奮戦記「オヤジたちの最後の挑戦」アジアクロスカントリーラリー2017

2018.5.2

    • コラム
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インタビュー:4WDプロジェクト代表 西川和久氏

これまで様々な国内レースを経験してきた西川氏。
そして自らも10年間ダート競技会を主催するなど、オフロードシーンにおいて第一線で活躍し続ける滋賀県の4WDプロジェクト。
還暦を過ぎた今、人生に悔いが残らぬようと一念発起して、昨年自身初となる「アジアクロスカントリーラリー」に参戦した。
いつかは「海外ラリーを!」と開業当時から夢見ていた西川氏にとっては、四駆人生の集大成とも呼べる最後の挑戦。その奮闘記をレポートする。

 

ラリーの過酷さは想像以上、しかし筋書きのないドラマだからこそ面白い!
昨年8月開催された「アジアンクロスカントリーラリー」に初参戦した4WDプロジェクト代表西川氏。海外ラリー参戦への思いは、同社創業当時に傍聴した横田紀一郎氏の講演に始まる。サハラ砂漠をはじめ長年世界中を駆け巡り、パリダカに日本人として初挑戦した横田氏の話に感銘を覚え「いつかは海外ラリーに参戦してみたい」と夢を抱くが、気が付いてみると、いつの間にか還暦をこえてしまっていた…。
 
昭和63年に創業し、様々なレースに携わる一方で、あらゆる四駆を手掛けてきた西川氏。この30年間は、ランドクルーザー80や130サーフ、パジェロやサファリと言った四駆ブームのまっただ中で活動し、そして昨今ではクロスオーバーSUVの台頭など、四駆業界の良きも悪き時代も経験してきた。
 
しかしどの時代でも、一貫してブレることなくレースを通じて四駆本来の楽しみ方を提案した西川氏。中でも優勝者にはグアム参戦権を与える「XCダート」レースが記憶に新しい。
 
「長いようで短い、とにかくあっという間の30年でした」と語る西川氏。四駆が本当に好きな人は、トレンドなど関係なく自然と集まってくるもの。いつしか同社を頼りに集うお客さんたちと、そしてレースやイベントで繋がった仲間達と会話を重ねていくにつれて、「若かりし頃の自慢話ばかりではダメだ。今なお現役で四駆を楽しんでいる俺の背中を見てもらい、何か感じてもらえたら…」そんな想いが、還暦を過ぎた西川氏の胸中に芽生えるようになっていた。
 
そんな折、4WDプロジェクト創業以来の仲間である「あきんど号」の二人と久々のお酒の席で、「いつまで現役でいられるか?」とセンチメンタルな話題に。「アジアンラリーへの挑戦は、正直70歳を越えたら厳しい。横田氏の講演で感銘を受け”いつかは海外ラリーに参戦する”あのとき抱いた夢に挑むのなら、今しかない!」と、あきんど号のサービスメカニック兼オブザーバーとして、加わることを決意した。
 
しかし日本国内で開催されているデイリーレースとは訳が違う。約1週間、たとえ宿舎に戻った時でもラリーのことが頭から離れず、様々なシーンをイメージしながら過ごさなければならない。たとえ毎日が万全の整備で挑めたとしても、現地での思わぬアクシデントに見舞われることがあるかもしれない…。そこで必要とされるのは、ドライバーとナビ、サービスメカニックの信頼関係だ。
 
どんなに走破性の高いマシンでも、操るのは生身の人間。ちょっとした不注意や気の迷いで順位が変動したり、完走出来なくなったりもする。だからこそ3人の信頼関係が要求される。お互いの長所や短所を知り尽くした旧くからの仲間であったことこそが、還暦を過ぎたオトコたちを、完走へ導いたと言っても過言ではないだろう。

 

異国の地タイアユタヤをスタート、一週間の総距離は、約2,000㎞!
アジアンラリーの経験が豊富なあきんど号のふたりから「チームメイトとして、アジアンラリーへともに参加しよう」と、声を掛けてもらったことから始まった西川氏の海外ラリー最後の挑戦。昨年春にミーティングを重ね、8月の出港に向けて、参戦車両FJクルーザーの改善作業を、急ピッチで進めることとなった。
 
まずは2名乗車から3名乗車に変更するためのロールケージの加工。そして、エアコンの修理やバックカメラの装着、ラリーコンピューターの取り付けなどを進め、運転席・助手席にRECAROシートを新調した。非常脱出装置も装備。さらに、スペアタイヤを収めるためのロールケージ増加工、収納ケースの加工と設置、後部シートの装着など、いずれも、機能性を考慮しながら無駄を省く取り付けとした。
 
また西川氏が乗り込む後部座席からも、コドライバーの補助が出来るようiPadを加工し、モニターとして設置。そして氏の足を置くスペースは、脚を労わるのためのモノではなく、踏ん張るためのフットレストをセットした…。

 

旧き仲間とともにゴールゲートをくぐった、その先に見えたもの
「あきんど号 with JAOS」の還暦を過ぎた三人は、それぞれの仕事をまっとうすべく、そしてお互いの役割を尊重しながら、タイの大地に挑んだ。
 
西川氏は、前列の2人が集中できるようラリー走行中は、一切口をはさまず沈黙に徹した。しかし、後部座席へダイレクトに伝わってくる足の動きなどをつぶさに観察しながら「今後の改善点などを常にシミュレーションしていた」と言う。
 
「ラリー中はお互いの役割を尊重し、その日のレースを終えると、それぞれの立場から意見交換ができたのは、30年来の仲間だったから」と振り返る。「そんな俺たち流のスタイルで7日間臨めたことが、何よりも良かった」と語る。
 
ラリー中印象に残った出来事を問うと「ラリー4日目かな」と西川氏。豪雨で一部洪水の影響もあり、コースはヌタヌタの轍が続くばかり。ようやくの思いで抜け一気に速度を上げると、今度は現地のポリスによる検問が行われていたり…。何が起こるかわからない、そんなスリルも味わったんだとか。
 
さらに、もっとも肝を冷やしたのは、最終日前夜にオイル漏れが発覚したこと。パテを借りて、とりあえず漏れを抑えたが、さすがに激しいラリーには耐えられないと判断。3人で話し合い、レグ6のエスケープを決断した。
 
「これが最後なら無理してでも走らせただろうけどね」。オイルを継ぎ足しながら、アユタヤ遺跡のあるゴール地点へ無事到着。満身創痍の「あきんど号」でゴールゲートをくぐった時は「さすがに感動が込み上げたよ」と語る。
 
「もちろん順位は大切だけど、還暦を過ぎた俺たちに大きなトラブルもなく、3人そろってゴール地点に立てたときに思ったよ。お店創業以来の仲間と一緒に参戦出来て本当に良かった、と。そして、俺が若かりし頃に抱いた夢を叶えさせてくれたふたりは、やはり俺にとって生涯最高の友だ!」と。
 
次なる挑戦は、今年8月12日から18日にカンボジアで開催されるアジアクロスカントリーラリー2018。「俺の夢を叶えさせてくれお礼を、今度はあいつらにする番だ!」。

 
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これまでは、日本であきんど号の製作に携わり、日本から応援する立場だった西川氏。昨年チームメイトとして参戦したことで、今後の課題や改善点が明確になったと言う。
今年のアジアンラリー参戦に向けて、この時のレースで知り合った「中央自動車大学校」に、満身創痍のFJクルーザーを預けるのだと言う。今度は学生達とともに、還暦を過ぎた漢たちが抱く夢の続きを追いかける。


アジアクロスカントリーラリー期間中は、クルマを降りても、そして寝ても覚めてもラリーのことしか頭に思い浮かばなかったと言う。「ラリーは楽しまなアカン!」と笑顔を確認し、たとえ腑に落ちない結果やトラブルに見舞われても、終始笑顔を絶やさなかった。