【紹介/試走】GRヤリス RZ High performance

2020.12.24

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前回紹介したトヨタ・ヤリスになんだかスゴイモデルが登場した。そのスゴさは、専用とされたフェンダーやルーフを低く抑えたフォルム、さらにはハイパフォーマンスを誇る顔つきからダイレクトに伝わって来るものばかり。果たしてのそのポテンシャルとは…。あえてその日常を試してみた。
 

WRCで勝つために誕生したモデルが日常の世界へ

最高出力272PS、最大トルク370Nmを誇る「RZ High performance」モデル

Designed by WRCを掲げてデビューを飾ったGRヤリス。そこには、たんにWRC参戦を目指すために設計されたモデルに止まらず、トヨタにスポーツカーを取り戻したいという豊田章男社長の想いが強くあったのだとか。ちなみに、最近のトヨタのスポーツカーといえば、スープラや86を思い浮かべるかもしれないが、それらは他ブランドとの共同開発でありオリジナルではないが、このGRヤリスはハイパフォーマンスかつコンプリートモデル。
 
なんて聞くと、競技指向を強めたモデルであり、日常性は乏しいのかと思われたかもしれない。たしかに、3ドアパッケージゆえの不便さはあるし、ルーフが下げられたことによってリアシートの居住性に不足が出てくるなど、マイナス面はある。しかし、その装備内容に、スエードを組み合わせたセミバケットシートの採用や、ディスプレイオーディオによるコネクティビティーを活用できたり、さらに予防安全の面では、RSにサポカーSワイド相当の機能を、RZ系にサポカー相当の機能を選択できるように設定し、さらに、リアシートは6:4分割可倒式を採用。そう、WRCで勝つために誕生したモデルながら、日常でも使えることを強く謳える内容に仕立ててあり、このアプローチこそが、GRヤリスの真骨頂となっている。
 
GRヤリスには、大きく3つのグレードが設定されている。ひとつは1.5ℓターボエンジンを搭載したFFモデル(CVTのみ)、1.6Lターボを搭載したRZ(MTのみ)、そして競技ベース車となるRCだ。その中から、今回はRZをさらにハイパフォーマンスに仕立てた「RZ High performance」をご紹介しよう。このグレードは、価格、装備面においてもGRヤリスのフラッグシップ的なポジションにあり、走りはもちろん、GRヤリスが目指した世界観が存分に表現された仕立てにもなっている。
 
ボディーデザインは、ラリーシーンで勝つためにエアロダイナミクスを徹底的に追求。パッケージングに3ドアスタイルを採用し、さらにルーフ後端を下げたフォルムを選択。ダウンフォースを味方につけるためにフロントのロアスポイラー、カナード機能をフェイスにデザインし、リアセクションの絞り込んだ造形も相まって、まさにスピードが上がっていくにつれてボディーを路面へと押し付けてコーナリングスピードを高めていく、そんな設えとなっている。もちろん、エンジンフードやリアゲートにアルミを採用しているが、さらにはサイドドアもアルミとしているなど、軽量化、低重心化をとことん追求。ちなみに、そのプラットフォームはスポーツ4WDのパフォーマンスに対応できるようにと、リアセクションはひとクラス大きいタイプを組み合わせている。ボディーサイズは、全長3,995mm、全幅1,805mm、全高1,455mmと、見た目以上にワイド&ローなフォルムとなっている。
 
エンジンは匠の手によって1基ずつ組み上げられた新開発1.6ℓ3気筒ターボダイナミックフォースエンジンを搭載。最高出力272PS、最大トルク370Nmを誇るハイスペックはもちろんのこと、レースに求められる高い信頼性、さらには高回転時にドライバーの心を躍らせてくれるスポーティーなエキゾーストノートなど様々なトピックをもつ。駆動方式はGR-FOURと名付けられたアクティブトルクスプリット4WDで、さらにノーマル、スポーツ、トラックを設定した4WDモードセレクトスイッチによってシーンに応じた走りを提供してくれる。

 

日常と非日常の走り、いずれも演出する

新世代コンプリートモデル

試乗するまでは、きっとスパルタンなモデルに違いない、と、思い込んでいた。ところが専用装備となるプレミアムスポーツシートに座った瞬間に心地良さを感じた。
 
この手のハイパフォーマンスモデルに乗ると、セミバケットタイプとはいえサポート性の強いデザインゆえにまずはタイト感を覚えるものだが、それがなかったのだ。クラッチをミートして走り出してみると、クラッチが繋ぎ難いといった印象はないどころか繋ぎやすいといった印象のほうが強かった。また、低回転域から太いトルクを発生させているとはいえ、そこに過敏なレスポンスは見られず、日常に十分どころか、十二分に使えることを感じさせた。
 
そして、走り出してからしばらくして、乗り心地にスパルタンテイストがまったく感じられないことに気付いた。そう、後から気付いた。
 
すこぶる高いボディー剛性も手伝ってサスペンションの動きは実にしなやかであり、そちらに気を取られていたためだ。よく観察してみると、乗り心地に大きく影響を与える初期の動きをしっかりと確保して、ハイパフォーマンスモデルとしては考えられないようなフラットな乗り味を作り上げており、これ、トップグレードだったよな? と確かめてしまったほどだ。簡単にいえば不快感を誘う硬さが ”見当たらない” のだ。
 
しかし、リアサスにピロボールを用いるなど乗り心地に対しては、不利に働くパーツを採用しているはず……と、不可思議な印象を受けたが、これが新世代コンプリートモデルの仕立てなのかと、とにかく感心した。
 
エンジンは、アクセルを踏み込まない限り、トルクフルだし、過敏すぎないレスポンス含めて、実に優等生。ただし、少々、深く、そして強く踏み込むと、その表情を一変させ、豪快な加速を披露。それは公道ではアクセルを踏み込み続けることができないほどのパワーであり、ハイパフォーマンスモデルであったことを思い起こさせるもの。
 
ハンドリングは4WDながら素直さを極めており、操舵に爽快ともいえる気持ち良さを感じさせつつ、コーナーではすこぶる高い安定感を提供。何においてもポテンシャルはハイレベルであり、それゆえに、日常、非日常をハイバランスさせている、といった印象が強く残った。
 
456万円というプライスは高くはない、と試乗を終えて感じた。そこに、愉しさを提供してくれるスポーツカーとしての価値以上を感じたし、それでいながら日常でも使えることまで考えると、むしろリーズナブルとさえ思った。ただし、日常性の面では、ひとつだけ、リアシートは3ドアゆえの乗降性のしづらさだけではなく、ルーフが低くなっている分、大柄な人は頭を屈める必要があるため、エマージェンシィー的に考えておいたほうがいいこと、をお伝えしておきたい。リアシートに座った身長約180cmの編集部水島は、乗り心地に対しての不平はまったく発していなかったが、この頭を屈めるスタイルには少々小言を漏らしていた。
 
もちろん、競技目的ではなくてもオススメできることはいうまでもない!
(文章:吉田直志/写真:山岡和正)

 

ヤリスのレギュラーモデルをベースにしているが、各エアロパーツのみならず、フェンダーやルーフまで専用設計。リアセクションをヤリスよりも上のクラスのプラットフォームを組み合わせることでスポーツ4WDに求められをパフォーマンスを実現。

 

ボディーの空力性能とエンジンの冷却性能をダイレクトに表現したフェイスデザイン。ラジエターグリルをバンパー下部に配し、左右に大型ダクトを組み合わせている。ダウンフォースを期待させるロアスポイラーもポイント。

 

下げられたルーフ、クォーターパネルまわりから絞り込まれたフォルムも、ダウンフォース獲得にプラス。もちろん、トレッドも拡大(フロント:1,535mm/リア:1,565mm)。

 

専用となるリアバンパーは走りのパフォーマンスだけではなく、ボトム部をピアノブラックとしてアッパークラス感の演出も行う。マフラーは左右2本出しを採用。

 

 

 

ルーフにはレクサスLCのボディーにも組み合わされているC-SMCを採用。炭素繊維に樹脂を含ませたシート状の材料により、複雑な形状を可能としながら、軽量化を達成。低重心化に寄与している。

 

ハイパフォーマンスカーテイスト溢れるコクピットだが、スパルタンな雰囲気はなく、むしろアッパークラス感を覚えさせる。センターの8インチディスプレイオーディオは標準装備。エアコンは左右独立温度コントロール可能なフルオートタイプを採用。メーター間に配置された4.2インチ液晶には、前後トルク配分やターボ過給圧なども表示。

 

ノーマル、スポーツ、トラックと、シーンに応じた前後トルク基本配分を設定できる4WDモードセレクトスイッチ。スポーツもしくはトラックモードでVSCをオフにすると、コントロールの幅が広がる(つまりドリフト走行も可能に)。

 

専用装備となるGRマーク付きプレミアムスポーツシート。サポート性はもちろん強いが、スエード素材も相まって包み込むような心地良さ、つまり、アッパークラス感も備えている。ちなみに乗車定員は4名。

 

ラゲッジルームは6:4分割可倒式リアシートのすべてを倒せばタイヤ4本を搭載可能。その容量は、4名乗車時で174Lを確保。前後重量配分にこだわってバッテリーをラゲッジフロア下に配置していることもトピック。

 

専用18インチBBS製アルミホイール(メタルスターグロスブラック)にパイロットスポーツ4S(225/40ZR18)の組み合わせ。ブレーキはフロントがアルミ対向4ポッドキャリパー+スリット入りベンチレーテッドディスク(18インチ)、リアはアルミ対向2ポッドキャリパー+スリット入りベンチレーテッドディスク(16インチ)を採用。

 

新開発となる1.6ℓ3気筒ターボエンジン。WRCでの最大の性能を引き出せるようにボアとストロークも設定。アルミダイカスト製シリンダーブロックの浅底ウォータージャケット化、高強度アルミ製シリンダーヘッド、中空組立カムシャフトほかトピックは数多く。タービンにはセラミックボールベアリングを軸受け構造に採用し、低フリクション、高レスポンスを追求している。

 

公道でもそのポテンシャルを感じさせてくれるものの、全てを体感することは難しい。かといって、日常域において扱い難さがあるわけでもなく、むしろ、扱いやすいと感じさせるから不思議だ。そしてクルージングは予想を超えた得意ぶり。フラットな乗り心地はシートの質感も相まって快適性すら感じさせるもの。ただし、リアシートにおける居住性はルーフが下げられていることもあって、期待しないほうが無難だろう。
ワインディングはとにかく愉しさが溢れ出てくるといった感じ。ドライバーの意のままにラインをトレースできる上に、ボディー剛性、シャシー剛性、駆動力配分、すべてが安定感を提供してくれるため、安心感すら覚える。

 

公式サイト

https://toyota.jp/gryaris/
https://toyotagazooracing.com