【紹介/試走】BMW MINI COOPER-SD CROSSOVER ALL4
2017.4.1
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プレミアムSUV
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BMW
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大きくなってさらに進化
新型クロスオーバーディーゼルの実力
クロスオーバーもついに第3世代へ
ディーゼル4×4の選択肢が増えた!
かつてラインナップされていた「クーペ」や「ロードスター」、「ペースマン」といったバリエーションが姿を消し、「3ドア」「5ドア」「コンバーチブル」、観音開きのテールゲートを持つ「クラブマン」、そしてSUVと位置付けられる「クロスオーバー」の計5タイプ29モデル…これが日本での現行BMW MINI・ファミリーとなっている。
今回は、この2月に日本での販売が開始された新型クロスオーバーの試走レポートである。欧州マーケットでは「COUNTRYMAN(カントリーマン)」というモデル名で販売されているこのクロスオーバーが、ひと足先(2013年)に第3世代へとモデルチェンジしていた他の4タイプ(3ドア、5ドア、コンバーチブル、クラブマン)から後れを取ること4年、満を持してのフルモデルチェンジを果たした。
新型クロスオーバーは、旧モデルと比べると全長で195mm、全幅で30mm、全高は45mm拡大された。比較写真を見ても分かるとおり、前後オーバーハングやホイールベースも延長されたため、全高が高いにもかかわらず、全体的な見た目のバランスとしては少し平べったくなり、その分安定感が増した印象だ。
従来はシリーズ最大の車格を誇っていたクラブマンと同サイズのホイールベース(2,670mm)となり、全長/全幅/全高ともクラブマンを上回ったため立場が逆転し、クロスオーバーがシリーズ最大サイズの座にのし上がった。
新型のラインナップは、現時点では「クーパーDクロスオーバー」「クーパーDクロスオーバーALL4」「クーパーSDクロスオーバーALL4」の3モデル。全てクリーンディーゼル搭載モデルである。旧モデルから大幅にパワーアップした2タイプの2.0リッター直4ツインパワー・ターボディーゼルで、クーパーDには最高出力150PS(110kw)、最大トルク330Nm仕様が、そしてクーパーSDには同190PS(140kw)/400Nm仕様の強心臓が搭載される。
MINIファンであれば、もうお気づきかと思うが、従来ディーゼル搭載のALL4(つまり4×4モデル)は、クーパーDクロスオーバーにのみ設定されていたが、新型ではクーパーSDにも設定されたため、選択肢がひとつ増えたことになる。なお、従来どおりクーパーSクラブマン(2.0リッター直4ガソリン)にもALL4の設定があるので、シリーズ全体で4×4モデルはこの3車種ということになる。
ただし、今年の秋には、既に欧州マーケットで販売されているMINI初の新世代ハイブリッド・モデル「クーパーSEクロスオーバー(PHEV)ALL4」が日本に投入される予定とのことなので、さらに選択肢は増える予定だ。
よりパワフルになったディーゼル
ステップトロニックATは6速から8速へ
今回の試乗車両は、「クーパーSDクロスオーバーALL4」。同じ2リッター直4でも、よりハイパワーなディーゼルを搭載したモデルである。旧型クーパーDクロスオーバーALL4に搭載されていた2リッター直4ディーゼルターボは、最高出力112PS/最大トルク270Nmというスペックで、出足は軽快、ただしアクセル操作に敏感に反応するほどではなく、アクセルをグイッと踏み込むと、ジワッとトルクの太さを感じさせつつ力強い加速に移る…そんな印象だった。
これに対して新型のクーパーSDクロスオーバーALL4に搭載されたディーゼルターボは190PS/400Nmというハイスペック。同排気量のエンジンとは思えないほどのパフォーマンスの差をハッキリと体感させてくれた。
ドライビングモードをSPORTにセットし、アクセルを踏み込むと“ジワリ”ではなく、“ガツン”とテールを蹴飛ばされたように俊敏に発進。各ギア5,000rpm付近まで淀みなく回り、グイグイ加速していく。旧型に較べ確実に車両重量は増加しているはずだが、それを全く感じさせないどころか大幅に軽量化されたような錯覚に陥るほどの加速フィーリングだ。
ドライビングモードをGREEN(一般的なECOモードにあたる)に切り換えると、一転してアクセルレスポンスは穏やかになる。急激に踏み込んでも回転はジワジワとしか上がらず、早め早めにシフトアップされてタコメーターの針はほとんど2,000rpmを超えることがない…という、モード間の差が明確な、メリハリの利いた設定である。
ATは6速から8速へと多段化され、とりわけO/Dギアの高速化による高速巡航時の低燃費化が実感できる。旧型の6速ATでも街中では充分スムーズなシフトチェンジが行われていたので、やはり8速化のメリットは、主に高速走行時の燃費改善にあるのだろう。
このほかAT関係で好印象だったのは、マニュアル操作時に使用するパドルシフト機構の改善だ。旧型ではパドル(と言うかボタン)を押すとシフトダウン、引くとシフトアップとなっており、これが左右どちらも同じ機能…というやや風変わりな方式が採用されていて、少々違和感を持っていたが、新型では「左パドル=シフトダウン、右パドル=シフトアップ」という一般的な操作法に変更されており、スムーズな操作ができるようになった。
ワインディング走行が楽しい!
“拡大”はオフロードでも有利?
従来同様、フロント:マクファーソンストラット、リア:マルチリンク式のサスペンションには大幅な変更はないが、フロントのロアアームの素材や構造が変更されていたり、リアダンパーのマウント位置が変更されていたりと、細かい部分では進化とコストダウンの両方が見てとれる。ただし、どっしりと落ち着きがありながら、タイトすぎず乗り心地のソフトなサス設定は、旧型と大きくは変わらない。
ワインディング路では、少々回転が落ちたところで簡単にはへこたれない低中回転域がやたら力強いディーゼルらしさと、踏めば応えるガソリンエンジン顔負けなレスポンスにすっかり魅せられてしまう。しかも、主な試走現場まで100km以上移動してきて、なおかつこんなにガンガン回しているのに、満タンで8個のLEDが点灯する方式の燃料インジケーターのLEDは、まだ1個しか消えていない、というオマケまで付く。
ホイールベースが延び、滑りやすいステージでの走行もさらに安定するのでは? ということで、整備されたフラットダートに乗り入れてみた。相変わらず「ヒルディセントコントロール」や「オフロードモード」的な、オフロードにおける機能拡張をアピールするようなスイッチは見当たらないので、オフロード走行はさほど想定されていないようだが、この心臓と脚ならそこそこ快適に走れそうだと感じたのだ。
結果から言うと、ソフトな脚は未舗装路でも路面の凸凹からの衝撃をやんわりとかわしてくれるので乗り心地は良い。ただ、少し大きめのギャップや穴に出会すと跳ね上げられやすく、速度によっては接地感が薄くなり、ステアリングの利きも低化する。電子制御のトラクションコントロールがきっちり働くので、四肢がしっかり接地している限り安定感は失わず、その点に不安は感じなかった。
今回のフルモデルチェンジでのもうひとつの注目ポイントは、ボディー、シャーシー拡大によるユーティリティー面での進化だろう。実際、見た目にも大きく広くなっていることは一目瞭然だし、キャビンやカーゴスペース等、内部の拡大は乗り込んだ時点で感じられる。全高の拡大はルーフレールのデザインによる部分が大きく、ヘッドルームの余裕は旧型とほぼ変わらないように感じたが、ルーフレール自体は、飾りから実用性を持つ形状に変更されている。
そんなわけで、総合的に見ても、SUVとしての利便性やパフォーマンスは格段に進化したミニ・クロスオーバー。少々平べったくなった容姿には賛否両論あろうが、SUVとしてはより魅力的なクルマに仕上がっている、と言うのが正直な感想である。
その反面、このクラスの国産SUVにも言えることだが、「売れるとデカくなる」というこの傾向は如何なモノか、とも思うのだ。コンパクトさや軽快さがウケて人気モデルとなったのに、広さや荷役性が求められて肥大化していき、気付けば「ぜんぜんコンパクトじゃなくなってた…」、と、そんなSUVもいくつか思い当たる。
いわゆるクラシックMINIとはユーザー層も違えば役割も違うことは明白なので、「ちっともミニじゃない」などと揚げ足を取るつもりはない。しかし、コンパクトで小粋なMINIは、この先やはり残しておいて欲しい気がする。そして、その小さなままのMINIに4×4の設定があれば、さらに楽しいことになりそうだと思うのだが、如何だろうか。
【エンジン】
1,995cc 直列4気筒DOHCディーゼルエンジン。最高出力140kW(190PS)/4,000rpm、最大トルク400Nm/1,750〜2,500rpmを発生する。旧型同様、アイドリング時はカラカラ音が大きめ。
【騒音計測データ】
●車内・・・・44.0dB
●ボンネット閉・・・・72.5dB
●ボンネット開・・・・77.0dB
※エアコンOFF、電動ファン非作動/アイドリング時。なお、当コーナーでの騒音計測は毎回微妙に異なる環境下(天候、気温や地形等)で実施されるため、計測値を他車と比較することはできません。
上:アナログメーターは健在。センタースピードメーターだった部分にオプションの液晶画面が入った。
下:基本デザインは先代モデルと変わらないが、細部に変更が施されたインパネ。
トランスミッションは、8 速AT(ステップトロニック付)を採用。シフトレバーベゼルにはドライビングモードの切り換えスイッチがある。パーキングブレーキは電磁スイッチ式に変更。
前席はオプションの電動調整式スポーツシート(右)。リアシート(左)は3人掛けでスライド、リクライニング可能に。
旧型と同様、リアシートの背もたれは40:20:40分割式で、4人乗車+長尺物積載が可能。最大カーゴ容量は旧型よりも100リットル多い450リットル。
パンク修理キットを標準装備し、スペアタイヤはなし(上)。ピクニック・ベンチと呼ばれるバンパーのカバーと一体化したクッション。床板にホックで固定でき、意外に実用的だった(下)。
ヘッドライトとテールランプのデザインが変更された。アダプティブLEDヘッドランプとLEDフォグランプは標準装備。
給油口は右側に変更。日本では未だ欧州車=ディーゼルの図式が希薄なのか、厳重に「軽油」を強調。
全高45mm拡大のほとんどはこのルーフレール。本来のルーフレールとして機能するデザインが採用された。
フロントサスは、ストラット式コイル(左)、リアサス(右)はマルチリンク式コイルの独立懸架。オプションのダイナミックダンパーコントロールが設定されていた。
タイヤサイズは225/50R18。ホイ-ルは7.5J×18サイズの「ピンスポークブラック」を装着。
文/内藤知己
写真/佐久間清人