Finke Desert Race 2019 〜後編

2019.7.6

    • タイヤ
    • トヨタ
  • 丁々発止の戦いが繰り広げられるプロローグ・ラン 車検から一夜明けた土曜日は、朝早くから予選が行われる。翌日の決勝の出走順位を決める比較的短い距離のタイムアタックで、ここでは「プロローグ・ラン」と呼ばれている。実のところ、 […]


丁々発止の戦いが繰り広げられるプロローグ・ラン

車検から一夜明けた土曜日は、朝早くから予選が行われる。翌日の決勝の出走順位を決める比較的短い距離のタイムアタックで、ここでは「プロローグ・ラン」と呼ばれている。実のところ、この予選は路面が比較的フラットで、なおかつコーナーが連続することもあり、TRDマシンが本気を出すとそれなりに速いタイムが出てしまう。
 
だが、決勝の日は打って変わってドーンと続くストレートに、大小さまざまなコブが連続する極悪路となるため、ここではトロフィートラックや大型バギーはもとより、小型軽量のSXSが有利となる。したがって、コブをひとつひとつ舐めるように走る市販車の脇を軽量マシンがピョンピョン通り過ぎていくことになるのだが、追いつかれる度に後ろを注視しながら、狭いコース内で避けるように走ることを迫られる。
 
昨年のレースでは、これがタイム的にかなりのロスとなり、また避ける度に路肩の岩や異物を踏み、パンクするリスクも大きくなってしまうため、新堀選手は本戦で抜かれそうなSXS勢より敢えて速いタイムを出さない作戦に出た。
 
結果的には、今年からカテゴリーごとのスタートに変更されたらしく、市販車クラスは比較的後半から同クラスのライバルと一緒にスタートすることとなったため、心配していたオーバーテイクはかなり減った模様。ただいずれにせよ、このレースは前走車が巻き上げる埃が視界を遮り、風向きによってはアクセルを踏むにも踏めなくなるほど視界が悪化するので、予選から各クラス毎に丁々発止の戦いが始まっていた。
 
結果、四輪の予選でトップの座を手に入れたのはオーストラリアが誇るオフロード界の英雄「トビー・プライス」。彼の名はレッドブルからのスポンサードやダカールラリーへの参戦で世界中に知られているが、ことフィンク・デザートレースの戦績となると、過去にバイクで6度の優勝をもぎ取ってしまうほど華々しく、若くしてはや “レジェンド” としての風格を備えている。
 
そのトビー・プライス、実は数年前からこのレースに四輪でも出場するようになっており、トロフィートラックで一番にスタートして226km先のゴールに飛び込み、そこからヘリコプターで引き返して二輪のスタートに間に合わせ、四輪・二輪のダブルタイトルを狙うという、まさに開いた口が塞がらないようなタフネスぶりを披露していた。
 
残念ながらダカールで負傷した腕の影響で今年は四輪オンリーの参戦となったが、それでもトビーの人気は本当に凄まじい。観客の誰に聞いても好きなのはトビー。そして日本人でもトビーを応援している、などと口走ろうものなら、もうその瞬間に友達になることができたのだ。

(写真)予選トップのトビー・プライス。今年は四輪オンリーでの出場だったが、ファンの期待は非常に高かった。ただし決勝2日目にリタイアしてしまった。

 

ジオランダーM/T G003を履いたトロフィートラック

そして今回、ジオランダーA/T G015を履いたTRDのハイラックスの他にもう1台、注目しておきたいチームがあった。彼らの名は「488Racing」という。

赤と黒と白のボディーカラーに大きくYOKOHAMAの文字。明らかにヨコハマからスポンサードを受けたマシンだが、彼らもまたジオランダーでこのレースに挑戦していた。装着しているのは39インチのジオランダーM/T G003。アメリカ由来のトロフィートラックの例に漏れず、後輪の2WDだけで地面を蹴り上げるため、より強烈なトラクションが必要なのだろう。深い砂地に対してマッドテレーンという、TRDとは異なるアプローチで挑んでいた。

 

マシンは2011年のシボレー・シルバラードを模した全身チューブラーフレームのトロフイートラック。そしてドライバーのLuke Hall選手。90インチ(229cm)のワイドトレッドに120インチ(305cm)のロングホイールベース。エンジンはシボレーの6リッターV8で最高出力はなんと650馬力。サスペンションのストローク量もフロントが24インチ(61cm)、リアが30インチ(76cm)と日本人にはもはやアンビリーバブルなレベルに到達しており、ショックアブソーバーにはやはり競技用の極太&ロングダンパーを仕込んでいた。

 

David Horsley氏率いるこのチームは少数精鋭だ。現地にはドライバーのLuke Hall選手とコドライバーのScott Sage選手のほか少数のスタッフしかいなかったがマシンの仕上がりは良く、予選に出現した激しいウォッシュボードをもモノともせず、まるで空を飛んでいるかのように駆け抜けていた。
案の定、予選の順位は総合で143台中9位。充分に上位入賞を狙える位置に食い込んでいた。

 

ゼッケン番号とクラス分けの“よもやま”話

関係者の話によると、このレースではゼッケン番号の権利を「買う」のだという。つまり、希望の年数だけお金を払ってその間、好きな番号を使えるようにしているのだ。したがってオーストラリアでは、このゼッケン番号を毎年変えずにチーム名にしているところがとても多い。また、百の位の数字はクラスを表しているため、観客はゼッケンを見ただけで、そのクルマのクラスがわかるようになっているという。

ちなみに、TRDのマシンゼッケン“881”番は「はやい」と読ませてゲンを担いだとのこと。百の位の8はエクストリーム4WDクラス(市販車改造部門)を表し、市販車をかなり改造できるクラスとしてカテゴライズされている。ただし、TRDは「敢えて市販車に限りなく近いエクステリアで、そして改造も誰もが出来る程度」、つまりユーザーでも実現できるレベルのハイラックスに仕上げ、このレースに臨んでいるとのことだった。さもありなん。彼らはアフターパーツサプライヤーとして、その認知拡販のためにやってきているのだから。
 
なお後日談だが、この“881”という番号を登録した後に、担当者が「やばい!」と冷や汗を流したとの話も残っている。

 

箱根駅伝のように2日間かけて往路と復路を走る

そして日曜日から始まる決勝の日。選手たちはまずアリススプリングス近郊のレースウェイを出発し、一路南下して「フィンク」というアボリジニのコミュニティーを目指す。そこでひと晩をキャンプで過ごして、翌月曜日には箱根駅伝のように往路を逆走、アリススプリングスまでの226kmを競うのだ。そして合計452kmの道のりを完走して始めて順位が与えられ、その積算タイムで白黒がつく、という仕組みだ。
 
このレースの歴史は古く、1976年にまで遡ることができるという。当時、アリススプリングスのライダーたちがフィンク川までを往復するレース “there and back” として、やはり1ルートを往復するレースとして開催し、その時以来ずっと、クイーンズバースデイに開かれるようになったという。そして勝者には「砂漠の王者」の称号が与えられる。
 
レースに使われるコースはその昔、アデレードからアリススプリングスを結んでいた古き「ガン鉄道」に沿って続いている。1980年以降は使われなくなってしまった線路だが、その保線のための道路、つまり整備用車両が走る道路が元となっており、今ではウォッシュボードだらけの極悪オフロードと化している。

なお、現在のガン鉄道は約160kmほど西に線路を敷設しなおしており、大陸北端のダーウィンまで行けるようになっているため、アリススプリングスへは南からも北からも列車の旅でアプローチすることが可能だ。「ザ・ガン」で検索すれば、日本語のウィキペディアでも情報が得られるので、鉄道が好きな方はぜひ調べていただきたい。

 

TRDハイラックス、昨年のリベンジなるか!?

TRDとそのハイラックス、そして新堀選手にとってフィンク初参戦となった昨年は、結果的にはリタイアというほろ苦いスタートとなった。初日は順調にフィンクまで走り切ったものの、復路では数十キロを残してフロントサスペンションが破損、ゴールまで走り切ることができなくなってしまったのだ。ドライバーはもちろん、チームの皆が落胆して帰っていった様子が今でも目に焼き付いている。
 
このフィンクのコースは、他に類を見ないほどアップダウンの激しいウォッシュボードが延々と続いている。226kmのうち9割5分以上がウォッシュボードといっても過言ではない。ここを市販のクルマでゆっくり走るならともかく、速度を上げて走るのはまずもって不可能。1kmも走らぬうちにサスペンションが壊れてしまうに違いない。砂地が相手とはいえ、路面のアップダウンの激しさはアジアクロスカントリーラリーの比ではないと言えよう。

 

ここを競技スピードで走るなら、前輪のサスストロークをトロフィートラックばりに増やすか、バギーのようにリア荷重のマシンで走るしか方法がない。いずれにせよエンジンを(フロント)ミッドシップかリアに配し、動きの軽い前輪で路面の凹凸をいなしつつ、大排気量のパワーで後輪をブン回していけるマシンだけが速く走れるコースとなっている。
 
ところがTRDのハイラックスは、ディーゼル仕様のピックアップ。もともとフロントヘビーなクルマである上、エンジンやミッションといった駆動系は、ほぼ市販車のもの。さすがに前後サスペンションともストロークを増してはいるものの、前輪も駆動させる独立懸架の4WD車では、ドライブシャフトの物理的な限界から、そのストローク量を再現なく増やすことなど不可能。ウォッシュボードの頂点から頂点へピョンピョン飛びながら走るようなことは、どだい無理な話なのだ。昨年、路面からの突き上げを何万回?何十万回? も受けたフロントサスが根を上げたのも、ある意味仕方の無い話だったのかも知れない。

(写真)四輪で総合優勝を果たしたプロバギークラスのマシン。ドライバーはJACK RHODES選手、コドライバーはDAVID PULLINO選手だ。予選で転倒し、クラス最下位スタートからの逆転劇という離れ業をやってのけた。

 

タイヤチョイスとリアサスの完成度で勝負!

かくも過酷な状況に追い込まれるフロントサスをどう対策するのか。まずはジオランダーA/T G015という、砂地でも十二分なトラクション性能を持ちながら、軽さに優れたオフロードタイヤのチョイスがひとつの答えだろう。
 

そしてもうひとつの解答は、今年のマシン造りの様子から「リアサス」にあるように思われた。リアのスプリングをリーフから、コイルとダンパーを同軸に配したコイルオーバーサスに変えるという大改造を施したのが今年の仕様なのだが、それによってリアサスの働きが明らかに去年より良くなっている。事実、競技前に現地で行われたテスト走行にてダンパーの熱を管理していたスタッフも、昨年より、リアダンパーがはるかに多くの仕事をしていることを確認していた。これにより、フロントサスが受け持っていた負担も軽くなり、ひいては完走にも結びついたのでは、と勝手ながら想像することもできるのだ。

 
何もかもが始めてで、右も左もわからなかった昨年に比べ、今年のTRDチームには余裕があり、そして明るかった。新堀選手も今年新たにタッグを組んだコドライバーの MURRAY KENNETH HYNES選手と握手を交わしながら「マスト フィニッシュ!(まず何よりも完走しましょう!)」と笑顔で語りかけていたが、2年目のチームは誰もがプレッシャーを背負いつつも、昨年の経験を糧とし仕事をひとつひとつ着実にこなしてきた、という自信に溢れていた。

 

(写真)出走前にアリススプリングスのモニュメント前で祈念撮影するTRDチーム。

 

いよいよ決勝の2日間。詳しくは映像をご覧あれ!

実は、我々取材班も昨年は何もかもが、わからないことだらけだった。スタートラインを通過したら最後、本当に1度しか出会うことのできないマシンを一体どこで待ち構えるべきなのか、それすらレッキを繰り返しながら手探りで探していた。でも2年目となるとさすがに経験値も増していく。さすがにメーカーの技術集団とはレベルの異なる話ではあるが、TRDチームもきっと昨年より今年、そして今年より来年!?と、さらに経験値が積み上がって行くに違いない。それは、クラス優勝を決めた直後の新堀選手のコメントにも端的に現れていた。

 

果たして、TRDチームはこのレースで日本チーム初となる足跡を残すことに成功した。一方、地元オーストラリアの488Racingは、残念ながら初日のリタイアで順位こそつかなくなってしまったが、無欲で挑戦した2日目は総合で6番手という素晴らしいタイムを叩き出した。いずれのチームも、来年に繋がる可能性をハッキリと見せてくれたのだ。

 

私は以前からオーストラリアが好きだったが、このレースに2年通って、さらに好きになった。そしてこのイベントも大好きになってしまった。オージー達はみな気さくで、アットホーム。そして景色は夜も昼も信じられないほど美しく、エグゾーストノートを響かせながら砂塵とともに走り抜けて行くマシン達は皆、一様にカッコイイ。そして厳しくクセのある競技だけに、完走した選手達が得られる喜びの大きさも、ヒシヒシと伝わってくる。
 
蛇足ではあるが、この映像とレポートによって、より多くの方がこのレースに興味を持ち、そしてマシンや走り方あるいはタイヤなどの機能パーツについて、より多くの興味を持っていただければ、それだけで嬉しい。
 
なお、2日間のレースの完走率は
四輪が143台中83台(58.0%)、二輪が612台中488台(79.7%)となっている。
この数字からも、いかに四輪に厳しいコースであるかがご理解いただけるだろう。
 
でも、一見四輪より楽そうに見える二輪のレースもまた、凄まじく過酷で体力を消耗するラリーであることはお伝えしておこう。とても特殊な路面と地形であるが故に、もしこのレースに出たいと思うのであれば、そのための対策だけはしっかりしておくことをお勧めしたい。私はライディングには詳しくないが、どうやら、深い砂地とウォッシュボードの中で、バイクをリア荷重のまま操り続けるだけの能力が必要になっていると思われる。
 
イベントのフィナーレとなる表彰パーティーでは、二輪も四輪も完走したサバイバーに「オールドガン鉄道」のレールを止める「犬釘」が渡されていた。この犬釘はコースのあちこちに散乱しており、ひと度タイヤに刺さればあっという間にパンクすることも付け加えておこう。最後は、見事クラス優勝を飾った新堀選手へのインタビューでこのレポートの締めくくりとしたい。

 

昨年、この看板を見落としたがために競技後フィンクに辿り付けず、夜遅くまで迷ってしまった筆者。
因縁の分岐を見つけて記念撮影。「この先は4×4を推奨」の文字がアウトバックらしい。
 

 

 

新堀選手の勝利インタビュー

「今年はタイヤ無交換で完走し、見事クラス優勝を果たすことができました。今回はマシンの熟成度が著しく、それがクラス優勝という結果に繋がったと思います。往路では昨年から20分タイムを短縮しており、マシンやタイヤのバランスはとてもよかったと思います。タイヤはより軽量でサスペンションの動きを活かせるGEOLANDAR A/T G015を選択。深い砂の上でも充分なトラクションが得られ、コントロール性も優れていたので、ドライビングに集中することができました。はるばる日本からの応援とご声援、本当にありがとうございました」

エクストリーム4WDクラス(市販車改造部門)の入賞者。新堀選手(右端)の隣は、コドライバーのMURRAY KENNETH HYNES選手。