【紹介/試走】三菱SUV:雪上インプレッション
2016.2.12
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四輪駆動車
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三菱
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スノードライブで感じた
三菱SUVのこだわりと愉しさ
前回、三菱最新のAWCは、アウトランダーにてハンドリングと安定性をハイバランスさせており、さらなる進化も期待できることをお伝えした。今回は、アウトランダー以外の、信頼性やバランスを極めた4×4システムを採用したモデルを紹介しよう。
まずはデリカD:5。前回紹介した最新型アウトランダーも「電子制御4WD」を採用しているが、それよりも世代としてはひとつ古いタイプだ。しかし、テストドライブしてみるとスノードライブ性能が不足しているわけではなく、むしろ扱いやすさ、分かりやすさがあったりする。
発進時の安定性は、電子制御カップリングによってリアへのトルク配分を強めており、4輪で路面をしっかりと捉えて蹴り出しているというフィーリングがあり、不満はない。ただコーナーでは、ステアリングを切りはじめてもアウトランダーのようにノーズがインを向かないところがあり、そこに世代差を感じる。しかし、それは曲がらないと感じるわずかな間に限ったことであり、あえて比較してみると応答の遅れがある、といった感じだ。
遅れはあるものの、その遅れをマイナスに捉えなかったのは、デリカのシャーシーセッティングによるところが大きい。そもそも、デリカD:5はミニバンというパッケージングにより、髙重心である上に、車両重量も重い。そのため、乗り味はスポーツカー的なシャープさではなく、快適性を求めてゆったりとした動きを特徴としている。コーナー手前で意図的に減速してフロントへと荷重を移しつつステアリングを切りはじめると、このゆったりとした動きに対して、ノーズもピタリとタイミングを合わせるようにインを向いていく。つまり、そのレスポンスは鋭過ぎず、甘すぎずといった感じで、車体に見合っているのだ。もちろん、「4WDロックモード」をセレクトしておけば、クリッピングポイント後にアクセルを開けていってもしっかりとグリップを得て、グイグイとクルマを引っ張っていってくれる。さすがは三菱自動車のAWCと感心を覚えた。
デリカD:5。ラダーフレームを採用していたかつてのデリカシリーズとは異なり、乗用車にも使われるFFプラットフォームをベースとして07年にデビュー。4×4システムは、リアデフ前にカップリングを備えた電子制御4×4を採用。モードは低燃費を期待できる「2WD」、状況に応じて前後トルク配分を行う「4WDオート」、前後トルク配分をほぼ固定としてトラクションを確保する「4WDロック」の3つを備える。
システムとしては一世代古くなるが、デリカD:5のゆったりとした乗り味に見合ったものとなっている。コーナーでは手前でしっかりと減速してフロントへと荷重を移しつつ、グリップ感を探りながらアクセルを開けていくことが必要になるが、その分コントロールしやすいと感じる面もある。ロックモードをセレクトすれば発進加速での不足はない。
パジェロに採用されている「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」は、4×2(FR)と4×4を切り換えられるだけではなく、センターデフロック、ローレンジへの切り替えを可能としており、三菱自動車の4×4システムの中でもっとも複雑なモード(ハードウェア)をもったシステムだ。そう、ドライバー自らがモード(走り方)をセレクトできることをメリットとしている。
フルタイム4WDモード(4H)では、ハンドリング性能を狙ってリア配分を多めとしていることからスノードライブでは安定性に欠けることもあるが、それでもASTC(アクティブスタビリティ&トラクションコントロール)によるアシストもあって、ハンドリングと安定性を上手くバランスさせていることが印象に残った。しかし、スノードライブでもっとも期待できるのは、センターデフをロックした4HLcだ。アウトランダーやデリカD:5の前後トルク配分を電子制御カップリングにより固定するロックモードとは異なり、センターデフそのものをロックするため、トラクションを得るという意味合いでは頼もしさすらある。
いうまでもなく、発進時の安定感は格別で、しっかりと4輪にトラクションを与えつつ、クルマを前進させる。コーナーでは、素直なハンドリングは期待できないが、確実に減速してフロントへと荷重を移しつつ、挙動を観察しながらステアリングを切り足し、そして、クリッピングポイントからアクセルオンしていくことで、発進時に感じた頼もしいグリップが増していく。
コーナリングスピードは、アウトランダーの電子制御4WDやツインモーター4WDの方が絶対的に速いが、良くも悪くもドライバーのコントロールの幅が広いという意味合いからすると、パジェロにも分があると感じた。
パジェロ。2世代目で採用された「スーパーセレクト4WD」をベースに、前後不均等配分(前後33:67)を行う4Hモードを備えた「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」を搭載。低燃費とナチュラルなハンドリングを期待できる2H(FR)、4H(フルタイム4×4)のほか、センターデフロックを行う4HLc、ローレンジモードである4LLcを備える。また、メーカーオプションとしてリアデフロックも用意するなど、悪路走破における高いポテンシャルを与えられている。
ナチュラルなステアリングフィールと安定性をハイバランスさせた4H、ハンドリングは犠牲になるがトラクションを感じられる4HLcなど、ドライブスキルに応じて選ぶことができる点はアドバンテージ。滑りやすい路面であってもアクティブトラクションコントロールのアシストによってしっかりと駆動力を確保してくれるところもポイント。
海外モデルであるパジェロスポーツとトライトンに採用されている「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」は、パジェロのシステムと名称こそ同じだが、前後トルク配分を33:67とし、扱いやすさを特徴とするトルセンLSDを採用しており、世代としては新しくなっている。フルタイム4×4モード(4H)におけるハンドリングと安定性のハイバランスぶりは、スノードライブにも十分に対応できるものであり、自在に操れる感覚にあふれている。ヨンクオーナーとしてはもっとも身近、かつ扱いやすいシステムだと感じた。もちろん、パジェロ同様にセンターデフをロックすることも可能であり、直結ヨンクならではの愉しさを存分に味わうこともできる。
パジェロスポーツ。ラダーフレーム、リアリジッドサスペンションといったヘビーデューティー4×4に求められるハードウェアを与えられながら、スタイリッシュかつコンフォートといったテイストを手に入れたSUV。昨年8月よりタイで生産・販売が開始され、約90カ国で販売される予定となっている(残念ながら日本での発売は未定)。4×4システムは、パジェロの「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」をさらに進化させ、センターデフにトルセンLSDを組み合わせる。
トルセンLSDを組み合わせた「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」がもたらす穏やかなトルク変化は、ドライバーに扱いやすさと安心感を与えてくれ、パジェロ以上のポテンシャルを感じ取れる。ストローク感をベースにしたサスペンションセッティングは、荷重移動をさせやすく、またグリップ力を感じ取りやすく、まさにスノードライブを愉しくしてくれる。
トライトン。ピックアップトラックとしての実用性を優先させながら、スタイリッシュなモデルとして進化した最新型トライトン(5世代目)。デビューは14年11月で、やはりタイで生産され、約150カ国に輸出されているモデルだ。先代トライトンは日本にも台数限定というスタイルで輸入販売されたことは記憶に新しい。4×4システムは、パジェロスポーツ同様にセンターデフにトルセンLSDを備えた「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」を採用しており、ハードな走行にも対応可能。
パジェロスポーツよりもホイールベースが長く確保されている分、そもそも直進安定性に長けており、スノードライブでは安定感がある。試乗した際は空荷状態だったが、それでもしっかりとリアにトラクションが掛かっており、意外にも発進時に不満はなく、また、コーナリングでも素直に曲がるといった印象であった。
2回に分けて、三菱自動車のSUVに採用されている様々な4×4システムを紹介してきたが、いずれのモデルも4×4システムだけではなく、AWCコンセプトがベースになっていることがキーだと感じた。たとえば、アウトランダーとデリカD:5で、4×4システムに世代差があろうとも、そのシステムだけに頼るのではなく、そもそも4輪をしっかり接地させるという基本的なシャーシーセッティングがあるがゆえに、デリカD:5でもコントロールのしやすさを感じ取れた。また、パジェロには、全てをオートにするのではなく、自らでモードを切り替えて、その特徴に合わせてドライバーがドライビングを変えるというかつてのヨンクテイストが残っており、自分で操れるスノードライブの愉しさがあふれていることを再認識できた。いうまでもなくアウトランダーPHEVの高い安定性と操縦性の両方を手に入れているというハイレベルぶりにも驚いたし、その先行試作車のさらなる可能性にも期待を感じた(アウトランダーについては前回のレポートを参照されたし)。
三菱のSUVのいずれに共通するのは、雪道をただ安全に走るだけではなく、愉しく走ることができるポテンシャルがあること。それはスタイルだけのSUVにはないアドバンテージとも言えるものであり、三菱のAWCに対するこだわりをそこに感じた。
文/吉田直志
写真/三菱自動車