【BACKWOODS】電子書籍編集人 宮島秀樹

2016.10.1

    • コラム
    • 国産メーカー

8月下旬以降、日本各地ではっきりしない天気が続いている。各地で局地的大雨が発生し、北海道・東北地方では台風10号によって大きな被害が出た。ニュース番組では、冠水した町の風景が頻繁にレポートされ、水しぶきを上げて走るクルマの映像が定番のように映し出されている。中には、軽ミニバンや普通のセダンでかなり水深があるような所を走っている場合もあり、見ているこちらの方がヒヤヒヤしてしまう。実際にこの台風では、愛知県でアンダーパスにおいて水没死亡事故が発生した。数年前の3人が死亡したキャンプ場での水没転覆事故も記憶に新しいが、台風や集中豪雨のたびにこうしたクルマの水没事故が起こっている。

 

報道番組等で冠水した道路をクルマで走ることの危険性はたびたび採り上げられているが、愛知のアンダーパスの事故報道に関連して『SUVでも冠水路走行は危険』というトピックがTVニュースで放送された。この元ネタは、数年前にJAFが行った「冠水路走行テスト」http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/submerge/detail1.htmの映像で、旧型エクストレイルが全長30m(+前後スロープ)で水深60cmの冠水路に30km/hで侵入すると、わずか10mのところでエンジンが止まって進めなくなってしまった、という内容だ。同テストでは、セダンとエクストレイルが、水深30cmと60cmをそれぞれ10km/hと30 km/hで走行した場合も検証されているが、放送されたのはエクストレイルが水深60cm(タイヤがほぼ水没する深さ)を30km/hで走ったケースで、セダンが水深60cmを10 km/hで走った場合はスロープ部分まで31m走れたのに対して、ずっと短い距離でエンストしてしまうと解説していた。エクストレイルとセダンの速度が違うので、この情報の切り取り方に疑問を感じない訳ではないが、ユーザーに対して冠水路走行の危険性をあらためて認識させる意義はあったと思う。

 

TVニュースで『SUVでも冠水路走行は危険』ということがトピックとして採り上げられたのは、やはりSUVは普通の乗用車よりも悪路に強いという一般的なイメージがあるからだろう。SUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)とは、本来は四駆かどうかにかかわらず、ピックアップかピックアップベースのワゴンを指すカテゴリーとしてアメリカで使われてきた言葉であるが、最近はその定義が曖昧となっており、特に日本では車高と最低地上高が少し高く、メカニズムはどうであれ4×4であればどんなクルマでもSUVと名乗ることがほとんどだ。メーカーサイドでもカタログやCM等でオフロードイメージを打ち出している場合があり、クルマについてそれほど詳しくないユーザーは、オフロード四駆に近い走破性を期待してしまうことも多いだろう。

 

しかし、今のSUVは乗用車ベースであり、オフロード走行はほとんど考慮されていないモデルも多い。本格的なオフロード四駆はもちろん、少しでもオフロード走行を真面目に考えたSUVならば、ECUやエアインテークなどはなるべく水没しにくい場所に配置され、水しぶきを吸い込みにくいように形状や密閉性が工夫されている。ちなみに、ランドローバー系モデルは、高級SUV化が著しく進んでいるにもかかわらず、ほとんどのモデルのカタログに走行可能な水深が明記されている。渡河深度の明記はともかくとして、アプローチアングルなどの3アングルが明記されてないモデルや直結4×4(前後トルク配分固定)モードがないモデルでは、基本的に深い冠水路は走行できないと考えた方がいいと言える。

 

もっとも、オフロード四駆であっても、冠水路走行は避けた方がいいことは言うまでもない。いくら走り慣れた道であっても、路面状態が分からないので基本的に迂回する、あるいは水が引くまで走行を諦めた方がいい。運良く走り切れたとしても、パワートレインやステアリング関係、電装類に悪影響が出てくる可能性が高くなる。車内フロアまで水が侵入してしまうと、車内を乾かすのが大変だ。ちなみに、短時間でしっかり乾かさないと、車内に悪臭がしつこく漂うことになるだろう。また、川渡りなどは、自然保護やモラルの面でも、いたずらに行うべきではない。

 

せっかくなので、ゲリラ豪雨などで緊急避難的にやむなく冠水路走行や渡河をしなくてはならない場合のテクニックについても触れておきたい。クルマが比較的安全に走行できる水深はタイヤの半分程度と言われている。オフロード四駆の場合はタイヤが全部水没するぐらいまでの水深は走行できる可能性は高いが、とにかく無理は禁物だ。進入速度はゆっくりで、勢いをつけて水しぶきを大きく上げるようなことはNGである。トラクションを活かして走り抜けたいが、障害物に当たるなどして前進できなくなったら素早くギアをリバースに入れて、来たルート上を戻るようにする。川などで水の流れがある場合は、必ず川下に向けてアプローチし斜めに横断する。この場合は、上陸しやすいかどうか対岸の状態もしっかり見定めおきたい。なお、川上に向けて進入すると、水流をダイレクトに受け止める形になって抵抗が大変大きくなり、またフロントまわりが大きく水を被ることになるのでかなり危険だ。水深が深い場合は、ラジエターファンが水圧で押し付けられてファン自体やラジエターを破損してしまう可能性もある。無事上陸したら、まず電装品の作動やラジエターの破損の有無、ブレーキの片効き、下回りに流木やゴミを抱えていないかなどをチェック。デフやトランスミッションのオイルチェックも早めにしておきたい。加えて、各部のグリスアップもしておく必要がある。

 

SUVは、その定義の曖昧さやメーカーのイメージ演出もあって、オフロードに強いという漠然としたイメージがあることは間違いない。しかし、ひと口にSUVと言っても、本格四駆からクロスオーバーまで玉石混交であり、オフロードカーに対する知識がない人にその差は分かりづらいかも知れない。オフロード走行を考慮してないSUVは、カタログやCMに「写真はイメージであり、オフロード走行には適していません」と明記した方がいいのではないだろうか。

20161001シュノーケルを装着したウニモグのレスキュー仕様。これだけの車高と装備があれば、かなり深い水深でも走行することが可能だろう。しかし、イマドキのSUVで走行できる水深は、普通のクルマとさほど変わらないと考えておいた方がいい。