オフロード・ドライビング講座 VOL.5

2017.7.10

    • 四輪駆動車
    • Jeep

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ロックステージ(岩場)

 

今回は、走り方のセオリーを知らずに軽い気持ちで挑むと、手痛いしっぺ返しを喰らう…と言うより、大きな代償を払わされる危険もある厄介なステージ、ロックステージ(岩場)に焦点を絞ってみよう。

 

なぜ厄介なステージかというと、ここでは相手が堅い岩だけに、ボディーや下まわりをヒットしたときのダメージが大きい、という点がまず挙げられる。当然、スタックした場合のレスキュー作業も慎重さが要求される場合が多い。

 

また、ここではエンジンパワーやサスの動き、タイヤのグリップ力など、クルマの性能に依存する部分が意外に少なく、走破のカギはドライバーの腕にかかっているという点もロックステージの特性だ。

 

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これまでこのコーナーで解説してきたステージでは、エンジンパワーやサス、タイヤの性能がモノを言うステージも多く、数々のオフロード向けチューニングや専用装備を施したラングラーTJにとっては有利なタスクと言えた。

 

しかし、今回のロックステージに関しては、ラングラーのエンジンパワーや装備がむしろ不利に働くケースもあり、これは逆に言えば「ノーマル車のほうが有利」という場面も少なくない、ということも示している。

 

それではさっそく、クルマの性能に頼らないオフローディングの典型例でもあるロックステージに挑んでみよう。

 

 

ロック/岩場

 

ひと口に“ロック”と言っても、岩の規模や状況で走り方は変わる。ここでは、巨大な岩が積み上げられたコースで行われる「ロッククローリング」競技のような規模ではなく、オフロードコースや林道ツーリング等で出会う涸れ沢程度の規模を想定して話を進めたい。

 

ロックステージでは、たとえオンロード寄りのタイヤであってもしっかりグリップするので(もちろんエア圧は低い方が有利。また、岩の表面に砂や泥が多く付着している場合は厄介なケースも)、泥濘地や砂地などのようにアクセル開度でグリップを調整するような走り方は必要ない。タイヤが浮いたり下まわりが引っかからない限りどんどん前進できるケースが多いからだ。ただし、一旦走行ラインを間違えると、一瞬にしてタイヤはグリップを失い、呆気なく前進を阻まれる。

 

デフケースやサスペンション系統、フレーム、燃料タンク等のいわゆる下まわりが大きな岩を抱えたり乗り上げてしまったりすると、ほぼ前進も後退もままならず、身動きできない状態に陥りやすい。いわゆる“亀の子スタック”である。ここが、ロックステージでの最重要ポイント。

 

この亀の子状態にならないための走り方は「凹み窪みにはタイヤを落とさず跨ぐ」がセオリー。つまり、大きな岩があれば「跨がず乗り上げる」これが原則だ。

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↑これは不適切な走行ライン例。大きな岩を跨ぐと下まわりをヒットしてダメージを負うリスクも。最悪の場合、乗り上げて4輪空転の亀の子状態に陥る。そうなったら自力脱出は困難だ。

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↑適切な走行ライン例。凹みは跨ぐ=凸部(岩)には乗り上げるのが基本だ。低いギアで極低速走行を心がけよう。

 

 

もちろん、これはあくまでも原則であって、全ての状況でこれを実践することは不可能だろう。乗り上げたら動いてしまうような岩なら避けた方が賢明だし、凹みに片側タイヤを落として走った方が安定する場合もある。

 

ただ、いずれの場合もあらかじめクルマを降りて、車両直前の地形(岩の配置)をある程度アタマに入れてから、低いギア(トランスファーに低速ギアがある車両ならLoレンジのLoか2ndギア)でゆっくり進むことが大切。前進が止まったとき、無闇にアクセルを踏み込んでタイヤを空転させたりすることも、多くの場合ムダな抵抗となる。

 

アクセルは右足の親指で操作する感覚で、岩に乗り上げる際に「チョンと煽ってすぐ戻す」あるいはマニュアルミッション車ならクラッチを「コツンと繋げてすぐ切る」といった操作がロックステージでのコツだ。基本的にグリップだけは良いケースが多いので、アクセルの踏みすぎには注意したい。

 

電子制御のトラクションコントロール機構が装備されている車両は、たとえタイヤが浮いて前進が止まってしまっても、アクセルを一定に踏み続ければそろりそろりと前進するので、トラクションコントロールが効く回転数を探りつつ、踏みすぎないよう気を付けながら…のアクセル操作を試みよう。

 

また、デフロック機構が装備されている車両の場合、デフロックの使用は慎重に。左右、あるいは前後の回転差補正(差動)を無効にするこの機構は、トラクションが高まると同時に直進性も極端に高まるので注意が必要。

 

特にフロントデフをロックすると、ステアリング操作はほぼ利かなくなる(ハンドルを回しても曲がらない)と考えた方が良い。滑りやすい地面なら強制スリップが起きてトラクションが逃げるが、岩はグリップが良いので逆に危険なケースもあることを覚えておこう。

 

なお、電子制御式4×4でよくある「4WD LOCK」という機構は、ディファレンシャルギアを機械的にロックするデフロック機構とは別モノで、単に駆動力の前後配分が50:50に固定制御されるだけなので、岩場では常にONでOKだ。

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アクセルには足をちょいと乗せて、親指で踏むと踏み込み量やタイミングを微調整しやすい。

 

 

冒頭で「ラングラーのエンジンパワーや装備がむしろ不利に働くケースもあった…」と記したが、もともとパワフルではあるが、パワーの出方が急激なパワートレイン特性を持つ4リッター直6ガソリン搭載のラングラーの場合、微妙なアクセル操作は苦手分野だ。低速トルクに

 

もうひとつは大径タイヤの装備。ブレーキがカチッと利かないことに加えて、事実上の減速比は高速化しているので、もう少し低速走行可能なギアが欲しいところ。

 

また、前後ウインチや、ヘビーで頑丈なリアキャリア等、装備の重さが身軽な動きを阻んでいるようで、今後の課題となりそうだ。「軽い」に優るオフロード性能はそう多くはないのだ。

 

(つづく)

 

 

文/内藤知己

写真/川上博司、佐久間清人

 

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