【BACKWOODS】電子書籍編集人 宮島秀樹

2016.9.3

    • コラム
    • 国産メーカー

 先月、取材で久々に東北の林道へ出かけた。ジムニーJB23で出かけたのだが、やはり道幅の狭い日本の林道ではこのくらいコンパクトな方が走りやすいと実感。スペースのない場所でUターンすることも容易なので、荒れた枝道などもアタックしやすい。生い茂った草や枝によるボディースクラッチが少ないことも、筆者にとっては精神衛生上の大きなプラスだ。もちろん、流行りのSUVには望むべくもない、前後リジッドの頑丈な足とローレンジの存在は大きなアドバンテージであり、大変心強いものだ。

 

 しかし、そのコンパクトさも、積載性の面ではデメリットだ。大人二人でキャンプしながらのツーリングであったが、ひと通りのキャンプ道具や調理道具、食材、飲料に、最低限のレスキュー道具、そして撮影機材を積み込むと、リアシートを倒しても車内はパンパンで、背もたれのリクライニングも出来ないほど。

 

 やはりもう少しサイズの大きな本格四駆が欲しくなるところだが、残念ながら現在新車で購入できるローレンジ付きの四駆は少なく、またほとんどが大型かつ高級車となっている。自分がオーナーだったら、オフロードコースはおろか、林道すら走るのをためらってしまうだろう。それ以前に、価格やランニングコストが大きなハードルである…。

 

 問題は、サイズ的にも、機能的にも、そして価格的にも、ジムニー(¥1,296,000〜)と上のクラスの間を埋める本格四駆が現状ないことだ。ローレンジのある国産四駆となると、新型と併売されているエスクード2.4(¥2,181,600〜)くらいしかなく、その上はFJクルーザー(¥3,240,000〜)、ランドクルーザープラド(¥3,504,109〜)、ランドクルーザー200(¥4,728,437〜)となる。いずれも全幅は1,800mmを超えており、ジムニーの1,475mmよりもかなり恰幅がいい。

 

 個人的には、ボディーサイズは5ナンバーサイズ程度で、ラダーフレームを持ち、前後リジッドサスで、ローレンジを持つコンパクト〜ミドルサイズの本格四駆に登場して欲しいとずっと思っている。エンジンは2リッター前後のガソリンかディーゼル。そう、つまり何のことはない、初代プラドや初代ハイラックスサーフのような四駆である。当時のこのクラスのエンジンはパワーも燃費も今ひとつであったが、高効率化の進んだ最新のエンジンであれば大きな不満は出ないだろう。トラクションコントロール類は必要最低限でいいが、パドルシフトでギアチェンジできたら、トライアルやロッククローリングなんかもっと楽しめるようになるはず。

 

 …と勝手な願望を述べたが、今ドキそんな四駆どこが造ってくれるのよ? と思われる人も多いだろう。グローバル化とコストメリットの追求が最優先事項となっている今のクルマ造りは、ボディーの大型化と使い回しできるプラットフォームの開発が大前提だ。小さいサイズのボディー、四駆や小型トラックにしか使えない専用シャーシーを開発するなんてどのメーカーも考えないことなのかも知れない。

 

 しかし、乗用車の世界ではそれが行われている。例えばトヨタ86(スバルBRZ)。これは当初インプレッサ用のプラットフォームを流用する計画だったというが、目標とする性能を実現させるためプラットフォーム自体がほぼ専用設計されたという。クルマの肥大化が進む中にあって、ボディーサイズも比較的コンパクトにまとめられている。昨年登場したホンダS660も完全新設計の専用プラットフォームが採用されている。こちらは海外にも輸出されるトヨタ86と違い、ジムニーと同じ軽自動車だから今のところ国内専用のミニマムサイズである。

 

 販売台数の面ではどうか? トヨタ86の2015年販売台数は6,688台。月550台強の販売台数だ。スバルBRZの2,043台をプラスしても月700台程度である。また、ホンダS660の販売計画台数は、大量生産ができないこともあって800台となっている。その一方、ジムニーJB23の年間販売台数は12,555台(2015年4月〜2016年3月)となっており、月1,000台以上コンスタントに売れているのだ。デビューしてから18年近く経っている上、新型が噂されているモデル末期の四駆が、これらスポーツカーの販売台数を上回っているのである。これは何を意味するのか?

 

 トヨタ86は、若者のクルマ離れを食い止めることが当初の開発テーマだったと言われている。また、S660の開発責任者は20代だ。トヨタ86、S660のいずれも、実際のユーザーは中高年層も多いそうだが、若い感性を取り入れるとともに、クルマ好きの裾野を広げ、自動車文化を育ていこうというコンセプトを持ったクルマであることに違いない。

 

 でも、それはスポーツカーだけの役割ではないはずだ。オフローディングには、3 次元的な挙動の制御や路面状況に対する的確な判断力、リカバリーノウハウなど、スポーツカーとはまた違ったドライビングテクニックや知識が必要であり、奥深さと面白さがある。オフローディングもひとつの自動車文化であり、それを育てていくこともまた必要だと思う。トライアル、ロッククローリング、ダートアタック、耐久レース、ミニラリーなどの競技やイベントも各地で活発に開催されており、統計こそないがオフローディングをモータースポーツとして楽しんでいる四駆ユーザーは全国レベルでかなり存在しているという感触がある。しかし、オフローディングが楽しめる新車の四駆は、ジムニーくらいしか選択肢しかないのが現状であり、いまだに20年以上前の三菱ジープや80系以前のランクル、リーフジムニーにこだわって(あるいは仕方なく…)乗っているユーザーも多い。

 

 程よいサイズで、より安価で、なるべく軽量で、オフローディングがとことん楽しめる本格四駆を欲しているユーザーは、筆者だけではないはずだ。そして、トヨタ86やS660が登場したように、そんな四駆が登場するのも夢ではないと信じたい。バタフライ効果という言葉があるが、この拙稿が新たな四駆を生み出すための大きなうねりを起こす一石となればいいなぁ。

20160903一昨年ランクル70系が限定再発されて大きな話題となったが、4リッターV6ガソリンエンジンとMTのみという設定で、価格は¥3,600,000〜と、かなり買い手が限られるクルマであったことも事実。もう少しアプローチしやすい本格四駆を望んでいるユーザーも多いことだろう。