YOKOHAMA GEOLANDAR SUV ジオランダー初の低燃費タイヤ

2011.12.27

    • タイヤ
    • その他
  • 文/河村 大、写真/桜井淳雄


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第5のジオランダーモデル

B22D0614-thumb-200x495-6674信州は八ヶ岳。まだ緑美しい初秋のワインディングを2台のSUVが静かに駆け抜けて行く。発売直前のタイヤの評価。いったいどんな表情でどんな性格なのか。それはユーザー同様、我々ジャーナリストにとってもワクワクする瞬間なのだ。

 

新しいヨコハマのタイヤ、その名を「ジオランダーSUV」という。ジオランダーはこれまで、M/T(マッド テレーン)、A/T(オール テレーン)、H/T(ハイウェイ テレーン)、I/T(アイス テレーン)といった4種のタイヤに、それぞれ機能を表す名前を付けてきた。が、今回は違う。オンロード用だがH/T-S の後継モデルでもない。並列で販売される”第5のジオランダー”というわけだ。

 

では、”SUV” という言葉に込められた想いとは何なのか?

 

試乗車は RAV4 と X-TRAILのガソリン車。共に国産コンパクトSUVを代表する4×4だ。コマーシャルのお陰で、X-TRAIL のほうがアクティブなイメージで見られるが、どちらもよく似た素性。4ドアのモノコックボディーに横置きエンジン。FFベースの駆動系で通常はほぼ前輪駆 動。発進・加速時や滑りやすい路面、コーナリング時に駆動力を後輪にも配分する。

 

明らかに違うのは外装や内装。特にX-TRAILは初代モデルで若者をターゲットに据え、快適性より実用性、豪華装備より価格を優先した道具感あふれるクルマだ。2代目はだいぶ大人びたコンセプトになったとはいえ、その伝統は生きている。

 

そのX-TRAIL、基本性能はナカナカのものだが、防音や制振の面でやや妥協したのか、この辺りは老舗のRAV4に劣っている。ユーザーがそれに気づくのは恐らくタイヤをオートバックスなどで交換した時だろう。

 

特に、H/T系やA/T系タイヤを履かせると少なからず「ウチのクルマこんなにうるさかったけ?」となりがちだ。頑強なフレームにブ厚いゴムブッシュを介 してボディーを載せているクロカン4×4ならいざ知らず、モノコック車はタイヤパターンや路面の影響を車内騒音として受けやすい。騒音対策は逆に難しく なっている、とも言えるのだ。

 

まあ、音は慣れてしまえばさほど気にならなくなるのも事実だが、純正タイヤが一番静か、という状況はユーザーにとっても決して面白いものではない。

 

BlueEarth-thumb-200x133-6632今回用意された ジオランダーSUV はまさにそんな不満を解消するべく、SUVの純正リプレイスタイヤ市場を本気で狙ったもの。「静か」なのはもちろん、エコで「低燃費」。ジオランダーとし て初めて「ブルーアース」のマークも彫り込まれた。これは、ヨコハマの乗用車系タイヤの中でも環境に配慮されたタイヤにのみ採用されていたものだ。

 

さて、このジオランダーSUV 、最初にお披露目されたのは12月1日、東京モーターショーでのことだった。ヨコハマのブースでご覧になった方も大勢いらっしゃったろう。ちなみに私は最 初に出会った時に少なからず「物足りなさ」を感じていた。これまでのジオランダーは全てアグレッシブな表情が与えられ、実際に優れたオフロード性能を持っ ていたからだ。

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だから今回のタイヤはエコエコと言われる今ドキの安売りタイヤ同様、転がり抵抗が少ないけどスポーツ性能もスポイルされたもの、ジオランダー伝統の牙を抜かれた安価モデルとして理解してしまったのだ。

 

が、それは全くの勘違いだった。実は、「グリップ力」も「操縦性」も「安定性」も「制動力」も「雪上性能」も全てH/T-Sを越えている。ダート性能もドライ路面ならH/T-Sを越え、唯一マッド地形のみH/T-Sに敵わないという。

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いずれにせよここまでの説明で、ジオランダーSUVのオンロードを主体とする味付けは大体ご理解いただけたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さまざまな試験で性能アップを実証

まずは、H/T-Sと比べた性能評価を見て欲しい。ころがり抵抗が16%低減されたにも関わらず、ドライ制動、ウェット制動、スノー制動、アイス制動が全て向上している。

 

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ロードノイズもパターンノイズも、車外の通過騒音も全て静かになっている。操縦性、安定性もドライ時、ウェット時両方で向上。「では、林道やダートではど うですか?」と開発者に聞いたところ「グリップ性能が向上しているのでラップタイムは短縮されるでしょう」とのこと。その代わり「横溝が細いので泥が詰ま りやすく、マッド性能は期待できません」とのことだった。

 

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オンロードはもちろん、アイスもスノーもドライダートも性能が向上する。これは、コンパクトSUVに乗るユーザーが日常出会うほとんどの状況下で恩恵が得られることを示している。

 

実はこのタイヤ、ヨコハマ の世界戦略の中でかなり重要な役割を担っている。ご存じ ジオランダー ブランドはオフロードタイヤとしては最後発。にも関わらず国内でトップシェアを得るに至ったこの10年余りの歴史はクロスカントリー4×4ユーザーならよくご存じと思う。

 

同じ時期、ジオランダーは世界市場でも新車の純正装着タイヤが好調。今ではメジャーブランドにまで成長している。この場合、採用されるのはほとんどがH/T-S。オンロードを重視したものばかりになってきている。

 

加えて、近年はコンパクト系やクロスオーバー系SUVが激増。もともとフレーム付きで重心高の高い重量級4×4をメインターゲットにしていたジオランダーも、軽く、重心高も比較的低いモノコックSUVを切り離して対応する必要性に迫られていたという。

 

そして今、 “エコ” へ一直線の時代背景。ならば同じオンロード用でもハイグリップなスポーツタイヤより、SUVの常識を変えるエコで静かなタイヤ。そしてジオランダー伝統の 走破性も考慮した新タイヤを創り出そう、というのが開発のきっかけだったという。もちろん、その対象はシティー派SUV。”SUV”というネーミングに は、クロカン4×4とは明らかに違う新しいカテゴリーを指し示す、強い意図があったのだ。

 

従来までのジオランダーがオレンジをイメージカラーとしていたのに対し、ジオランダーSUVはブルーを基調としたイメージカラーを採用した。

従来までのジオランダーがオレンジをイメージカラーとしていたのに対し、ジオランダーSUVはブルーを基調としたイメージカラーを採用した。

 

最新のテクノロジーが生んだ環境技術

では、ころがり抵抗が少なくなっているにもかかわらずグリップが向上したのはなぜなのか。なぜ静かになったのか。なぜスノー性能やアイス性能がアップしたのか、その辺りを分かりやすく解説していこう。

 

まず注目したいのは、このタイヤが乗用車系の「ブルーアース」の環境技術を元にしたという点だ。そして、このブルーアースのコンパウンドの基幹技術となるのが「ナノブレンドゴム」。これは簡単に言えば「材料をうまく配合する技術」なのだという。

 

例えばシリカ。シリカはカーボンに比べて発熱性が低く、低燃費に役立つ物質だ。おまけに路面との摩擦力も高く、温度による硬さの変化も少ない。特に濡れた 路面でのグリップ力も向上させる。つまり低燃費とグリップを両立させた上、高温時には高い操安性を、低温時でもタイヤ表面の柔らかさを保ってくれるのだ。

 

Nano-thumb-200x133-6635ただし、このシリカを配合すること自体は、もはや世界のタイヤメーカーの常識。ヨコハマのアドバンテージはその配合技術にあるという。分子レベルで可能な 限り化学反応を促進させ、分子をたくさん繋げたり、ひとつのシリカとゴムに対して4つも5つも化学反応させたりして、入れた材料に最大限の性能を発揮させ るようにしているのだ。

 

でもこれだけではシリカの特性上、摩耗に弱いタイヤになってしまう。かと言って従来の乗用車用コンパウンドではSUV用として不満が残る。そこでジオラン ダーシリーズの技術も応用。SUVの車重にふさわしい耐摩耗カーボンや耐摩耗ポリマーを配合することでその問題を解決している。

 

加えて、低温時にゴムのしなやかさを保つヨコハマオリジナルの技術として「オレンジオイル」も配合。これにより路面への追従性を高めグリップも向上。ま た、低温でも硬くなりにくいコンパウンドとすることでSUVタイヤとしてM+S(マッド&スノー)規格にも対応させている。

 

したがって都市部等での急な降雪や、雪が残っているような状況でも走行することが可能。チェーン規制についても、「主駆動輪にチェーンを装着するか全車輪 に冬用タイヤを装着すれば通行可能」という通常の規制なら走行可能。ただしごく希に出される「全車輪冬タイヤでも通行不可、チェーンを履かねば走ってはい けない」という厳しい規制にはスタッドレス同様対応できないので、豪雪の可能性がある場合にはチェーンの携行は忘れないようにして欲しい。

 

モーターショーのブースに展示してあったオレンジオイル。匂いを嗅ぐとオレンジの気持ちいい香りがした。右はそのオレンジオイルを配合したゴムと配合していない普通のゴムのグリップ性能を比べているところ。その効果は一瞬で分かるほど明らかだった。オレンジオイルのタイヤへの配合技術はヨコハマ独自の特許技術だという。

モーターショーのブースに展示してあったオレンジオイル。匂いを嗅ぐとオレンジの気持ちいい香りがした。右はそのオレンジオイルを配合したゴムと配合していない普通のゴムのグリップ性能を比べているところ。その効果は一瞬で分かるほど明らかだった。オレンジオイルのタイヤへの配合技術はヨコハマ独自の特許技術だという。

 

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ちなみに、低燃費タイヤに詳しい人は、AAとかAAAといったラベリングがないことに気づくと思う。これらは転がり抵抗とウェットグリップ性能を等級で 表するものだが、実はこのラベリング制度、「タイヤ販売店等で購入する乗用車用夏用タイヤ」にしか適応されず、純正タイヤやSUV用タイヤ、LTタイヤは 今のところ対象外なのだという。

 

ただし、今回お話を伺った開発の佐藤寛之氏いわく「ラベリング制度がなくても、低燃費と謳えるだけの性能はしっかり確保しています」とのことなので、今のところはブルーアースマークがあれば4×4用でも環境技術が採用されている、という認識で問題はないと思う。

 

涼しげな表情には意味がある

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続いてトレッドパターンを見て見よう。今までのジオランダーシリーズと決定的に違うのはブロックパターンから縦溝のリブパターンになったこと。トレッド面には水を逃がすために4本の縦溝があるが、そのカタチに注目。ジグザグになっていることが見て取れるだろう。

 

MIzo-thumb-200x133-6651これがトレッドデザイン上、ジオランダーらしいアグレッシブさを演出するポイントになっているが、実は「エッジの総延長を稼ぐ」という大切な役割を果たし ている。このエッジが接地面で「水膜を切る」「雪を掴む」という大切な役割を発揮。ウェット性能やスノー性能をさらに向上させているのだ。

 

また、小さなブロックが独立する構造と違い、周方向にブロックが連なるリブ構造とすることでトレッドゴムの剛性を格段にアップ。それぞれのリブに溝やサイプを適正配置することで剛性バランスを調整している。

 

Tiremizo-thumb-200x133-6654見ての通り中央のリブは溝やサイプが多くやや柔らかめ、対してショルダーのリブは溝やサイプが少なく剛性を高く保てる構造。これは、ステアリングの切り始 めの応答性をナチュラルでスムーズに仕上げ、ヨーやロールに対してはショルダー部の剛性で安定性を確保させる、という狙いがあるからだという。

 

なお、中間のリブには押し寄せる波の端ようにカーブを描く溝があるが、これはドルフィングルーブと呼ばれている。これもエッジの総延長を稼ぐため。しかもブロック剛性を確保しながら、あらゆる角度にエッジが与えられるよう工夫されている。

 

そして開発の至上命題だった「音」の低減。これは、大きさの異なる数種類のピッチ(ブロック)バリエーションを最適に配置することで対応。その結果 ジオランダーSUV は、摩耗時ですら新品のH/T-Sより音圧レベルを低くすることに成功したという。もちろん、トレッドパターンのアグレッシブさにも影響されることだが、 「静かなジオランダー」という魅力的な選択肢が増えたことには変わりはない。

 

Sound2-thumb-179x141-6657Sound-thumb-310x141-6659そして最後はプロファイルだ。耳慣れない言葉かもしれないが、具体的にはタイヤの断面形状を指している。このプロファイルを変えることで接地面を四角くし たり丸くしたりコントロールすることが可能。今回は実績あるH/T-Sをもとに、より四角くエネルギー損失の少ないプロファイルを採用。転がり抵抗を減ら すと同時に偏摩耗特性も改善したという。

 

なお、開発の佐藤さんによるとサイドウォールの剛性はH/T-Sより硬め。基本的に乗用車より重心高の高いSUV。ほぼオンロード専用と言っていい今回の モデル開発に際し、より高速域での性能にも配慮して、しっかり感ある操縦性と安定性を求めたからだという。試乗した限りでは、これにより、乗り心地が悪化 した印象はなかったが、安定感は確かに増していた。

 

IMG_9449b-2-thumb-200x133-6665タイヤ第三設計部 設計4G
佐藤寛之氏

「ジオランダーSUVは、少ない転がり抵抗による低燃費性、優れた低騒音性を実現したタイヤですが、それら新品時の優れた性能が摩耗末期まで持続する、というのが我々開発陣がこだわったもうひとつの特徴です。どうか、その性能を最後まで味わってください」

 

対象はシティー派SUV、発売は2012年2月から

気になるサイズは15から20インチまで、幅は175から255、扁平率は70〜50を中心に28サイズからスタートする。発売は2012年の2月。そこから5月にかけ、順次発売されるという。

 

対応車種はパジェロミニやキックス、テリオスキッドといった軽自動車からアウディーQ5やボルボXC60、ムラーノにキャデラックSRX、ダッヂナイトロといったミドル級SUV。さらにレクサスRXやグラチェロ、エクスプローラーといった大型SUVまでをカバーする。

 

ただし265以上のクロカン4×4サイズがラインナップされないことから、ヨコハマはこれら本格クロスカントリー4×4には従来のジオランダーH/T-S をお勧めしていることが理解できる。確かにクルマの性格から言っても、それらのユーザーはオフロードの守備範囲の広いH/T-Sを選んだほうが合っている だろう。

 

いずれにせよ、国産メーカーが環境性能を謳うSUV用タイヤをこれだけ大がかりにラインナップさせるのは日本初のこと。そしてそのタイヤには “ジャパン クォリティー” とも言うべき先進の技術が満載されている。走りのほとんどがオンロードというユーザーなら、新世代「ジオランダーSUV」を選ばない理由はないだろう。イ ンプレッションはまた、別の機会でお伝えしよう。

 

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