新ディーゼルの魅力を知って欲しいと思う。どのモデルも、ガラガラ音、黒煙、いやなニオイ、振動、遅い…といった、かつてのディーゼルのネガな側面はほとんど払拭されている。近くのディーラーにディーゼルモデルの試乗車があれば、是非一度乗って、その素晴らしさを体感していただきたい。

2015092501プラド・ディーゼルに対する「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金」(CEV補助金)の交付上限額は24万円。これが半減されてしまうのは、購入を考えている人にとってはかなりイタイ。