【紹介/試走】SUZUKI ESCUDO
2015.11.6
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四輪駆動車
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スズキ
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ヨーロッパの風、第2弾
新型エスクード発進!
欧州生産のビターラを輸入
既存型エスクードは続投
と言っても、その欧州産ビターラがそのままエスクードとして輸入開始されたわけで、「デビュー」と言うよりは「日本上陸」を果たした、と表現した方が正確かも知れない。
スズキの欧州製SUVと言えば、フィアット社との共同開発により誕生し、2005年からハンガリーの子会社マジャールスズキ(Magyar Suzuki Zrt.)で生産、輸入されているスズキSX4 S-CROSS(エス・クロス)があるが、お察しの通りこれが現行型ビターラ、即ち新型エスクードのベースモデルとなっている。
したがって、新型エスクードはSクロスと同じエンジンやシャーシーで構成されているわけだが、後述する数々の要素によって性格付けやポジショニングは異なるモデルとされている。
エンジンは1.6リッター直4・DOHCガソリンのM16A型のみの設定で、駆動方式の選択肢は2WD/4WDのいずれか。内装や装備によるグレードもなし…と、至ってシンプルで、これもSクロスと同様である。
なお、2.4リッター直4・DOHCガソリンのJ24B型エンジンを搭載する既存型のエスクードは、「エスクード2.4」の名称で併売される。こちらもモノグレード(XG)、4WD車のみの設定で、選択肢は5速MTか4速AT車のいずれか、となっている。
今回の新型エスクードの試乗車はもちろん4WD、車両本体価格は234万3600円(消費税込)で、2WDより21万6000円高という設定である。
ESP(車両走行安定補助システム)やEBD(電子制御制動力配分システム)等の電子制御デバイスも標準装備されており、同クラスのコンパクトSUVの中でも競争力充分な価格設定と言えるだろう。
軽快に回る1.6リッター直4 DOHC
制御可能なパワーをフルに使える!
発進時の立ち上がりや、その後の加速フィーリングは、NA(自然吸気)の1.6リッターDOHCガソリンらしく軽快そのもので、メリハリの利いたドライビングフィールは好印象。
既存型エスクード2.4と較べると排気量も小さく、カタログ上のパワー&トルク値も当然下回っている(最高出力166→117PS/最大トルク22.9→15.4kgm)のだが、車両重量が1,210kg(4WD)と、400kg以上軽量なためか、非力さを感じない。むしろレスポンスの良さのおかげもあって、エスクード2.4より軽快に走ることができる。
また、これはSクロス試走のときにも強く感じたことだが、攻め気味に踏み込んで走っても振り回されず、制御できる範囲のパワーをフルに使って走れる、という痛快さがある。
市街地での取り回しは見た目のサイズ感どおり非常に良く、車両感覚も掴みやすい。Sクロスよりも大柄に見えるが、実際の寸法では僅かに小さく、ホイールベースも短い。よってエスクード2.4やSクロスよりも最小回転半径は小さく、小回りも利くので、アップライト気味なシートポジションのおかげもあって、車庫入れや縦列駐車も難なくこなせるのだ。
今回、試乗ルートの都合により高速道路走行はできなかったが、信号のない一本道の国道をゆったりと巡航してみる。
遮音性能はお世辞にも高いとは言えないが、エンジン自体のメカニカルノイズが低く、また排気音の音質も適度にスポーティーで不快感はない。
アスファルトの継ぎ目や修理痕から拾う衝撃や振動はハッキリ伝わってくるが許容範囲、というのが正直な印象である。
新開発の6速ATを搭載
4WDシステムは「ALL GRIP」
サスペンションはフロントがマクファーソン・ストラット、リアにはトーションビーム+コイルのリジッド式が採用されている。ソフトライドで普通に走る分には快適だが、ワインディングを速く走ろうとすると、ロールも大きめで多少バタバタ感が強くなる脚まわりである。
新開発の6速ATは、街中でもワインディングでもスムーズなシフトチェンジで、エンジンのパワーを効率良く引き出してくれる。
ステアリングコラムに着くパドル操作によるマニュアルシフト時もレスポンスが良く好感触で、このあたりは、無段変速CVT搭載のSクロスとは大きく異なる部分と言える。
4WDシステムはSクロスと同じ「ALLGRIP(オールグリップ)」を搭載。4通りの走行モードが選択できる電子制御機構である。
オンロードでも有効なこの4WDシステムは、「SPORT」モードを選択すると、直進加速中は4WD、コーナー進入手前でアクセルOFFすると前輪駆動(2WD)に切り替えて旋回性を高め、その後コーナー出口で再び加速すると後輪にも駆動力が分配され4WDに…という賢い制御を行う。
実際には、この2WD/4WD切り替わりにともなう駆動配分の変化を体感することはなく、その制御は違和感なく行われる。
ユーティリティー力高めな車内
インテリアは上質感アップ!
車内は、華美でも地味でもなく、必要なモノが過不足無く備わっているというエスクードらしいコックピットを中心に、落ち着いたデザインのコンソール、トリムが拡がる。
Sクロスとも差別化されており、ダッシュボードやシート・トリム素材に関しては、全体的に上質感が向上している印象だ。
前述のとおり、車体寸法上はエスクード2.4やSクロスよりひとまわりコンパクトだが、室内高だけは両者を上回っているところからも、デザインの工夫により車内を広く使えるようにとの努力が窺える。
不慣れな人でも簡単にシートを畳んでラゲッジスペースを拡げられたり、相変わらず収納スペースが充実していたり…など、地味ではあるがこのようなユーティリティー面での配慮は、さすが長年コンパクトSUVを作り続けているメーカーらしいところだ。
とうとうエスクードからLoレンジを備えた2速トランスファーが消えてしまった…。これはコアなエスクードファンたちの偽らざる本音だ。
このクラスでは最後の砦だっただけにやはり残念ではあるが、エスクード2.4の続投は、少数派の熱心なファンの声にも常に耳を傾けてきたスズキならではの解答だろう。
【細部写真】
Sクロスと同型の1,586cc 直列4気筒DOHCガソリンエンジンを搭載。最高出力86kW(117ps)、最大トルク151Nm(15.4kgm)を発生する。VVT(可変バルブタイミング)機構を採用。
上: Sクロスよりさらにシンプルな2眼メーター。中央はマルチインフォメーションディスプレイ。
下:質感高めなインテリア。ダッシュボードもシックなデザイン。
新開発された6速AT。ゲートパターンを採用するエスクード2.4に対して直線パターンを採用。
ALL GRIPのシフトダイアル。フルタイム4WDなので2WDモードはないが、2WD走行可能な状況では前輪駆動にもなる。LOCKモードでは前後が直結されるのではなく、トルク配分が50:50に固定される。
サイドに本革、メインにスエード調表皮を使ったシート。ホールド性、質感とも良好。フロントには手動調整式のシートリフターも装備。
シートバックのみ2分割可倒式のリアシート。フォールディングしても完全なフラットにはならないが、簡単な操作で折り畳み可能。荷室フロア下にも収納スペース有り。
オートレベリング機構付きのヘッドランプ(ロービーム)にはLEDを採用。
フロントサスは、マクファーソン・ストラット(左)、リアサス(右)はトーションビーム式コイル。
標準タイヤは全車215/55R17サイズ。ダート程度のオフロードならリムタッチを気にせず走れるサイズ設定。
文/内藤知己
写真/宮島秀樹