Finke Desert Race 2019 〜前編
2019.7.6
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タイヤ
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トヨタ
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乾きの大地を駆け抜けたトヨタ・ハイラックス
今回、紹介するのはオーストラリア中央北部の準州ノーザンテリトリーで行われたイベントだ。
オーストラリアの内陸部に広がる砂漠がほとんどを占める
広大な人口希薄地帯「アウトバック」の荒野で
日本人の手による小さな…、しかし、大きな始まりとなるドラマが起きたのだ。
文/河村 大 写真/浅井岳男
オーストラリア最大級のオフロードレース
2019年6月10日。オーストラリア最大級と称される「フィンク・デザートレース」に於いて、四輪日本チームがクラス優勝を果たした。
これまで日本ではあまり馴染みのないレースであったが、この結果は日本人ドライバーとしては初、そして四輪日本チームとしても初の快挙となった…。
この映像はその模様を現地で取材を行い、前・後編2本のストーリーにまとめたものだ。決勝戦のヤマは後半の映像に収めてあるが、前半の映像を見ずしてこのレースを理解することは難しい。そしてぜひ、映像では語りつくせない情報を詳しくお伝えするこのレポートも、合わせてお読みいただきたい。
さて、四輪日本チームを正しくお伝えすると「株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」から「TRD」の名を冠したチームが出場し、トヨタの世界戦略車「ハイラックス」にヨコハマタイヤの「ジオランダーA/T G015」を装着、「新堀忠光選手」のドライビングでクラス優勝を達成した、となる。
ここで、それぞれの用語について説明をしておこう。
チームの名はTRD(Toyota Racing Development)
まず、冒頭の会社名「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」について。これはトヨタテクノクラフト及びトヨタモデリスタインターナショナル、そしてジェータックスの3社が統合し、2018年春に生まれた会社だ。そしてTRDはそのいちブランドということになる。ここではその「TRD」について、四輪駆動車業界の視点から少し掘り下げてみよう。
ここ最近のTRDは国内でもRAV4やハイラックス、ランドクルーザーといった車種にも純正カスタマイズパーツやアフターパーツを展開し、スポーツカーやパッセンジャーカーだけでなく「SUVのカスタマイズブランド」としても注目度を増しているブランドだ。
実のところ、ひと昔前まで我々四駆車乗りにとって馴染みが深かったのは、国内ではなく北米のTRD。かの地でTRDバージョンといえば、各モデルの中でもスポーティーな味付けをしたモデルのことを示していた。そしてトヨタのウェブやカタログ上で選ぶことができる純正カスタマイズ仕様(TRD Pro)として、今でも人気を博している。
現在は、この流れがタイやインドネシアといった東南アジアの新興国にも広がっている。国によってはTRDバージョンが設定されている車種の中ではユーザーの半数以上がそれを選ぶ、という現象すら起きている。この地域でTRDブランドが放つ存在感は、当の日本人が想像もつかないほど大きく、そしてごく当たり前なものになってきているのだ。
そしてアジアではここ数年、TRDが自らチームを組織してアジアクロスカントリーラリーにワークス参戦するなど、新興国で盛り上がるモータースポーツと密接に結びつきながらプロモーションを行うようになってきた。そして今回は地政学上さらに南下して、オーストラリアにもそのテストフィールドを広げることとなった。
さて、「フィンクデザートレース」への参戦は昨年から始まり、今年で2度目となったが、このクルマに対するオーストラリアの観客の注目度は、初年度からかなり高かったことを付け加えておこう。
レース仕様のハイラックスとジオランダーA/T
TRDの参戦車両は、タイで生産されているトヨタの世界戦略車「ハイラックス」だ。日本で発売されているものと基本は同じだが、ボディータイプやエンジンなどが異なるので、元車の諸元を簡単にまとめておこう。
TOYOTA HILUX REVO(タイ仕様右ハンドル車)
ボディー形状:スマートキャブ(※1)
エンジン型式:1GD-FTV型
エンジン形式:直列4気筒インタークーラー付きターボディーゼル
最高出力:130kW(177PS)/3,400rpm
最大トルク:420Nm/1,400-2,600rpm
排気量:2,755cc
ミッション:6AT
駆動方式:フルタイム4WD
タイヤサイズ:265/60R18
(※1) スマートキャブとは、日本でその昔エクストラキャブと呼んでいた。ボディーサイドのドアがFJクルーザーのような観音扉になっており、キャビンはシングルキャブより広く、ダブルキャブより狭くなっている。ピックアップは荷台の広さを優先するか、それとも4枚ドアの使い勝手を優先するか悩ましいところだが、個人的にはこのタイプが一番バランスの取れたプロポーションに見える。
では、レース仕様のハイラックスはTRDによってどのような改造を受けたのか、そのあたりを詳しく見ていこう。
【エンジンと吸排気系】
エンジンやミッションは市販車と同じ。コンピューターも純正と同じながら、TRDでチューニングしたデータをコンピューターにインストール。さらに大型ターボと大容量インジェクタを装着し、最高出力を260PSまでアップ。最大トルクも700Nmまで引き上げている。
【サスペンション】
トレッドの拡幅とサスペンションストロークのアップのために、フロントのサスペンションアームを強化版ロングタイプに換装。リアはリーフリジットから4リンク式コイルオーバーサスペンションに変更してある。
ショックアブソーバーは前後とも別タンク付きモノチューブダンパー(米国キング製)を採用。
リアアクスルなども競技用に強化している。
【タイヤ】
ヨコハマタイヤのジオランダーA/T G015を採用。
サイズは市販時の265/60R18から、LT285/70R17に変更。ジオランダーのオールテレーンは充分なオフロード性能が確保され、軽量ゆえサスペンションへの負担も軽い。
なお、ブレーキはフロントがディスク、リアはドラムのままだ。
【エクステリア】
ボディーはワイド化して車幅は2mまで拡幅。外装は軽量化のためにドア、ボンネット、荷台、ルーフを全てカーボン化。そしてグリルやオーバーフェンダーも含め、外装パーツの形状は、すべてTRDのオリジナルとしている。
オーストラリアでよく知られている日本人
新堀忠光選手
TRDチームのドライバーは新堀忠光氏。アジアクロスカントリーラリーでは、日本人初となる総合優勝を2度果たすなど、国内外のオフロードレースで幅広く活躍している選手だ。ここ最近では、バギーやUTVという日本人にはあまり馴染みのないオフロードレースにも参戦しているが、いずれも「オフロードレースが三度の飯よりも好き」という極めてピュアな情熱が原動力となっている。
トヨタ、あるいはTRDとの付き合いは古く、2006年からはタイランド・トヨタのワークスドライバーとしてタイ国内のクロスカントリーラリー選手権に通年で参戦。2年連続してシリーズチャンピオンとなった他、2016年と2017年にはTRDのワークスドライバーとしてアジアクロスカントリーラリーに参戦、2年連続総合2位の成績を残している。
その間、2014年には単身でオーストラリアに渡り、自ら扉を叩いてSXS競技(※2)に参戦し始めたが、以来、その関係者や友人を通じて現地に広くパイプを持つようになった。それが、今回のTRDワークスドライバーへの起用にひと役買っているという。
(※2) SXS:エスバイエス
原文は Side by Side、またはサイド・バイ・サイド・ビークルの略。2名または4名が乗車できるオフロード車両のこと。UTV (Utility Task Vehicle)などとも呼ばれている。オーストラリアでは近年、このマシンによる競技参戦が人気になっている。
さて、ここでもうひとつ。競技が行われる場所と、競技そのものについても少し詳しくお伝えしておこう。
赤土の荒野「レッドセンター」で行われるデザートレース
ノーザンテリトリー南部のアリススプリングス周辺の地域は「レッド・センター」と呼ばれている。ウルル(エアーズロック)もまた、このレッドセンターに位置する観光名所だけに、ご存じの方も多いだろう。
アリススプリングスそのものは、人口約3万人ほどの町だ。アウトバック最大の町とはいえ、クルマで20分も走らぬうちに走り抜けてしまうくらいの規模でしかない。そしてひと度この町を抜けると、ひたすら人のいない土地が広がっていく。それも、ひときわ赤い色をした荒野が地平線の彼方まで延々と続いているのだ。
(写真)決勝1日目に待機していた場所。アリススプリングス側から35kmのポイントだ。
参考までに人口密度の話をすると、東京は1平方キロメートルあたり6,100人超、日本国土では平均して335人。一方、ノーザンテリトリーは0.17人…という現状だが、こと、レッドセンターの荒野に限っていえば、0.17はおろか、限りなくゼロに近い数字になるはずだ。文字通りひとっこひとり住んでいないのだから。フィンク・デザートレースは、まさにこんなエクストリームな空間で行われている。
クイーンズバースデイに行われる一大イベント
2014年を最後にオーストラリアンサファリがなくなった今、オーストラリア最大級とも言われているこのイベントは、正しくはスポンサーのロト会社の名を冠して「Tatts Finke Desert Race」と呼ばれている。とはいえ、現地では「フィンクに出る」「フィンクを観に行く」あるいは「TFDR」だけでも充分に通じるほどメジャーなイベントだ。
そしてこの競技は、毎年決まって6月の上旬に開催される。“女王陛下の国” オーストラリアでは、6月の第二月曜日がクイーンズバースデイに制定されるのだが、レースはこの休日に最終決戦を迎えるよう設計されている。
そのため、土、日、月の3連休にわたって予選から決勝までが繰り広げられているのだが、これが砂漠の町アリススプリングスにレース好きの観光客が大挙して訪れる「年に一度のお祭り」となっているのだ。
(写真)展示マシンの前でファンと交流するトビー・プライス。オーストラリアで圧倒的な人気を誇っているオフロード界の若き英雄だ。
始まりは木曜日。まず、アリススプリングスの繁華街に沢山の屋台とともに、レースマシンが展示される。バイクの宙返りアクションなどのアトラクションも行われて、イベントへの期待感が膨らんでいく。
次いで金曜日に町外れのオフロードレースウェイにて車検が行われる。この時、車検を通過したマシンがズラリと並べられ、誰もが入場料を払わずともフリーで見学できる一大レースマシン・ミュージアムが出現する。今年は四輪の参戦が143台、二輪もATVなどの小型バギーを合わせ612台ものマシンが参戦。その総てが一堂に会する光景は壮観だ。