【紹介/試走】MITSUBISHI L200 TRITON 4×4
2015.12.11
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四輪駆動車
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三菱
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SUVの原点
スポーツするトラックの魅力
タイ生産の三菱製スポーツピック
かつては輸入されていたトライトン
「TORITON(トライトン)」の名称も古くから豪州マーケット等で使用されてきており、現在では生産国のタイを中心に広くこのモデル名が使われている。なお、本稿においては仕向地別の名称を区別せず、便宜上、すべて「トライトン」に統一させていただきたい。
さて、先般、試走レポートをお届けしたタイで生産されているパジェロスポーツ(日本未発売)の国内オフロード試乗会には、そのパジェロスポーツのベースモデルということでトライトン4×4の試乗車も用意されており、短時間ながら試乗することができた。
現在トライトンは、パジェロスポーツと同様、ヨーロッパ諸国やオセアニア、中南米など世界各国で広く展開されている。ご記憶の方も多いことと思うが、かつては日本にも輸入されており、2011年までは国内ラインナップに組み込まれていたものの、現在は販売されていない。
そして、現時点で日本での発売は予定されていないところもパジェロスポーツと同様である。
フルタイム4×4モデルもある
仕向地によってさまざまな仕様が
トライトンに搭載されるエンジンは、それぞれ国や地域の排気ガス規準や燃料事情等に左右されるため仕向地によって異なるが、今回試乗した南米のチリ仕様車には、4N15型2.4リッターMIVECディーゼルターボエンジンが設定されていた。
これは、バルブタイミングとリフト量を回転域別に制御するMIVECシステムや、タービン容量を可変制御するVGターボ等の先進技術が投入された最新型ディーゼルターボだ。チリ仕様では最高出力が152hp/3,500rpm、最大トルクは380Nm/1,500-2,500rpmとなっているが、仕向地やグレードによっては、同型エンジンでセッティングを変えたバージョンや、やはりパジェロスポーツと同様に6B31型3.0ッターV6 MIVECガソリンエンジンが搭載されるモデルもあるとのこと。
トランスミッションは、4速が1:1、5〜6速がオーバードライブというギア比設定の6速MTで、今回は試せないが高速道路での燃費向上に大いに貢献しそうだ。
4WDシステムは「イージーセレクト4WD」と呼ばれるパートタイム4×4で、センターコンソールに配置されたダイアルで2H/4H/4Lを切り替える方式。ローレンジ付きの2速トランスファーはやはりオフロードでは何よりも心強い。
これらも仕向地やグレードによって5速ATやフルタイム4×4システムである「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」が組み合わされる仕様もある。
このほか、試乗車両は4ドアのダブルキャブだったが、これも仕向地によって2ドアのシングルキャブとクラブキャブ、あるいはキャブシャーシが用意される。なお、いずれのボディーもキャビンの長さに関係なくホイールベースは3mとなっている。
ホンモノのLoレンジ装備!
3mのホイールベースには要注意
今回はオフロードコースのみの試乗ということで、最初からローレンジ、つまり4Lスタートとなる。
低回転からよく粘るディーゼルで、しかもMT車ということで4Lの1速が、低速ギアとして本来のパフォーマンスをキチンと発揮する。
アイドリングのままクラッチから左足を離してもエンストせず、まるでAT車のように多少の傾斜地でもジワジワ前進していく…そのくらい低速走行できるギア比設定だ。
最大で20度近い角度のある勾配を、さほど回転を上げることなくローセコ(ローレンジ/2ndギア)でトコトコと登る。ダブルウィッシュボーン+コイルのフロントサスはともかく、リジッド+リーフリアサスが凹凸によく追従しており、空荷ながら適度にしなやかな乗り心地で快適だ。電子制御のトラクションコントロール機構が無くても、アクセルワークとライン取りだけで充分なパフォーマンスを発揮してくれる。
ただし、3mのホイールベースは、想像を裏切らないレベルで小回りが利かないので、ステアリング操作の遅れは致命傷となるし、タイトターンや切り返しが必要な場所ではたっぷり汗をかくことにはなる。
急な下り勾配では、さらにその低速型の減速比設定が活きてくる。ファイナルギアと1速の変速比がやや高めな設定を持つパジェロスポーツのAT車でさえ、ヒルディセントコントロール機構が全く不要なほど充分なエンジンブレーキがかかる下り勾配だったので、それを上回る低速走行が可能なトライトンのMT車ではさらにゆっくりと安定したまま下ることができる…と思いきや、実際はエンジンブレーキが利きすぎて、グリップが確保しにくい路面では逆に不安定になるので、ここではシフトアップ。このテストコースの下り勾配では、ローレンジの2〜3速ギアが適切だった。
問題なくモーグル走行もクリア
進化を続けるリーフスプリング
人工モーグル・セクションでは、長いホイールベースが仇になるのでは? と気になったが、実際はさほど問題にならず、難なくクリア。
パジェロやデリカでは車体が大きく傾く地形だが、ここでは長いホイールベースがプラスに転じ、ホイールストロークの長いリアサスはタイヤをしっかりと接地させるので、車体の傾きに不安を感じることなく前進できる。
さすがに独立懸架の前脚はすぐに地面を離れるが、後脚がコレをうまくフォローしてくれるので、ここでも電子制御デバイスは必要性を感じない。オプションとおぼしきリアデフロックも、結局使うことはなかったが、これはこれでいざという時に頼もしい装備と言える。
非力ではないが、けっしてパワーとトルクを持て余すタイプではない2.4リッターMIVECディーゼルターボは実にコントロールしやすく、このようなモーグル地形では生き生きとするパワーユニットだった。何より、アクセル操作に対するレスポンスの良さと、フラットなトルク特性のなせるワザと言うべきか。
そしてもうひとつ。リーフスプリングとは思えないしなやかな乗り心地は、このときのオフロード試乗全体を通してちょっとしたオドロキだった。
こぶし大の石が散乱する凹凸の多いダートを、しかも空荷状態でそこそこ速度を上げて走っても、リアが暴れることもなく、突き上げや底づきによる衝撃もそれほど大きくない。
よく調教されたという印象であり、リーフ+リジッドもまだまだ進化の余地があるのだということを痛感した脚まわりである。
パジェロスポーツでも感じた「本格的にオフロードを楽しめる4×4」を、このトライトンではさらに強く感じた。そして、あらためてピックアップトラックのカッコ良さも再認識した次第。このことは、そもそもSUVの名車のほとんどがピックアップトラックから派生している…という事実と無関係ではないのかも知れない。
三菱に限らず、かつては商用車、実用車として以外にも日本にスポーツトラックというカテゴリーを根付かせようと目論んだ主要国産メーカーのすべてが、今では国内市場から撤退しているのは周知の通り。
しかし、トヨタ・ハイラックス、日産・ダットラ、いすゞ・ロデオ、マツダ・Bトラック(プロシード)、そして三菱・L200(ストラーダ、トライトン)と、今では信じられないほどの豊富な選択肢があった時代がまたやって来ることを切望するファンも、実は少なくないのではないだろうか。
【細部写真】
新開発の2,442cc 直列4気筒MIVECディーゼルターボを搭載。試乗した南米仕様は最高出力152hp/3,500rpm、最大トルク380Nm/1,500〜2,500rpmを発生する。MIVEC機構やVGターボを採用。
上:質感の高さと視認性が売りの2眼メーター。
下:インテリアはシックにまとまっている。写真は豪州仕様のディーゼルモデル。
イージーセレクト4WDの駆動モードはダイアルで選択する。つまり、シンプルなパートタイム4×4だ。
トラックには見えない車内。シートのホールド性、質感とも問題なし。クロカン車らしいアップライト・ポジションも魅力。
よく見ると複雑なラインを多用した凝ったデザインのリアビュー。
頑丈な閉断面シャーシーフレームを採用。フロントサスは、ダブルウィッシュボーン+コイル、リアサスはオーバースラング(車軸の上に板バネを乗せるレイアウト)タイプのリジッド(車軸懸架)式リーフスプリング。
純正タイヤは少しだけ細めの245/65R17サイズ。ホイールは17×7.5。標準グレードも同サイズだが、スチールホイールが組み合わされる。
文/内藤知己
写真/宮島秀樹