YOKOHAMA GEOLANDAR I/T-S その気にさせるスタッドレス

2011.11.1

    • タイヤ
    • Jeep

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SUVにこそスタッドレス

SUVは雪に強いのか、弱いのか。皆さんはどうお考えだろう? ここでひとつ私の体験をお伝えしたい。それは春先に林道取材に行った時のこと。突然、雪が降り出して見る見るうちに路面に雪が積もっていったことがあっ た。菜の花の上に白い雪。とても幻想的な絵が撮れたのだが、唯一、タイヤがM/T(マッドテレーン)だったことが気がかりだった。

 

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M/Tは雪道にからきし弱い。「深い溝で雪をかけるでしょ? 」と思うだろうが、それは限定的な状況。溝が多いだけに接地面が少なく、トレッドブロックのゴム質も岩場などで欠けぬよう、少し硬めに造られている。加え て相手は冷たい雪だ。ゴムはさらに硬くなる。つまり、グリップ面が少ない上に、そのグリップにも期待できない。唯一、深雪のラッセル走行なら役に立つが、 一般の氷雪路ではA/T(オールテレーン)タイヤやノーマルタイヤのほうがずっとマシなのだ。

 

案の定、林道の下りで冷や汗ものの経験をすることになった。ダート路はどうにかなったものの、後半の舗装路でコーナーに突き刺さりかけたのだ。 慎重に走ってはいたが、ツーッ と四輪が滑り始めた後、体勢を立て直せぬままガードレールのほうへ…。クルマをお貸し頂いた人の顔。修理費。始末書…。瞬時にいろんなことが走馬 燈のように駆けめぐったが、幸い路面グリップのムラ? に助けられ、ギリギリで止まることができた。のどから心臓が飛び出しそうな出来事だった。

 

当たり前の話だが、フットブレーキの性能に四駆も二駆もない。ならば雪道では重いほうが止まりにくいのは当たり前。アクセルを踏んでいる限り、 二駆とは比べものにならない走破性を持つ四駆だが、ひと度ブレーキを踏めば車重の分だけ不利。雪道には強いが、一方で”弱い”とも言えるのだ。この弱さを 意識せぬ者はスキー場からの帰り道で泣きを見ることになる。コーナーに突き刺ささっているSUVの、なんと多いことか。

 

だから、SUVにこそ冬タイヤ。四駆にこそスタッドレス。ひとたびスタッドレスを履けば、そのグリップを活かして四輪にエンジンブレーキを効かすことも可能だ。雪国の人が実践しているセオリーを、そこへ訪ねて行く者が実行するのはむしろ”マナー”と言ってもいいだろう。

 

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チェーンはあくまで緊急用

チェーンでいいじゃないか、という意見もあるだろう。確かにチェーンは大切だ。実はチェーン規制にも2種類あって、ほとんどの場合は「主駆動輪 にチェーンを装着するか全車輪に冬用タイヤを装着すれば通行可能」というものだが、ごく希に全車輪冬タイヤでも通行不可、チェーンを履かねば走ってはいけ ない、という規制が出る。

 

ちなみに”冬タイヤ”とはスタッドレスタイヤだけを指すわけではない。M+S(マッド&スノータイヤ)も認められており、実はM/Tタイヤもその多くがM+S。チェーン規制のタイヤチェックも問題なくクリアできるのだが、危険な状態であることには変わりはない。

 

いずれにせよ、そのようなチェーン規制や緊急時のために、雪道に慣れた人ほどスタッドレスタイヤを履かせた上でクルマにチェーンを常備しているもの。じゃあ、チェーンさえあればそれで十分じゃないか、と考えるのはチと早計だ。

 

まず、チェーンは着脱の場所も走る場所も選ぶ。せっかく履いたのに路面に雪がなくなった…。こんな時が一番困るはず。そんな中途半端なクルマが渋滞をつくることもしばしばある。

 

しかも関越自動車道では、関越トンネルの路面が痛むことを嫌って”トンネル内はチェーン走行不可”にしている。前後にチェーン規制が出ていた場 合、トンネル前で脱ぎ、トンネル後で履き直さねばならない。こんな面倒なことを繰り返しているうちに、雪道=めんどくさい、となり走りたくなくなるのが関 の山だ。

 

それは、SUVの在り方として間違っている。

 

04-thumb-200x300-2077四駆は、SUVは、低μ(ミュー)路でこそ輝くもの。そして雪は誰もが体験できる最も身近なオフロードだ。そこを快適に走るために在る、と言っ ても過言ではない。もうひとつ言えば、SUVは天気が読めない時こそ活躍するもの。路面状況によってチェーンを履いたり脱いだりするより、スマートに走り たいものだ。

 

ではそのスタッドレス、本当にそんなにいいのか? という話になるだろう。特にスタッドレス未経験の人ほどその実力を甘く見るもの。「スパイクが付いてるわけでもなし、所詮は丸いゴムのカタマリ。そんなに氷雪路の性能が上がるものか」と。

 

そんなユーザーにこそ、ゼヒともスタッドレスを体験して欲しい。ノーマルタイヤとの違いは歴然。比べものにならないのだ。

 

 

ジオランダーI/T-Sで雪道を走ってみる

05-thumb-200x300-2078まず向かったのは”圧雪路”。通行する車によって踏み固められた圧雪路は、一般のドライバーが最もよく出会う雪道と言っていい。その上に雪がチラチラ降り積もっていることも多々あるだろう。

 

そんな路面でまず、フルブレーキングを試してみる。もちろんABSは効きまくる。ここで夏タイヤならツーと頼りなげな滑り方をするが、ジオラン ダーI/T-Sはノーズがグッと下がり、荷重が前輪に移動して、減速Gを伴って止まってくれる。スタッドレス未経験の人なら、この感触だけで驚くはずだ。

 

 

 

 

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そして…実は私も驚いた。旧モデルのジオランダーI/Tと全くブレーキの効きが違う。だいたい、加速からしてシャープ。いったいスタッドレスはどこまで進化するのか。

 

このテストで実は大切なポイントがある。それは車を信じ、タイヤを信じてブレーキを強く踏む、ということ。雪道に自信がないドライバーほど、そ してタイヤを信頼していない人ほどブレーキを弱く踏みがち。それでは車は止まらない。よく”急”のつく動作をしない、という表現があるが、雪上だろうと氷 上だろうと、生やさしいことを言ってられない緊急時は”急”で結構。ガッツリ踏んでABSを存分に効かせてあげよう。

 

“フルブレーキング”でクルマがどんな風に止まるか。実はこれ、とっても有効な情報なのだ。手前味噌で恐縮だが、僕はその年初めて訪れた土地で 雪道に入ると、後続車がいない直線でこれを試し、”感触”を確かめることにしている。この踏み加減でこれだけ止まれる。あるいは止まれない。それさえ知っ てしまえば、自然とドライビングが落ち着くものなのだ。

 

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今回はいろんな車種で試乗した。が、新しいI/T-Sへの驚きはまだ続いた。ステアを切ってからの反応が違う。旧I/Tより強いヨーモーメント が発生し、鼻先が瞬時に向きを変えて行く。その違いはパイロンスラロームの比較で大きく現れた。旧型I/Tは新型と同じタイミングでステアしても反応が遅 くて間に合わず、さりとて切ったところで向きが変わらず、やむなく大きく切るとお尻が出る、という具合。結果的に全く違う走りになってしまった。氷上の制 動性も新型が30%向上しているという。

 

さて、そんな圧雪路。でも油断して走っていると山や林の陰でミラーバーンになっていることがある。こんな時は、日の具合などからあらかじめ予測 して速度を落とすのがベストだが、万一ミラーバーンに入ってしまっても慌てて急ブレーキを踏んではいけない。アクセルを戻しながら、路面とのグリップを確 かめながら速度を落としていってあげるのだ。もちろん万一の場合はフルブレーキ。ここでどれだけ短い距離で止まれるか、止まりながらステアを効かせること ができるのか…。いずれの性能も新型I/T-Sが勝っている。

 

この味を知ってしまったら、何をするにもワンテンポ遅れる旧型にはもう乗られない。スタッドレスの進化は本当にスゴいと思う。

 

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準備と決断は早いほうがいい

この原稿を皆さんが読む頃、スタッドレス商戦はもう佳境を迎えているだろう。このまま年末にかけて、人気サイズはどんどん品薄になっていくは ず。そしていずれはチェーンしか選べなくなり、最後はそのチェーンすらサイズがなくなっていく。というのが毎年のパターン。雪かきのスコップ同様、雪が 降ってからではもう、調達が難しいのだ。決断は早いほうがいい。

 

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ちなみに、今店頭で最も目を引くスタッドレスがこのI/T-S。理由は簡単。真ん中に稲妻の巨大ブロックを配置したデザインが、他モデルの造形を圧倒しているからだ。SUVは地上高が高く、タイヤが大きく、その露出も多い。だから、目立つタイヤに人気が集まるのも分かる。

 

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トレッドデザインもゴムも新開発

この稲妻、飾りではない。タイヤを一周する巨大ブロックとすることで接地面積を拡大、サイプを増量。根元に行くほど広くなる台形構造のブロックで剛性を確保、走行時のヨレをなくしてハンドリングや制動性を向上させると同時に偏摩耗も防止している。

 

11-thumb-200x232-2085では、サイプとは何か? サイプとはトレッドブロック表面に配される細い横溝のことを言う。この溝によって接地面でゴムが倒れ込むように変形。ノコギリ状のエッジを連続して作り出し、圧雪路などに食い込む力を発揮する。これが夏タイヤとの大きな違いだ。

 

実は、このサイプも進化している。昔はただの横溝だったが、それがジグザグ形状になってエッジも増え、さらに内部にピラミッド形状を持つようになった。そして最新型I/T-Sでは”トリプルピラミッド”という複雑な形も採用された。

 

ハッキリ言ってタイヤ成形時の金型からどうやって抜くのかとても気になるが、これらサイプの改良によってトレッドブロックが剛性アップ。ヨレが少なくなり、コーナーはよりシャープに。ブレーキも確実に。オンロードでも腰砕けしないスタッドレスへと進化している。

 

一見、些細な変化に見えるが、スタッドレスはゴムの柔らかさが命。氷点下の世界でも路面の細かい凹凸を包み、粘着するようなグリップ力を稼ぐた めに、常温では夏タイヤよりずっと柔らかくなっている。そんなゴムに細かな横溝が刻まれるのだから、剛性確保のための技術開発は涙ぐましいほど根気が必要 なのだ。

 

新採用のトリプルピラミッドサイプ

新採用のトリプルピラミッドサイプ

従来からあったピラミッドサイプ

従来からあったピラミッドサイプ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わったの表面的なデザインだけではない。トレッドゴムそのものも進化した。キーワードは”トリプル吸水ゴム”。スタッドレスの世界でも、タイ ヤと氷の間に出来る微少な水膜がグリップを奪うことはよく知られている。ヨコハマも、この水をゴムが吸うことで接地性を高める技術を採用していたが、今 回、そこに新たな吸水素材がプラスされた。

 

「マイクロ吸水バルーン」「吸水カーボン」に続く第三の素材「吸水ハニカムシリカ」がそれだ。これにより、吸水性能がさらに向上、氷雪面のグリップ力も向上した。ちなみにこれも夏タイヤでは得られない性能。スタッドレスは、夏タイヤとは似て非なるものなのだ。

 

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「マイクロ吸水バルーン」「吸水カーボン」に続く第三の素材「吸水ハニカムシリカ」がそれだ。これにより、吸水性能がさらに向上、氷雪面のグリップ力も向上した。ちなみにこれも夏タイヤでは得られない性能。スタッドレスは、夏タイヤとは似て非なるものなのだ。

 

 

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19-thumb-200x172-2098付け加えると、このトリプル吸水ゴムの下には乗用スタッドレスにはない高剛性ゴムを配置している。2番目に見えるゴムの層がそれだ。これでブ ロック全体の剛性をアップ。さらにその下のベルトやベルトカバーも強化構造を採用。大きく重いSUVのために、専用の味付けしたのがジオランダーI/T- Sといえるのだ。

 

 

 

そして旧来からオンロードの乗り味に定評のあったI/Tだが、新作は乗り心地もコーナリング性能も、また一歩夏タイヤの世界に近づいている。間 違ってもコーナーで腰砕けになったりすることはない。乗り味は僅かに柔らかいが、その気になれば十分にコーナーを攻められる性能を確保している。もちろ ん、オンロードでは優しく乗ってあげたほうが長持ちするが。

 

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このジオランダーI/T-S、今年に入ってまたサイズバリエーションが増えた。具体的には以下の6種。これで、カタログに掲載されていないサイ ズと合わせ全部で63種類(編集部調べ)。SUV専用スタッドレスとしては圧倒のサイズバリエーションとなった。詳しくは後段にサイズ表を用意したのでご 覧いただきたい。

 

⑫ 235/55R20(ムラーノなど)
② 225/55R19
⑪ 225/60R17(レガシィアウトバック、クルーガーなど)
⑪ 235/60R17
⑫ 255/60R17(トゥアレグ、MLなど)
⑫ 285/75R16

 

※○印内の数字は今シーズンの発売月。

 

嬉しいのは純正サイズだけでなく、夏タイヤでも人気のカスタマイズ用サイズをリリースしてくれること。例えばジムニー。純正サイズは 175/80R16だが、185/85R16という人気の高いサイズも合わせてラインナップさせている。ちなみに、この185サイズ、2〜3インチアップ の改造にベストマッチ。ただし純正車高に履こうと思ったらタイヤハウス内に多少の加工が必要になる。詳しくはジムニー専門店に問い合わせて欲しい。

 

いずれにせよ写真のように最低地上高が上がるので深雪ラッセルの走破性がアップすること間違いなし! スノーアタックなどで遊ぶ人は是非試して欲しい。

 

新しくなったジオランダーI/T-S。そのデザインには愛がある。大切な愛車に履かせるなら、見てワクワクするものを選びたい。そしてその性能は、見た目以上に衝撃的であることをお伝えしておこう。

 

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