【紹介/試走】VOLVO XC90 T8 Twin Engine AWD
2016.6.10
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プレミアムSUV
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ヨーロッパ車
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新世代プラットフォームで刷新
全車2リッターエンジン搭載
ずいぶんデカくなったな…これが今年1月に発表、発売(日本)された新しいボルボXC90、2代目モデルの第一印象である。スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)と呼ばれる新世代のプラットフォームが採用され、ホイールベースも含めて全高以外は全て拡大されたそのボディーは、カタログに示される数値以上に旧モデルを凌ぐスケール感を有している。
また、フロントまわりが押し出しの強いデザインになったせいか、初代モデルにあった瀟洒で繊細なイメージがやや削がれた気もするが、リアビューは相変わらずひと目でVOLVOと分かる個性的なシルエットを踏襲している。
XC90の日本でのラインナップは、全4タイプ。2リッター直4ガソリンターボを搭載する「T5 AWD Momentum」、この2リッター直4ターボにスーパーチャージャーを追加した「T6 AWD R-DESIGN」「T6 AWD Inscription」、そしてさらにこのエンジンに電気モーターを加えてプラグインハイブリッドとした「T8 Twin Engine AWD Inscription」という内訳だ。グレード名が示すように、全車AWD、つまり4×4モデルという設定である。
ただし、今回試乗したT8は、前輪をエンジン、後輪を電気モーターで駆動し、それぞれをコンピューターが制御する4×4システムが採用されており、必要に応じて後輪へ最大50%の駆動力配分を行うT5やT6の電子制御4×4システムとは全く異なる駆動方式だ。
後輪へ駆動力を伝達するプロペラシャフトを持たない代わりにセンタートンネル部にはモーター駆動用の大容量リチウムイオンバッテリーが搭載され、スタート時にフル充電状態であれば、モーター駆動のみで35.4kmの走行が可能とされている。
試乗車にはオプションのパノラマガラスルーフやBowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム、電子制御式4輪エアサスペンション等が追加されており、まさにフル装備の最上級仕様。ただし、「インテリセーフ」と呼ばれる衝突回避・軽減フルオートブレーキシステムやインターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)、歩行者・サイクリスト検知機能等に代表される14種類の先進安全技術は、全車に標準装備となっている。
5つの走行モードを用意
後輪をモーターで駆動するAWD
このT8にはオプションのエアサス搭載に伴って、任意に選べる5つの走行モードが用意されている。
低燃費と排出ガス低減が最優先される「Pure(ピュア)モード」、快適な乗り心地とエンジン/モーターの良好な駆動バランスを考慮し、効率の良い充電を行う「Hybrid(ハイブリッド)モード」、パワフルなスポーツ走行セッティングに調整される「Power(パワー)モード」、滑りやすい路面でのトラクション確保を重視した「AWD(4輪駆動)モード」、そしてさらに電子制御LSD機能を作動させ、40km/h未満での悪路走行に対応する「Off Road(オフロード)モード」。
いずれも前後の駆動配分やエアサスによる車高および減衰力の調整、ステアリングレスポンス、ATシフトスケジュール、ブレーキ制御等が電子制御によって最適化される仕掛けである。
通常使用が推奨されるHybridモードやPureモードで市街地をおとなしめに走っている分には、エンジンはほとんど始動せず、電気モーターによる後輪駆動のみで静かに走行できる。”横置きエンジンなのにFR”という異次元的状況になるわけだが、もちろん何の違和感もない。
電気モーターの最高出力は87PSだが、発進時から最大トルクの24.5kgmが発揮されるため、この巨大なボディーを普通にスルスルと動かすことが可能だ。
アクセルを踏み込めば、いずれのモードでもエンジンがかかり、320PS/40.8kgm(最高出力/最大トルク)のエンジンパワーがこれに加わって、外観イメージどおりのパワフルなSUVへと瞬時に切り替わる。
平日は奥様が近所の買い物に使う程度で…というユーザーの場合、ガレージでの充電さえ怠らなければ、毎日乗っても給油は2〜3か月(あるいはそれ以上)に1回、なんていうケースも充分に有り得るわけで、そういう意味では、この手の輸入大型SUVの概念を覆すモデルとも言える。そもそもこのサイズでエンジンは2リッター直4のみ、という設定自体、驚きではあるが。
絶妙設定の8速ATを新採用
ワインディングが楽しい!
Powerモードにセットしてワインディングに入ると、2.3トンを超える巨体とは思えない軽快さが味わえる。車高が下がり、液晶メーターパネルに大型タコメーターが現れ、明確に体感できるレベルでサスのダンピングレートが上がる。ステアリングもクイックになるため、ステア操作にボディーがリニアに追従する感覚が心地良い。
8速ATのギアトロニックは、第6速が1:1で7〜8速がO/Dという設定。3〜6速がクロスしているため、極めてスムーズな細かいシフトチェンジが行われる。また、1速がATにしてはかなり低速寄りの設定となっているため、オフロード走行時にも使いやすい変速比設定だ。
最近では、明らかに高速時燃費を稼ぐためのAT多段化傾向(第5速以上は全部O/D…みたいな)が目立つ中、これは実用面で非常に意義のある設定であると思う。ただ、このギアトロニック、マニュアル操作がシフトノブのみで、パドルシフトが装備されていないのは少々残念だ。
オフロードも安定、快適
サスと電子制御デバイスの好マッチング
21インチホイールに40%扁平のロープロファイルタイヤを履くこのT8にとってオフロード走行は苛酷を極めるはずだが、走行モードに「Off Road」が設定されている以上、そのパフォーマンスを活かしたいと考えるユーザーが存在することを想定して、林道へ。
「Off Road(オフロード)モード」を選択すると、エアサスは最高レベルまで車高を持ち上げ、POWERモードと同様に液晶パネルはタコメーターに切り替わる。電子制御式LSD機能を作動させ、空転している側の反対側にトルクを配分する、という機能が積極的に行われる…ということだが、正直なところ、それが通常モードでも機能するトラクションコントロールとどう違うのかは体感できない。確認できるのは、多少タイヤが空転気味になるような地形にさしかかっても、瞬時にトラクションコントロールが作動して何事もなかったかのように安定したまま走ることができる…ということだ。
とりわけ、浮き砂利の多い滑りやすいダートなどでも、快適に安全に、ほぼ舗装路感覚で走ることができるのは、路面追従性に優れたサスと電子制御デバイス設定とのマッチングの良さであることは間違いないだろう。
車両価格はついに1000万円超(T8税込み10,090,000円)となり、ますますプレミアム路線に拍車がかかるXC90だが、それなりの進化はめざましく、また、VOLVOらしさを見失わない設計コンセプトは魅力。
XC90以外のAWDラインナップも選択肢の幅が広く、ディーゼルの導入等も含めてこれからの展開が楽しみなモデルである。
【細部写真】
前輪を駆動するエンジンは、1,968cc 直列4気筒DOHCターボガソリン(スーパーチャージャー付き)を搭載。最高出力235kW(320PS)、最大トルク400Nm(40.8kgm)を発生する。後輪を駆動する電気モーターは、最高出力65kW(87PS)/最大トルク240Nm(24.5kgm)を発揮。家のガレージで充電可能なプラグインハイブリッドシステムを採用している。
【エンジン騒音計測データ】
●車内・・・・40.5dB
●ボンネット閉・・・・60.0dB
●ボンネット開・・・・70.0dB
※エアコンOFF、電動ファン非作動/アイドリング時。なお、当コーナーでの騒音計測は毎回微妙に異なる環境下(天候、気温や地形等)で実施されるため、計測値を他車と比較することはできません。
上:走行モードや任意の切り替えによって表示が変わる液晶メーター。中央部にはカーナビ画面も表示可能。
下:質感の高いインテリアはボルボの最高級SUVならでは。本革ダッシュボードとウッドパネルはオプション。
トランスミッションは8速のギアトロニクス。マニュアル操作は、この”水中花”テイストの透明なクリスタル製ノブが付いたシフトレバーで行う
エンジン始動/停止はダイアル式スタートボタンで行う。走行モード選択はその下のローラー式ダイアルで。
インパネ中央に配置されるタブレット状のタッチ式スクリーン。カーナビ等、縦型スクリーンのメリットは多く使いやすい。
肌触りの良い高級レザー張りのシート。フロントシート(右上)は本格的なマッサージ機能付き。セカンドシート(左上)は3分割式で独立スライド&リクライニング可能。サードシート(下)は大人がキチンと座れるレッグルームを確保しており、補助席扱いしていないのが好印象。
3分割可倒式のリアシートが多様なシートアレンジを可能にしているカーゴスペース。荷室フロア下には、パンク修理セットやエアサス用コンプレッサー等が収まっている。
中央の水平線型LEDがデザインの要。ヘッドランプ内中央寄りに並んでいるLED球状のものはデザイン装飾で、点灯はしない。
専用電源から充電可能なプラグインハイブリッド方式を採用。フル充電で35.4kmのモーター駆動走行が可能。
フロントサス(左)はダブルウイッシュボーン式、リアサス(右)はマルチリンク式で、エアサスはオプション。
T8の標準タイヤは275/40R21サイズ。ホイールサイズは9.0×21。
文/内藤知己
写真/佐久間清人