トヨタ最新自動車情報〜TOYOTA 86
2016.11.28
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トヨタ
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かつてコンパクトスポーツカーに憧れた世代、乗って愉しんだ世代、そしてこれからスポーツカーデビューを果たす若者をターゲットとして、トヨタと富士重工業によって共同開発された、ハチロク。
そのコンセプトは、ピュアスポーツカーでありながら、乗る者を限定せず、誰もがクルマを走らせる歓びを存分に愉しめることにある。そんなハチロクに、ニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦などによって得られたピュアスポーツカーたる理想が、このマイナーチェンジでフィードバックされたという。果たして、その実力やいかに。
(文章:吉田直志/写真:山岡和正)
TOYOTA 86 初のマイナーチェンジ
まず、ハチロクをあまりご存知ない方に、その概要を少々説明しておこう。簡潔に述べると、2012年にデビューした、FRレイアウトを採用し、低重心をアドバンテージとする水平対向エンジンをフロントミッドシップに搭載した、コンパクトスポーツカーだ。手を伸ばせば買える価格帯を実現し、最近では希有となったFRスポーツカーであるばかりでなく、多数のアフターパーツがリリースされていることによって、走り好きにはたまらない存在となっている。
さて、そのハチロクが16年7月、デビューから5年目を迎えてマイナーチェンジを行った。
内容は、エンジン、シャーシーの改良によりスポーティーテイストを大きく高めたこと、スポーティーかつ空力性能向上するエクステリアデザインの採用、さらにスポーツカーらしいコクピットイメージの演出など、多岐にわたっている。
特にエンジンについては、MTモデルの吸排気系を改良して(最高出力は従来比+7PSとなる207PS、最大トルクは従来比+7Nmアップの212Nm)、低回転域からのトルクを高めつつ、アクセルレスポンスを引き上げており、扱いやすさを損なうことなくスポーティーさをハイバランス。
シャーシーはサスペンションのセッティングの見直しが行われ、スポーツカーに求められるハンドリングを高めながら、一方で、快適性を語れる乗り心地を手に入れている。
エクステリアは空力性能を向上させるデザインとアイテムを採用し、タイヤ接地性から回頭性まで向上させ、さらに今回取材したGTリミテッドにはウイングタイプのリアスポイラーを採用するなど、さらなる空力性能の付与によってスポーツカーたる走行性能を引き上げているという。
インテリアは、コクピットの雰囲気を高めるべく、トヨタ車最小径となる362mmφのステアリングホイール、新デザインのメーター&マルチインフォメーションディスプレイを採用。スペシャリティーテイストを求めたGTリミテッドは、インパネやトリムにグランリュクス(スエード調の人工皮革)を採用し、さらに本革とアルカンターラのコンビネーションシートを組み合わせるなど、まさに特別な空間に仕立てている。ちなみに、インテリアカラーは基本的にブラックとなるが、レッド&ブラック、タン&ブラック(撮影車)も用意されている。
よりスポーティーかつ優雅に進化したハチロク
試乗して、まず感じたのは、”意外にも扱いやすいこと”だ。これは誰しもが驚くことであり、それは普段スポーツカーに乗り慣れていない四駆ユーザーとて感じ取れるものだろう。
今回のマイナーチェンジの内容から、スポーツカーにイメージするようなスパルタンさが強められたような印象を受けるかもしれないが、実際には、クルマとしての基本性能を高めることに主眼が置かれ、その結果、対話性を含めたスポーティーテイストまでブラッシュアップさせたといった印象を受けた。
シートポジションは、アクセルを上から踏み込むのではなく、足を前方に投げ出し、シートバック全体に背中を押し付けるようにもたれるもので、やはり四駆とは少々異なる。
しかし、すっと手を前に出すとそこにはステアリングがあり、左手でシフトレバーを操作しようとした先にシフトレバーがある…といったように、あくまでも“自然”なスタンスで迎えてくれる。
発進しようとアクセルを踏み込みつつ、クラッチペダルをゆっくりと戻していくと、すんなりとクラッチミート。言い方は乱暴だが、エンジン排気量がもたらすトルク量でクラッチを繋いでしまう四駆、たとえば、昨今でいえば、ナナマル(ガソリン・MT)と比較すると、ハチロクの発進ぶりはまさに上品さに溢れている。それは、誰しもクラッチミートに不安を感じさせることがないほどのものでもある。
そのジェントルな印象は走り出してからも変わることはない。接地感を増したシャシーフィールと、低回転域のトルクを増やしたエンジンによって、発進加速においては滑らかかつ上品さを手に入れており、同時にレスポンスについても感心を覚えた。それはレスポンススピードが詰められた(鋭くなった)というよりは、アクセルペダルの踏み込み量に対して、より極め細やかさを高めたといった印象であり、過敏に反応するといった唐突感とは異なるもの。
そんなジェントルテイストに感心しながらも、意識的にアクセルを踏み込んでいけば、それに応じてパワーが立ち上がり、回転数を増していく毎に刺激は高まり、最高出力に達する7,000回転を超えて、レッドゾーンが始まる7,500回転までパワーがどんどんと上昇していく。
今回のマイナーチェンジで、MTモデルはエンジンのパワースペックが高められているが、それはパンチの効いたフィールというよりは、トルク感であったり、扱いやすさといった方向に強く表現されている。
そして、何よりも感心したのがハンドリングだった。これは、サスペンションのバネレートや減衰力といった一部の改良だけではなく、ボディーとシャーシーにおける剛性感まで引き上げられたことによって得られたもの。
そもそも、高められた接地感によって直進性も引き上げられているのだが、さらにコーナーにおいてステアリングを切り足していく際、タイヤのグリップ感がすこぶる高く、そしてそれが分かりやすくなっている。そして、わずかに切り足したところから発生するグリップ感は、操舵角が増すにつれて高まっていき、そこに対話性を感じ取れるようになると、ドライバーは安堵感に似た信頼性を覚えるはず。
今回、クローズドコースでテストする機会はなかったが、つぶさに伝わってくるグリップ感からグリップ限界を超えた先のコントロール性もすこぶる高いだろうことも容易に想像がつく。
それでいながら、乗り心地がしっかりと確保されている。それは、路面からの入力に対して衝撃の角を確実に取り除いているだけではなく、一連のリバウンドストロークに精密さを与え、そしてなだらかに整えることで、突き上げを感じさせないもの。スポーツカーを名乗るポテンシャルを持ち合わせながら、誰でも扱える、そして、快適に乗れる性能をハイバランスさせていることに、ただ感心を覚えた。まさに誰でも存分に愉しめるスポーツカーを名乗るに相応しい性能を得ていた。
ハチロクは、吊るしで十二分に愉しめるモデルだが、多く揃ったアフターパーツによって自分なりのカスタマイズを存分に愉しめるモデルでもある。そして、四駆ユーザーにとってはその対極のモデルであることからも、是非とも、セカンドカーに欲しくなる、そんな魅力も備えていた(もちろんファーストカーでも!)。