AXCR 2024「日本人選手の軌跡」
2024.9.2
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ラリー
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トヨタ
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海を渡り、灼熱のジャングルに挑んだ戦士たち
2024年8月11日 各国からタイ・スラーターニーに選手たちが集結した
ラリー・マシン67台と19台の二輪、そして2台のサイドカー
灼熱と赤土を駆る6日間。走行距離は2,000kmにも及ぶ
過酷でハードなアジアクロスカントリーラリー(AXCR)2024に、多くの日本人選手も参加
彼らの活躍ぶりをダイジェストでお届けしよう
塙/染野組、そしてチーム三菱ラリーアートが上々の滑り出しとなったAXCR 2024前半戦
8月12日。タイ南部の州都スラーターニーをスタート地に、AXCR 2024は開幕した。
昨年の覇者 青木拓磨選手(TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA)は、より市販車に近いクラスT2から総合2連覇を目指し、チームメイトの塙 郁夫選手はラリー・マシンが集うT1Dからのエントリー。そして、4台のトライトンで臨むチーム三菱ラリーアートを率いる増岡 浩総監督は「マシンのポテンシャルを大幅に強化してきました。目指すのは2年ぶりの総合優勝とトライトンの上位独占です」とチームを鼓舞。一方のタイ勢は、悲願の初優勝を狙うTOYOTA GAZOO RACING THAILANDやD-MAXで参戦するいすゞ 勢が迎え撃つ。6日間2,000km以上に及ぶ激闘の火蓋が切られた。
スタートしてからしばらくアップダウンが続くLEG1のコンディションは、凹凸が激しく、硬く、そして狭い。トップスピードまで上げきれないコースを、AXCR2022ではチーム三菱ラリーアートを初出場・初優勝に導き、昨年は総合3位入賞と実績を残したチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組が3位を、そして昨年リタイヤという辛酸を舐めた塙/染野組が4位につけるなど、日本チーム&選手は上々の滑り出しだ。
ジャングルを駆け抜けたLEG2では、塙/染野組が一番時計を叩き出し、’07年ラリージャパン・グループN優勝、FIAアジアパシフィックラリー王者に2回輝くなど、日本の誇るトップドライバー田口/保井組(チーム三菱ラリーアート)が3番手でゴールへ飛び込むという日本勢の躍進に注目が集まった。
そして前半戦最終日。3日間で最長のSS区間となるLEG3では、好調の塙/染野組が、この日もトップタイムで総合首位をキープ。2位はチーム三菱ラリーアートのチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組で、総合2位とこちらも優勝を狙える好位置で前半戦を終えた。
地元タイ勢に勝る成績で前半戦を折り返した日本勢。彼ら(チーム)の活躍ぶりを伝える現地からのレポートに、遠く日本から、日本勢が表彰台に並ぶことを思い描いていたのだが…。
快走する塙選手が、そして一昨年ぶりの栄冠が見えたチーム三菱ラリーアートが…
後半戦は、優雅な雰囲気が漂うリゾート地チャアムをスタートし、北へマシンを走らせ、山と渓谷美溢れる風光明媚なカンチャナブリーをゴールとするLEG4から。
LEG4序盤のハードなロックセクションが、多くのマシンの行く手を阻むこととなった。LEG3までトップだった塙/染野組も予想だにしなかった事態に見舞われた。このロックセクションで、塙選手はタイヤを4本パンクさせて1時間以上をタイムロスし、首位争いから脱落。LEG5、LEG6でも上位に食い込む走りだっただけに悔やみきれない一日となってしまった。勝利の女神は、カンタンには微笑んではくれないようだ…。
AXCRの勝敗を決することとなったLEG5は、SS区間(約230km)最長を誇る。前日、総合首位に躍り出たチーム三菱ラリーアートのチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組。泥濘や渡河、渇いた大地…刻々と変わるコンディションを走り抜け、二度目の総合優勝という栄冠が、彼らに届けられようとしていた。否、誰もが信じていた時のことだった。
ゴール手前わずか2kmの地点でエンジントラブルにより、マシンが止まってしまった。20分超という大きなアドバンテージは当然のことながら失ってしまい、またしても優勝争いから脱落してしまった。増岡総監督をはじめとするチーム三菱ラリーアートのスタッフは、茫然自失。AXCRの女神は手厳しい…。
灼熱赤土の大地を駆け抜け2,000kmに及んだAXCR 2024は、♯105 Mana PORNSIRICHERD/Kittisak KLINCHAN組(TOYOTA GAZOO RACING THAILAND)が総合優勝を飾った。
ところで、AXCR2024に挑んだ競技車両に目を向けてみると、タイ国内のオフロードレースでも大変な人気を誇るピックアップトラックが3/4を占めていた。一方、装着タイヤはと言うと、GEOLANDARの装着率が42%と、選手たちから圧倒的な支持を得ていた。
LEG6のゴールへ飛び込んで来たばかりの#101 青木拓磨選手が肩で息をしながら語ってくれた。「苦しかった6日間。僕をゴールまで運んでくれたのは、GEOLANDAR M/T G003です!」。市販車クラスというT1クラスには劣る車両のポテンシャルながら、総合連覇を掲げ戦い抜いた青木選手。自身のマシンスペックには一切触れることなく、「来年に向けて、ひとつの目標ができました」と、震える拳に親指を立て、映像に向かって日本のファンに挨拶する姿が印象的だった。
(文章:編集部/写真:芳澤直樹)
四輪総合4位(T1Dクラス3位)
TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA 塙 郁夫選手
「LEG1で手応えを感じ、LEG2・3では首位を走っていました。焦らず、リズムを崩さずで臨んだLEG4。大会関係者からは一番の難所と伝えられていたのですが、決してハードには感じませんでした。ただ、外的要因も加わって、1時間10分くらいのタイムロス。諦めることなく、残りのLEG5・6と上位に食い込んだのですが…、ロスした時間を取り戻すには至りませんでした。入賞圏内でゴールしましたが、『競技って難しいもんだな』というのが、走り終えて思ったことです(笑)」。還暦を過ぎたタフな漢ならではの、大人のコメントだった。
四輪総合5位(T1Dクラス4位)
Team 三菱ラリーアート 増岡 浩総監督
「今年は全体的に難しいコース設定で、ナビゲーションがすごく大変でした。悪路で走破性が求められる部分も含め、変化に富んだコースだったと思います。昨年のリベンジを果たすべく、『トライトン』を進化させてきましたが、その効果は十分に確かめることができました。一方で、チャヤポン・ヨーター選手が3番手からひとつずつ順位を上げLEG4では首位に立ちました。マシントラブルで悔しい結果となりましたが、私たちが準備を進めてきた方向性は正しかったことが証明されたと思っています。来年に向け、さらに走行性能が高められるよう、準備を進めて参ります。それから、今年は社員の小出選手がドライバーとして参戦し、ステージが進むにつれ素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。この経験が若手育成に活かしてくれることを期待します。ご声援ありがとうございました」
四輪総合7位(T2A-Dクラス3位)
TOYOTA GAZOO RACING INDONESIA 青木拓磨選手
「2,000kmに及んだアジアクロスカントリーラリー2024に、選手としての僕をゴールまで運んでくれたGEOLANDAR M/T G003。このタイヤは本当にタフで、強くて、グリップも良くて、どんな難所も乗り越えさせてくれました。本当に感謝しかありません。ディフェンディングチャンピオンとして迎えたAXCR2024は、力及ばず二連覇の夢は叶いませんでしたが、来年に向けて、ひとつの目標ができました。これからも応援をお願いします。そして、素晴らしいタイヤを提供して下さった横浜ゴムの皆さん、ありがとうございました!」
四輪総合16位(T1Gクラス優勝)
FLEX SHOW AIKAWA Racing with TOYO TIRES
5年ぶりにアジアクロスカントリーラリーに戻ってきた、俳優:哀川 翔監督が率いる「FLEX SHOW AIKAWA Racing with TOYO TIRES」。戦いの地へ出発する前に、私たちメディアに向け、マシンのシェイクダウンでこんな抱負を語っていた。「前回はクラス2位でした。5年間、ラリーの経験を積んできた川畑選手には優勝を期待したい」と語る哀川総監督に対し、川畑真人選手もまた、「確実な走りをお見せします。結果を残す、そんな気持ちで挑みます!」と自信に満ちた姿が鮮明に甦ってきた。有言実行。念願だったクラス優勝「おめでとうございます!」
四輪総合26位(T1Dクラス15位)
九州男児 Team Japan 森川金也選手
熊本県で四駆専門店フォーズファクトリーの代表を務める森川選手は、「これまでアジアクロスカントリーラリーをはじめ、様々な国内ラリーやオフロードレースに参戦してきました。私が培ってきたことを若者たちに伝えたくて、彼らとともに、この地に戻ってきました。3年チャレンジの2年目に当たる今年は、前回の反省点を活かしながら、『チームとして成長を遂げる』がテーマです」と語っていた。過酷なレースの完走はお見事!そして、クラウドファンディングで賛同してくれたスポンサー企業・方々の名前が書き込まれた日の丸の旗は、彼らとつねに行動をともにしていた。チーム「九州男児」は、礼節を重んじる「日本男児」でもあった!
夜のピットで、マシンを甦らせた中央自動車大学校の学生たち
毎年、日本人チームの一員として、ピットに戻ってきたマシンを学生たちが整備するというユニークなプログラムで参加する「中央自動車大学校(千葉県)」。今年も一級整備士を目指す同校の4年生たちが、FLEXチームに帯同した。さらに今回は、台湾で俳優として活躍するロスリン・シェン(Asian Rally team)のマシン(JB74を300mmストレッチしピックアップに)を創り上げた。Asian Rally teamも全LEG完走。ボロボロになって帰ってきたマシンを毎夜、黙々と作業する学生たちもまた、選手達とともに2,000kmのラリーを戦った。
21チームが参戦したMOTOクラス
ドライバーとコ・ドライバーで臨む四輪に対し、二輪はひとりで長丁場を走り切ることとなる。コマ地図を見てコースを誘導してくれるコ・ドライバーは当然ながら存在することなく、走りながら、選手みずからコマ地図を確認しなければならない。そして、ガレ場や泥濘地、渡河…。少し考えただけでも体力の消耗は甚だしいと想像に難くない。そんな過酷なAXCR 2024を、日本から参戦した松本典久選手と山田伸一選手(ともにTeam OTOKONAKI)が、MOTO総合で1-2フィニッシュを飾った。