“経験”という宝石 〜アジアXCラリー取材記〜

2011.8.1

    • タイヤ
    • トヨタ
  • ラリーとは不思議な魅力を秘めた競技だ。ドライバーひとりだけでは進むべき道もわからず、助手席に座るナビゲーターと二人三脚で走らねばゴールは見えてこない。スタート前に与えられるのは、約束の時間と、行き先がコマ割りの図形と距離で示されたルートマップのみ。そのマップからある程度の情報は読み取れるものの、どんな景色のところを走るのか、どんな路面でどんな危険があって、どんな美しいところなのかは、実際に行ってみなければ分からない。


0807Yokohama23こんなミステリアスな競技が他にあるだろうか? 時に迷い、時にケンカし、仲直りして、自分の意見を押し通したり、パートナーの意見に従ったり、運転席と助手席というほど近い空間の中で、お互いをよく理 解して、信頼しながらライバルと戦う。多くの場合、ライバルは自分の心の中にいたりする。忙しいコンクリートジャングルの中では仮面を被っている自分の本 性が、野生の中で呼び覚まされていく。それを自分で御す楽しみ。パートナーに御される驚き。

 

ただ速く走るだけではクルマを壊し、ただ慎重なだけでは約束の時間に間に合わない。やみくもにライバルにかみついて自分を見失えば、一瞬の後に、クルマが 転がっていたりする。何を目標に、何を自分に課し、どう自分を戒めて、どう自分を褒めるのか。そして愛すべきマシンとどう付き合って、どう壊し、どうケツ を拭いて、どうお金を払うのか。1回のラリーそのものが、まさに人生の縮図。

 

そんなラリーが、激しくも美しい南国の大地で行われる。一度踏み込めば抜けられぬほどの魔力を秘めて、手招きして呼んでいる。その名は「アジアクロスカン トリーラリー」。今年はどんなドラマが起きるのか、参加者の数だけ生まれドラマを、ファインダー越しに少しだけ覗いて見よう。

 

今から4年前。2007年のアジアクロスカントリーラリー記事。その書き出しだ。我ながら熱い。でも’02年から4回通った同ラリー取材を経て、その特徴をよく表していたと思う。

 

僕にとってクロスカントリーラリー取材は心を熱くさせるもの。魂をゆさぶるもの。10日ほどの取材で得られる一体感と感動は言葉で言い表せないほどだ。

 

それを言葉にどう紡ぎ、どう見せていくか。いつも悩む。しかも、しがらみなく好きに書けるユニットだけに後回しになる。だからいつも締め切り間際になる(笑)。眼前に広がる白紙の海。そして校正記事の山。

 

でも、書き始めるうちに頭がキンキンに冴えてくる。ラリー直後の感動が蘇ってくる。締め切りのプレッシャーで弱いお腹が下り、トイレ通いが頻繁になるが、実はこれほど書き手として幸せを感じる時はない。

 

0811Yokohama07そして今年、久し振りに時間をつくることができた。9年目にして5度目の取材。ゴールは初めて取材した’02年と同じ。世界遺産のアンコールワット。世界史とクルマが大好きな私にはこたえられない魅力だった。

 

さて、このアジアXCラリー。初開催は1996年に遡る。毎年タイを基点に開催されているが、これまでにタイ、マレーシア、シンガポール、中国、ラオス、 ベトナム、カンボジア、ミャンマーなど8カ国を歴訪。その名の通り競技中に国境を越え、各国と親善しながら走れるのもこのラリーの大きな魅力となってい る。

 

0806Yokohama422011年のスタートは8月6日。パタヤ出発後4日間をタイ国内のコースでこなし、5日目にカンボジアへ越境。最終日はアンコールワット西大門にゴールす る。総走行距離1,430km。うちSSは800km。南国リゾート、パタヤの繁華街を出発。野を駆け山を登り谷を越え、ジャングルを抜けたかと思えばヤ シやゴムのプランテーションの中も走る。カンボジアに入れば青々とした田園の中を全開で駆け抜ける。日本では絶対に味わえない南国の景色と文化、そして路 面の変化を堪能しつつ走れるのだ。

 

0808Yokohama22でも、口で言うほどたやすいものではない。極悪マッドにロック地形、ハイスピードダートに渡河ポイント。サーキットの競技と違い、ありとあらゆる路面が選 手達を待ち受ける。しかもこの季節、タイは雨期まっただ中。普段ならカチカチのダート道もスコールが降ればヌタヌタの極悪路に。川は勢いを増し、山肌を縫 う道は転落の恐怖との戦いになる。

 

0808Yokohama37そんな中、選手達は前日に渡されるルートマップだけを頼りに6日間を走り抜く。ダカールラリー同様、事前のレッキは一切なし。天候によって道が変わり果てることなど日常茶飯事。スタックやミスコースの危険性はそこかしこに転がっている。

 

自分の目指す目標に向かって毎日を精一杯走る。一般車では到底走れぬ悪路を駆け、暴れるマシンを御しながら、長丁場を戦い抜く。四輪駆動車にとって、こんなに素晴らしい競技があるだろうか。この最高の贅沢を、今年も4チーム5台の日本人が参戦してきた。

 

0806Yokohama23今年の目玉は、なんと言っても哀川翔さんの参戦。ナビはお馴染み、WRCで活躍中の奴田原選手。チーム名は「フレックス ジオランダー ショウ・アイカワ ワールドラリーチーム」。全国でランクルやハイエースの新車・中古車販売を展開する「フレックス自動車」と「ヨコハマ」がメインスポンサー。

 

D63F99906月に行われた参戦発表会では、まだ見ぬジャングルのラリーに「転けないように走りたい(笑)」と素直な「恐れ」も口にしていた哀川さん。でも「ラリーこ そ、マシンと人間が泥臭く関わり合うエンターテインメント。クルマの持つワクワク、ドキドキ感を伝えるにふさわしいモータースポーツだと思う」というコメ ントは嘘ではなかった。撮影中にラリーに魅せられ、ラリーに憧れ、自らラリーに挑戦した、という哀川 翔さん。彼は6日間のラリーを初出場チームの鏡といえるような走りで戦い、そして完走した。

 

0811Yokohama28また、車椅子のラリースト青木琢磨がいすずD-MAXで5度目の挑戦。ランドクルーザー80のベテラン「チーム九州男児」や国内オフロード競技の優勝者 「チーム トライアングル ジオランダー」も参戦。忘れてはならないのが、哀川/奴田原組を影で支えたFJクルーザー2号車のふたり、山本/辻本組だろう。

 

0806Yokohama27例年と違い、私も興奮冷めやらぬ頭のまま、毎夜の選手インタビューを交えながら現場アップしていったので、臨場感はタップリあると思う。

 

0805Yokohama22特に、アジアXCラリーに興味がある方は、最終日「LEG6」に記した「アドベンチャークラス」のくだりを読んで欲しい。なぜならこのクラス、10万円で 本格四駆のレンタカー付きのホテル代付き(2011年実績)。競技こそしないものの、毎日のスタートとゴールは同じ。コンペティターと同じリエゾンをこな しながら、時にSS内をコマ図を用いて本格的走ったり、スタックしたり脱出したりしながら6日間のラリーを間近に感じることができる。おまけにタイやカン ボジアの景色や食事は楽しみ放題、とオフロード好きやアジア好きには毎日がパラダイスのようなパッケージだ。我と思う方は、来年ぜひチャレンジしてもらい たい。

 

adventure_class_together実を言うと私も最初のアジアXCラリー取材後、出場への夢を見ていたクチだ。当時そんなクラスはなかったが、その時期ラリーを席捲していたビークロスを買 い、ジオランダーA/Tを履いてダート競技に首を突っ込んだりしていた。でも、このクラスはそんな夢を簡単に、そして安く実現してくれる。

 

0805Yokohama03-ちなみに、以前はドライ時にジオランダーA/T、ウェット時にジオランダーM/T。どちらの条件も1本でこなすならジオランダーM/Tというのが定石だっ た。でもM/Tがマイチェンで「M/T+」になるとドライ・ダートのコントロール性や耐久性が向上し、現在はM/T+だけで全日程を走り切る選手が多い。 今年は、唯一青木拓磨選手が初日のターマックでジオランダーA/T-Sを利用した。その結果、今年はジオランダーM/T+を装着した日本マシン5台全てが パンクなしで全日程を走りきった。

 

0805Yokohama05-最期に、アドベンチャーラリー参加に際して、ひとつだけ忠告しておこう。ラリーは人生の縮図。アドベンチャークラスといえ、そこから得られる経験は人に よって違ってくる。同じように参加しても、誰もが楽しめるとは限らない。いつも受け身の人生なら受け身なりに、いつも被害者の人生なら被害者なりの結果し か得られない可能性が高い。

 

結局、全ては自分次第。その覚悟なしにあわてて参加しなくてもいい。少なくとも自分の中で行きたい! という気持ちが少しでもわき上がるのを感じてからエントリーして欲しい。

 

人生は、そしてラリーは自分で切り開くもの。傾けた情熱の分だけ、”経験”という素晴らしい宝石が手に入る(河村 大)。

 

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