【オフロード試走】NISSAN X-TRAIL

2015.10.2

    • 四輪駆動車
    • 日産

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メーカー主催のオフロード試乗会へ

 人工コースではあるが、オフロード走行の基本要素がひととおり揃ったステージで試乗が可能、という近頃では珍しいイベントである。“無敵の走破性”を謳いながらも「広報用試乗車両でのオフロード走行はご遠慮下さい」的なメーカーあるいはインポーターも珍しくない昨今にあって、これは快挙と言って良い。エクストレイルが備えるオフロード性能への自信が窺える企画とも受け取れる試乗会にさっそく出向いた。

エンジン、4×4システム、電子制御デバイス

 試乗車はエクストレイル20X 4WDのガソリン車。最高出力108kW(147PS)/最大トルク207Nm(21.1kgm)を発生するMR20DD型2リッター直4・DOHCを搭載する。

 

 ちなみに、同グレードのハイブリッド車は、このエンジンにRM31型モーター(30kW/160Nm)が組み合わされている。発進時から最大トルクを発揮する電気モーターを積んだハイブリッド車のオフロード性能も興味深いが、まずは、ハイブリッド車より130kg軽く、その他にもいくつか有利な点(後述)があると思われるガソリン車でオフロード・ランを…という趣旨である。

 

 4×4システムは、お馴染みの「ALL MODE 4×4-i」が採用されており、ドライバーが任意で「LOCK」「AUTO」「2WD」を選択できる方式だ。

 

 2WDモードは(前:後)100:0に固定の前輪駆動、AUTOモードでは通常走行時100:0、状況により最大50:50まで前後トルク配分を適正に調整する。そしてLOCKモードでは、状況にかかわらず50:50固定となり、モーター駆動はOFFとなる。

 

 このほか、オフロード走行で威力を発揮するヒルディセントコントロールやアクティブライドコントロールはもちろん、オン/オフどちらでも有効なVDC(ビークルダイナミクスコントロール)やブレーキLSD、ヒルスタートアシスト等もハイブリッド車と同様に標準装備されている。

テクニック要らずのヒルクライム&再スタート

 まずは全長400m、最大斜度25°のヒルクライムへ。助走距離は12〜3m、Lレンジ、LOCKモードで一気に登る。

 

 最大斜度ポイントに近づく辺りでやや失速気味になり、感覚的にはパワー不足に感じる。しかし、これは主にVDCの働きによってタイヤの空転、つまりパワーロスを防ぐためエンジン回転が制御されていることによる現象だ。

 

 また、この坂は土壌が軟らかく凸凹で掘れやすいため、常にブレーキLSDによる制御も利いている。アクセルベタ踏みなのに回転が上がらないのでついついパワー不足と感じがちだが、実際は最大限にトラクションを稼げる回転数に抑えられているワケだ。

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 つまり、このようなヒルクライムでの基本とされている「アクセルを緩めたり煽ったりしてトラクションを回復」という基礎テクニックは一切不要となる。ベテランオフローダーには違和感が強くて馴染めないかも知れないが、“アクセルは常にベタ踏みでOK”という簡単さである。

 

 さらにトルクの太いハイブリッドなら助走無しでも余裕で登れそうだが、LOCKモードにセットした時点でモーター駆動はキャンセルされるので、現実的にはガソリン車が有利と思われる。

 

 次に、坂の途中で一旦停止して再発進を試みる。ブレーキペダルから足を離しても、ヒルスタートアシスト機構が制動状態を約2秒間キープしてくれるので、パーキングブレーキ要らずだ。

 

 急坂の途中にいるという恐怖心から、発進時にアクセルを踏みすぎたとしても、前述のVDCがアクセル開度を制御してくれるので、タイヤが空転して前進できなくなる危険も少ない。

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安心&安定のヒルダウン

 登ったら下らなければならない…というワケで、次にヒルダウン。ローレンジを備えた副変速機のないエクストレイルの場合、安全に坂を下るためのヒルディセントコントロール・システムは必須アイテムと言える。

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 エクストレイルのそれは、「アドバンスドヒルディセントコントロール」と呼ばれるシステムで、車速設定(4〜15km/h)機能が付加されている。

 

 斜度の大きい坂の下り始めは、やや勢いがつくまで利かないので最初はヒヤッとするケースもあるが、速度制御が利き始めてからは、ブレーキペダルを踏まずに、安心してステアリング操作に集中できる。

 

 もし態勢が崩れたら(車体がヨコに向きかけたら)アクセルを踏めば良いのも、ローレンジ装備車と同じだ。作動音も小さく気にならないレベルで、違和感の少ない電子制御と言える。

“短足は電子制御でカバー”のサスペンション

 サスペンションは、この手のコンパクトクラスの中では適度に柔らかい設定なので、オフロードでもそこそこ快適に走ることができる脚だ。  

 

 ただし、フロント:マクファーソンストラット、リア:マルチリンクのサスペンションストロークはお世辞にも長いとは言えず、オフロードではちょっとした地面のうねりでも脚が浮き気味になる。

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 もっともこれは、オンロードでの操安性とトレードオフの関係にあり、どちらを優先させるかという問題でもあるので致し方なし、といったところだ。

 

 なお、エクストレイルの場合、ハイブリッド車は前後にスタビライザーが備わっているが、ガソリン車はフロントのみなので、幾分かはサスストロークに違いがあると思われるが、走破性に大きく影響するような差ではないだろう。

 

 また、凹凸の多いステージをある程度の車速で走る場合、車体の上下運動を予測し、エンジントルクとブレーキを自動制御する「アクティブライドコントロール」が働き、車両の揺れを抑制してくれるので、もともと柔らかめのサスペンション設定と相まって、かなり快適なドライビングが可能である。

 

 車体の揺れを最小限に抑えられる電子制御は、正しいライン取り(ステアリング&アクセル操作)によって、より高い効果を発揮するので、ベテランオフローダーの満足度も高いはずだ。

オフロードへの期待が高まる4×4だ!

 エクストレイルは、オフロード走行の愉しさを現実的に味わえる4×4だ。これ以上大きくて重い4×4だと、機動力に欠けるし、これ以上高価な4×4だと、タイヤやホイールに泥がつくことさえ憚られる。

 

 自家用車としても使い勝手が良く、時々オフロードで遊んでみようか、という気にさせるだけのポテンシャルも持ち合わせている。

 

 試乗車は20Xという上級グレードだったが、標準グレードの20Sでも、クルーズコントロールやインテリジェントパーキングアシスト、ふらつき警報等のドライバー支援システムがオプションとなるだけで、今回のオフロード試走で有効だったシステムはすべて標準装備されている。

 

 さらにオフロードを楽しめる廉価バージョンが用意されれば…という期待が湧いてくる4×4でもある。

NK9J2314NK9J2253「エクストリーマーX」には前後にアンダーカバーが装備される。SUVとしては小さいアプローチアングルに加え、若干クリアランスが少なくなるので地面に擦りやすい。

 

文/内藤知己 写真/宮島秀樹