【紹介/試走】MERCEDES-BENZ G350d
2016.6.24
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四輪駆動車
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Mercedes Benz
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唯一無二の本格クロカン
旧くならない貴重なモデル
Gクラスは現在4タイプで展開
古く(旧く)ならない…とは、分かりやすく言えば、旧型と新型の見分けが付きにくく、低年式車でも型遅れに見えない、ということで、しかも現在は、それがデビューした37年前には想像すらしなかった高級車として認識されている、という事実。これは、ちょっと驚異的でさえある。
もちろん実際には、細かい部分のデザインやコンポーネンツのリニューアルは繰り返し行われてきたし、最新テクノロジーの導入も抜かりない。先端技術に沿って開発される新型シャーシーではなく、1970年代に基本設計されたそれに最新技術を適合させることの難しさは、むしろ新規開発モデル以上であることは想像に難くない。
こうして今もなお、メルセデスのG系の(あらゆる意味で)頂点に君臨するGクラスだが、今回試乗したのは3リッターV6ディーゼルターボモデルである。
いわゆるクリーンディーゼル搭載の「G350 BLUETEC(ブルーテック)」が日本に導入されたのは2013年からだが、現行型は「G350d」が正式名称だ。
ちなみに現在日本でのGクラスのラインナップは全部で4タイプ。6リッターV12ツインターボ搭載のAMG G65(税込価格3,470万円)、5.5リッターV8ツインターボのG63(同1,900万円)、4リッターV8ツインターボのG550(同1,470万円)、そして3リッターV6ディーゼルターボ搭載のG350d(同1,070万円)という、GLSクラスと同等のエンジン/価格設定(G65を除く)となっている。
昔ながらの四駆マニアが選んだ
パワフルで扱いやすいディーゼル車
わずかに青みがかったダイヤモンドシルバーの車体色が目新しい試乗車両は、インポーターが用意する広報車両ではなく、日本を代表する軍用車両研究家として知られる白石清氏からお借りしたG350dで、この4月に納車されたばかりの2016年モデルである。
都内の自宅とガレージのある別荘を往復する足としてだけでなく、趣味の軽飛行機をトレーラーで搬送するときの牽引車両やハンティングの足としてこのG350dを選択したという白石氏は、四駆に”豪華さ”は望んでいないと言い切る昔ながらの四駆乗り。しかし、それでも「人生締めくくりのクルマ(本人談)」としてGを選ばずにいられなかったところに、このクルマの真価が窺える。
3リッターV6・DOHCコモンレール式ディーゼルターボは、最高出力180kW(245PS)/3,600rpm、最大トルク600Nm(61.2kgm)/1,600〜2,400rpmと、GLS等に搭載される同型エンジンよりもやや低めのパワー/トルク設定だが、2.5トン超の車体を軽々と加速させる。
ガソリンエンジンに引けを取らない低ノイズ、低振動で、GL系ほどの遮音性能はないものの、車内ではエンジンがアイドリングストップ機構によって停止しているのか、はたまたアイドリング中なのか、すぐには判別が付かないレベルだ。
わずか1,600rpmから最大トルクを発生し、3,600rpmで最高出力に達するため、常用回転域がとにかく扱いやすいことがこのエンジンの最大の魅力だ。これがV8ツインターボ搭載のG550やG63となると、直線以外では不用意にアクセルを踏み込めないため、愉しさという意味ではこの350dのほうが勝っている、というのが正直なところだ。
とは言え、勘違いして欲しくないのは、けっして”非力”でも”必要充分”でもなく、文句なくシャープかつパワフルでキビキビと操れるエンジンであると言うこと。あくまでも400〜500PSオーバーなV8ガソリン搭載車と較べた場合の話である。
最先端技術の恩恵も体感
真価はオフロードにあり
サスペンションは、前後リジッドアクスル+コイルスプリング。トラディショナルなクロカン4×4ならではの脚まわりだ。伝統的なこの脚と駆動系に最先端の電子制御デバイスが仕込まれている。常に4輪のトラクションが監視され、必要に応じて駆動配分が自動調整する4ESP(4エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)も標準装備だ。
これらの最新テクノロジーによって、本来リジッド車が不得意とするワインディングでもごく自然にローリングが抑制されるし、コーナリング中に内側輪が浮いて空転を起こし失速…という車高の高いリジッド車では定番の現象も皆無である。
さて、Gクラスが備えるオフロードで最も頼もしいシステム…それは、2速トランスファー、つまりローレンジの設定だ。クロカン4×4では常識中の常識だったこの機構も、今やマイナーな存在になり、採用するモデルはごくわずかとなってしまったのはご存知の通りである。
しかし、電子制御が如何に進化しようが、「オフロードを極低速ギアで極低速走行できる」という能力に優るものはない。電子制御デバイスは、ドライバーを支援するモノであれば良く、本来の機能を省略するために使われるべきではない。そういう意味で、Gはオフロード車として最低限何が必要かを見失っていない4×4だ。
1,000万円超の高級車でクロカン走行するヒトいる? という冷静なオトナのご意見がハバを利かせる世の中になって久しいが、ことGに関してココは譲りたくない気がする。
接地面圧が稼げる細めの18インチタイヤを履き、合皮シート&トリムで電子制御はABS程度の最低限にとどめたオフロード・パッケージ(!?)オプション仕様が国産本格四駆車程度の価格帯で設定されたら、どんなに売れてしまうんだろう…と夢想させてくれるG350d。
もちろんGLSだったらこんな仕様はムリ。あったとしてもあまり意味はないし、需要もないだろう。しかしGなら充分可能、と言うより単純に原点回帰、大いに意味あり。
そう考えると、やっぱり唯一無二。こんな四駆、ほかにない!
2,986ccV型6気筒・DOHCディーゼルターボエンジン搭載。最高出力180kW(245PS)/3,600rpm、最大トルク600Nm(61.2kgm)/1,600〜2,400rpmを発生する。排出ガス中に尿素水溶液(AdBlue)を噴射して主にNOxを浄化する「BlueTEC」システムを採用。
【エンジン騒音計測データ】
●車内・・・・42.0dB
●ボンネット閉・・・・66.5dB
●ボンネット開・・・・73.0dB
※エアコンOFF、電動ファン非作動/アイドリング時。なお、当コーナーでの騒音計測は毎回微妙に異なる環境下(天候、気温や地形等)で実施されるため、計測値を他車と比較することはできません。
レッドゾーンは4,300rpmから。それ以外はガソリン車と変わらないメーターパネル。
昔を知るユーザーには少々違和感のあるデザインながら、見事に現代のSUVにお色直しされたインパネ。
ATは電子制御式7速。マニュアル操作はパドルシフトにて行う。「P」レンジボタン手前はLoレンジスイッチ。
インパネの中央に陣取るマニュアル・デフロックスイッチ。センター、リア、フロントのディファレンシャルギアを、ドライバーの意思で機械的にロックできる。いつ、どれだけ効くか分からない電子制御デバイスに頼ることなくトラクションが確保できる。
オプションの本革シートを装備。G350dの標準シートはファブリック表皮だ。
スクエアな空間が特徴的なカーゴルーム。最大2,250リッターのスペースが確保できる。この辺りの設計はあまり進化していない。
LEDやプロジェクターランプに進化しているが、基本デザインは昔ながらの丸目2灯式ヘッドランプ。ランプが破損しにくい構造は初代モデルから変わらない。
フロントサス(上)、リアサス(下)とも車軸懸架式コイルスプリング。頑丈で重いが、リジッドとは思えないしなやかでフトコロの深いセッティングが好印象。
オーナーの白石清(しらいしきよし)氏。日本クラシックジープ協会会長、MVPA(軍用車両保存協会)日本支部長などを兼任するミリタリービークル研究の第一人者。「どうせ藪こきするのだから、余計なモノはついてないモデルでいいと言ったんだけどね…。あとトレーラーヒッチの装着にちょっと苦労したかな」。日本でG本来の使い方をしている、数少ないオーナーのひとりだろう。「納車直後に東京から伊勢までドライブしたけど、パワー的なストレスもないし乗り心地も快適。ブレーキ性能も抜群だね。収納スペースが少ないものの、長距離ドライブでもまったく不満はなかったよ」とのこと。トレーラーおよび軽飛行機についても撮影してあるので、こちらは機会をあらためてご紹介したい。
文/内藤知己
写真/宮島秀樹
取材協力/白石清、那須・今井牧場