ジオランダーM/T+ ワイルドトラクション

2013.3.22

    • タイヤ
    • スズキ

 

実はこのタイヤ、ジムニーのために開発されたスペシャルモデル。「ワイルドトラクション」というサブネームも与えられている。なるほど、トレッドをよく見 ると、普通のM/T+に似ているものの、比べブロック1つ1つのエッジが鋭く設計され、シー比も大きい。泥をよく噛み、かつ泥はけ性も高いことが想像でき る。センターグルーブも1本刻まれるのみで、Dan2グルーブなど緻密な設計が採用されるM/T+に比べ、見た目はぐっとシンプル、その分、アグレッシブ な印象だ。

 

この「ワイルドトラクション」開発の発端を担ったのは、YOKOHAMAチーム・ジオランダー所属、日本屈指のオフロード・ドライバーであり、マシンビル ダーでもある塙 郁夫さんだ。自らが開発・製作したスペシャル・ジムニーのため、このタイヤを選んだ塙さんに、開発に至った経緯をうかがってみよう。

 

「このワイルドトラクションは、2年くらい前から構想を温めていたものなのですが、今回のボクのスペシャル・ジムニーに合わせ、ようやくカタチになった、というものです」

 

かなりオフロード志向の強そうなルックスだが……。

 

「オフロード……というより、泥、特に水分を含んだ路面での性能を強化しました。従来のM/T+も必要にして十分以上のオフロード性能は実現され ていますが、重視しているのは局地的な性能というよりも、もっとスケールの大きな、スピードレンジの高いオフロード性能なんですね」

 

なるほど、ジオランダーM/T+といえば、いわゆるオフロードに強いマッドテレーンタイヤでありながら、オンロード走行での快適な乗り心地や操縦性の高さも評価されている。とくにオフロードを走らないユーザーでも、普段乗りが快適なため、M/T+を選ぶ人は多い。

 

しかし、それだけ高いオールラウンド性を備えているだけに、たとえばトライアル競技など、日本で行われるオフロード競技では実力が発揮しにくい、ということだろうか?

 

「実力が発揮できないわけではありませんが、ほかの、局地的性能のみを追求したタイヤと比べた場合、不利な条件というものは存在します。特に、ウェットな 泥のコンディションで重量が軽く、トラクションが得られにくいジムニーでそういった意見がありました。ジオランダーのM/T+は、むしろラリーや耐久レー ス、オフロードのロングドライブなどを重視した設計。また舗装路走行の多い日常使用でも快適に走れ、高い耐摩耗性でロングライフであることもコンセプトに しているんです」

 

クローズドコースで行われる競技では、その局地的性能しか評価されないので、結果、”ジオランダーはオフロードが弱い”との誤解が生まれてしまうわけだ。

 

「そう、だから、そんな競技でもジオランダーが勝てるように、と開発したのが、このワイルドトラクションなのです」

 

ということは、つまり、かなり尖った性能が与えられている、ということか?

 

「もちろん、ジオランダーの名を与えたからには、その基本的なコンセプト……世界中のあらゆる道を安心して快適に走れること……に妥協は していません。ただ、性能を泥や岩に特化している分、オススメしたいのは、あくまで競技志向の方や、局地的なオフロード性能を求める方。一般のユーザーの 方々には、やはり従来のM/T+を選んでいただきたいのが本音です」

 

ちなみにワイルドトラクションのサイズ設定は、今のところ195R16Cのみ。このサイズの外径は、従来のM/T+に設定のある185/85R16LTより少し大きく、6.50R16LTより少し小さい。幅は、そのどちらより少し広めだ。

 

「これもサスペンションをカスタムしたジムニーに、よりよいマッチングを検討した結果の設定です。グランドクリアランスの確保はもちろん、ギア比との相性などを考えてもベストマッチといえるのではないでしょうか」

 

さて、そんな、”競技に勝つため”に開発されたジオランダーM/T+・ワイルドトラクション。今回は試乗、というわけにはいかなかったが、塙さんのスペシャルジムニーに装着、その試走の様子を見ることができた。

 

コースに選んだモーグルは、たっぷりと水を含んだ、超マッディなコンディション。しかしスペシャルジムニーはラインを乱すこともなく、進んでいく。荒いト レッドが泥に突き刺さるような印象で確実に路面を捉え、トラクションを生みだしている。またタイヤが掻き出す泥の量の多さも、泥はけのよさを証明するもの だろう。もちろん、クルマも”マシン”と呼んでいいほどのポテンシャルを持っているが、それを生かすタイヤの効果はやはり大きい。

 

いわゆる”トラクション”タイプのタイヤが主流の、ジムニーの競技シーン。そこに打って出たジオランダーM/T+・ワイルドトラクションが、どんな活躍を見せるか? 楽しみにしていたい。

 

WILDTRAC_02マッディな路面にトレッドブロックが突き刺さるイメージの、ワイルドトラクションの感触。モーグルでもラインを乱すことなく、確実な前進をみせた。

 

WILDTRAC_03ハイスピードなオフロード走行も得意。掻き上げる泥の量は多く、このタイヤの泥はけ性の良さを物語る。基本的なトラクションも高く、操縦性は良好だ。

 

WILDTRAC_04ジオランダーM/T+のスペシャルモデルとなる「ワイルドトラクション」。サイズは現在のところ、195R16Cのみ、つまりジムニー専用となっている。

 

WILDTRAC_05方向性のあるパターンは従来のM/T+を連想させるが、ほぼ左右対称にトレッドブロックが並ぶM/T+に対し、ワイルドトラクションはブロックをセンターグルーブを境に、互い違いに配置。

 

WILDTRAC_06いわゆる”シー:ランド比”についても、シー比を大きく設定。泥詰まりを起こしにくく、ブロックが確実に路面を捉えるための配慮だ。

 

WILDTRAC_07ショルダーはエッジの立ったブロックと凹んだ部分を交互に配置。強い引っかかり効果を生むとともに、ステアリングの切れの良さにも貢献。

 

WILDTRAC_08サイドプロテクターはシンプルに3本のジャバラのみで構成。M/T+に比べシンプルな印象だが、十分な耐カット性を実現している。

 

WILDTRAC_09右が従来のジオランダーM/T+(185/85R16LT)、左がワイルドトラクション(195R16C)。ワイルドトラクションのほうが若干、外径が大きく太い。ブロック配置も実際は大きく異なっているのが分かる。

 

WILDTRAC_10今回、ジオランダーM/T+・ワイルドトラクションを装着した、スペシャルジムニー。塙さんによってビルドされた”マシン”で、四輪独立サスペンション、110馬力オーバーのエンジンなど、このままラリー&レースに出場できそうなスペックだ。

 

WILDTRAC_11YOKOHAMA チーム・ジオランダー所属のトップ・オフロードレーサー、塙郁夫さん。バハ1000、パイクスピークなど、その活躍はワールドワイド。局地性能をかさ上げした今回の「ワイルドトラクション」は、2年ほど前から構想を温めていたという。