最新ハイラックスの本格ラリー仕様、その全貌を独占取材!
2016.6.24
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四輪駆動車
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トヨタ
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(TRD.Thailand.)
アジアクロスカントリーラリー2016参戦マシン
最新ハイラックスの本格ラリー仕様
その全貌を独占取材!
日本からも多くのチームやライダーがエントリーする国際ラリー・アジアクロスカントリーラリーの今年の大会に、TRDタイランドが参戦することが、昨日から開催されているタイのバンコク・インターナショナル・オートサロンで発表された。そこでお披露目されたマシンは、昨年登場した最新型ハイラックスREVOダブルキャブの本格ラリーレイド仕様。トヨタのワークス活動を支えているTRDが作り上げた本気度MAXのラリー・ハイラックス、一体どんなマシンなのか? その全貌をご紹介しよう。
車高はノーマルから約50㎜アップで、これはタイヤのサイズアップ分だけだという。サスペンション変更によるリフトアップは施されていないのだ。
あくまでも市販車がベース
TRDのワザが随所に光る
アジアで開催されるラリーレイドとしては最大級の規模とレース格式を誇るアジアクロスカントリーラリーが、今年も8月14日〜8月19日に開催される。第21回となる今回の大会は、タイのパタヤをスタートし、カンボジアのアンコールワットでフィニッシュとなる。約2,400㎞という長丁場には、ジャングルや海岸、山岳地帯など、アジアならではの特徴がある様々なステージが用意されており、また、天候や路面状況も刻々と変化するので、マシンにはスピードだけでなく、耐久性やセルフリカバリー機能も要求される。
TRDがこの過酷なアジアクロスカントリーラリーのために製作したラリーレイド・マシンのベースは、タイで生産されているトヨタのピックアップトラック、ハイラックスREVO(レボ)ダブルキャブの市販車。日本国内からは姿を消して久しいが、ハイラックスはトヨタの国際戦略車であるIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)のピックアップトラックとしてタイで生産され続けていることはご存じであろう。ハイラックスREVOはハイラックスVIGO(ヴィーゴ)の後継モデルとして昨年(2015年)5月に発売された最新モデルで、タイやオーストラリアなどの販売地域では、耐久性や走破性はもちろんのこと、充実した装備や多彩な用途に応えるラインナップが高評価され大人気となっている。
では、TRDのラリー仕様ハイラックスREVO(以下TRDラリー・ハイラックス)を解説していこう。ベース車両はタイから輸入した新車で、製作は基本的に日本で行っている。エンジンは日本仕様プラド・ディーゼルと同じ2.8リッター直4ターボディーゼル1GD-FTV型。ただし、現地の使用環境や燃料事情などに合わせて日本仕様に装着されている尿素SCRは搭載されていない。TRDラリー・ハイラックスのエンジンは、排気量アップやターボ交換といった大掛かりなスープアップは行われておらず、吸排気系の樹脂製パイプをアルミ製に変更するなど吸排気系のファインチューニングがメインとなっている。
ハイラックスREVOのサスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン式コイル、リアがリーフリジッドという組みわせ。TRDラリー・ハイラックスは、フロントサスのアッパーアームとコイルスプリングが変更され、オフロードマシンではお馴染みのKING製リザーバー別体式ショックアブソーバーが組み合わされているほか、アクスルまわりやアームなどに補強が施されている。また、バンプストッパー的な働きをする補助ショックアブソーバーが、フレームの左右サイドメンバーからそれぞれのロアアームに伸びている。
リアのリーフスプリングは純正のままだが、ショックアブソーバーはこちらもKING製のバイパスタイプを採用。300㎜というストローク量のショックアブソーバーは、荷台を一部切り抜いてフレームから延長された頑丈なマウントに装着されている。また、走行安定性や快適性の向上を狙って、センターアームのような形でデフケース上部からクロスメンバーに伸びるショックアブソーバーが装着されている。なお、リアデフには開発中の新機構LSDが装着されているとのことだ。
下回りは、アンダーガードやデフガードの装着などで強化が図られている一方、CFRP(カーボン樹脂)製ボンネットやレーシングシートの装着、内装の撤去などで、バネ上重量の軽量化が図られている。また、重量物である2本のスペアタイヤは荷台前方に配置されるなど、マスの集中化もしっかり考慮されたマシンレイアウトである。
オフロードレーサーの塙郁夫氏が
マシン造りのアドバイザー
TRDラリー・ハイラックスのシェイクダウンは既に日本で行われており、モーターランド野沢と信州大町チャレンジフィールドでそれぞれ8時間テストした結果、大きな不具合は起こらなかったという。もっとも、今回の取材はタイへ船積みされる直前のこと。本戦の舞台となるタイやカンボジアのオフロードの方がより厳しい走行条件になるため、現地でも厳しいテストを繰り返す予定だとのことであった。
実はこのTRDラリー・ハイラックスの製作とセッティングには、JFWDA戦やバハ1000といったハイスピード・オフロードレースにおいて本邦随一のレーサーである塙郁夫氏が積極的に関わっている。WRCラリーなど乗用車ベースのハイスピードラリーでは、ガチガチに固めてストロークや挙動の変化を抑え込むような脚まわりが主流だが、TRDラリー・ハイラックスは、塙氏のマシン造りとドライビングスタイルを参考に、しなやかなで有効ストロークの長い脚まわりを目指したという。結果、ロールは大きく見えるが、路面が荒れているコーナーでも、抜群の路面追従性と安定した車両姿勢を保ちながら、トップスピードで駆け抜けられるマシンに仕上がっているとのことだ。実際にダートコーナーをハイスピードでクリアする動画を見せてもらったが、ロールしつつも、サスペンションがしなやかにストロークし、タイヤはしっかり路面をグリップしているのが確認できた。コーナーリングの一連の動作において挙動の乱れがない、抜群の安定感が印象的だ。
アジアクロスカントリーラリーの本番は8月14日〜8月19日。このTRDラリー・ハイラックスがどんな熱い走りを見せてくれるのか、今から大いに期待したい。なお、このマシンは、アジアクロスカントリーラリー参戦後、タイ国内でのイベントで展示され、来年のオートサロンで日本に凱旋する予定だという。ちょっと先の話になるが、こちらも大変楽しみである。
<細部写真>
エンジンは2.8リッターの1GD-FTV型。吸排気系パイプにアルミパイプを採用する程度で、大がかりなチューニングは施されていない。
荷台にはウォーンM8000Sウインチを搭載。脱着可能なマルチマウント式となっており、前後バンパーに装着することができる。ワイヤーは軽量な化学繊維タイプだ。
ウインチの隣にはしっかりした造りのアルミ製1.5トンジャッキを搭載。修理やレスキューを確実に行うためにはこのクラスのジャッキが必要だ。これも簡単に脱着出来るようになっている。
スペアタイヤは荷台前方に2本搭載されている。パイプ式ラックとタイダウンで固定され、スピーディーに取り外しができるようになっている。ちなみにタイヤはファルケン・ワイルドピーク(日本未発売)で、サイズは265/70R17。
十字レンチは、車内から目視確認できるように、わざと高い位置に装着されている。これは塙氏のノウハウで、タイヤ交換作業後の置き忘れを防ぐためのアイデアだとのこと。
マフラーはTRD製。サイド出しタイプの製品をリア出しタイプに改造して装着。
フロントサスペンションは、アッパーアームとコイルスプリング、ショックアブソーバーが変更されているほか、各部が補強されている。
フロントサスのロアアーム・リア側には、バンプストッパーの役割を担う短いショックアブソーバーが増設されている。
リーフスプリングはノーマルを使用。ストロークを規制するリミットストラップ(ショックアブソーバーの隣)により、最大ストロークはレギュレーションの300mmに設定。
リアデフケース上部にもショックアブソーバーが増設されている。
リア・ショックアブソーバーは、荷台の一部を切り抜いて装着されている。オフロードマシンでは一般的な手法だ。
ヒットしやすいデフケース下側にはガードが取り付けられている。なお、リアデフには従来のLSDとは構造の異なる開発中のLSDが組み込まれているとのこと。市販の期待が膨らむ、大変気になるパーツである。
シートは軽量でホールド製に優れるバケットタイプを装備。ハーネスともにスパルコ製だ。
ボンネットはカーボン製。大幅な軽量化を実現しており、エンジンルームの整備性も向上。
車内には頑丈なロールケージが張り巡らされており、クルーをしっかり保護。オレンジ色の板は、大変軽量かつ頑丈な樹脂製サンドラダー。サンドラダーはラリーレイドでの必需品だ。
バンコク・インターナショナル・オートサロン2016、TRDブースで発表されたラリーマシン。
文/宮島秀樹・写真/TRD、宮島秀樹