エコは新しいモータースポーツを生む! パイロット:塙 郁夫

2011.7.12

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    • その他

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別名「雲に向かうレース」と呼ばれる「パイクスピークス・インターナショナル・ヒルクライム」に、今年で3回目の挑戦となる塙選手。日本を発つ前には、塙選手自ら筆をとり、抱負を語ってくれた。「EVでPIKES PEAKを…」パイロット:塙 郁夫

 

「12分台を狙いたい」

 

塙選手が私たちのホームページで公約した通り、否、驚異的とも言える12分20秒084を記録。昨年、自信が打ち出した記録を57秒も大幅に短縮した。

 

今年89回目を迎えた「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」から凱旋帰国した塙選手より、編集部宛に手記が届いた。さっそく、塙選手の手記をご紹介しよう。

 

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「12分20秒084」これがエコタイヤを履いたEVのPIKES優勝記録。

 

「家電みたいなEVじゃ、車(レース)はつまらない」よく耳にする言葉だが、こんな事を言う人に限って、EVをよく知らない。車の楽しさは絶対的な速さだけじゃないが、こんな頭の堅い”車好き”を納得させるに十分なタイムだと思う。

 

今年、PIKESのトップセクションが全面舗装になったが、我々にとってより条件は厳しくなった。昨年、モーターの温度上昇により、最終セクションでセー フティーリミッターが作動してしまい、大きなタイムロスをした。だが、それでも完走できたのは、最終セクションがダートだったため、モーターの負荷が少な かった事が幸いした。

 

しかし、今年は舗装のハイスピードセクションとなり、モーターへの負担は倍増する。当然、昨年のデータを踏まえ、冷却システムは強化してきたが、残された ダートの路肩に、コンクリートの段差が造られたのと、路面が異常に滑る”ベアリングロード”になったため、昨年よりタイムが落ちる計算。

 

タイムアップを狙うには、このトップセクションでアタックが出来るかどうかに掛っていた。ここまでタイムを落とさず、どう力を温存するかが勝負の鍵を握る。

 

この状況下でタイムを出すには、徹底的なデータ解析による究極の「エコ速! 走法」の会得しかない。全域で大トルクを発生するモーターだが、その中でも効率の良い領域、悪い領域があり、トライビング次第でタイムは同じでも、発熱やバッテリー消費に大きな差が出る。

 

また転がり抵抗を極限まで減らしたタイヤには、独特の荷重の掛け方があり、ツボを掴めばタイヤを鳴らさず、素早いコーナリングが可能になる…。その 他、新しい発見が多く楽しい! 気合いやドライバーの腕だけじゃ、タイムは出ない、これって”リアル総合電脳ゲーム!? ” バーチャルに飽きたパソコン世代にはぴったりのリアルレース。これこそ新時代のモータースポーツじゃないか!! 結局、車は何になっても、いつの時代も我々を”ワクワク・ドキドキ”させてくれる夢の乗り物なのだ。(塙 郁夫)

 

p-03標高2,860mから4,300mのパイクス山頂へ一気に駆け上がるレース決勝は、一発勝負。今年で3度目の挑戦となる塙選手は、過去の経験がデータとし て蓄積されていた。とはいえ、今年のコースは、全コースの70%が舗装化されていた。手記にもある通り、舗装化により、ダート路面だった頃よりも大幅に コースが狭まり、コーナーがタイトになったという。さらに、舗装路には、多くの砂利も浮いていて、路面が非常に滑りやすくなっていた。

 

p-4全行程約20km、標高差1,440mのコースは、ダートの部分が残されているボトムと、ほぼ舗装化されたミドル・トップの3区間で構成されている。各セ クションを一日ずつ、3日間かけて練習走行が行われ、このボトムセクションでのタイムが予選となり、決勝では全行程(セクション)を一気に駆け上がり順位 が決する。決勝では、予選のタイムで出走順番がリクエスト出来るため、塙選手は、コースが比較的荒れていない4番目でのスタートを選択した。

 

p-05マシンには、昨年と同様にACPモーターと三洋電機製リチウムイオンバッテリーを搭載。一方、サスペンションには改良を加え、刻々と変化する路面を想定しながらプロトタイプのタイヤをチョイスした。

 

p-06EV量産車クラスには、日産リーフがエントリー。14分33秒でゴールしたチャド・ボート選手とお互いの健闘を称え合う塙選手。

 

P-07選手達の走りを観ようと、期間中、パイクスピークの街は観光客で賑わう。写真右下の男性が持っているパネルには、塙選手のサインが書き込まれている。レースに出場する選手達は、ファンサービスも大切にしている。

 

P-08「チーム・ヨコハマEVチャレンジ」がこのレースに持ち込んだ「ブルーアース・プロトタイプ」は4セット。昨年よりもタイトなコースは、タイヤへの負担も 大幅に増え、「タイヤの選定を極めて難しくした」という。しかし、塙選手のキャリアとエコ・タイヤの熟成を目指した「チーム・ヨコハマEVチャレンジ」 は、結果、わずか2年で塙選手自信が持つ、EVクラスの記録を2分30秒も更新した。

 

P-09来年は全コースが舗装されるというパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース。「目標は11分台。全行程が舗装路になることを考えると、よ りロードレース仕様のタイヤに合わせたマシン作りが要求されます。新時代のレースは、常に僕をワクワクさせてくれます」。塙選手の眼は、すでに来年に向け られていた。