YOKOHAMA GEOLANDAR SUV 3車インプレッション

2012.2.6

    • タイヤ
    • LAND ROVER

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今、SUVのタイヤに求められるもの

IMG_3536-thumb-200x133-7152先日、マイチェンしたランクル200の取材を行った。タイヤは純正20インチ50扁平のオンロード用。これでモーグルを走破するのだから、時代は変わった ものだ。路面は凍てついた雪混じりの黒土。対角線スタック状態でひと昔前のランクルならデフロックなしでは走れない。でも最新の電子デバイスはタイヤのハ ンデをある程度カバーしてしまう。

 

この技術は、ブレーキLSD、トラクションコントロール、おつまみ系などさまざまに表現されるが、空転するタイヤに四輪独立してブレーキをかける自動制御 のこと。今やX-TRAILやRAV4といったコンパクト4×4にも装備されているこの技術が、四駆とサスペンション、そしてタイヤの在り方を変え始めて いる。

 

レンジローバーは言うに及ばず、グランドチェロキーにパジェロ、パトロールなど四輪独懸の本格四駆が増えたのも、少なからずコイツのおかげだ。そしてオフロードの頂点を行くランクルですらこのようなタイヤを与えられるようになったのだからその影響は大きい。

 

気がつけば現在、日本で販売される四駆はジープ ラングラー以外全てオンロードタイヤを与えられている。オフロードが減ったからとか、オンロードユースのユーザーが増えたからとか、カタログ燃費を良くし たいからとか、理由は幾つかあるだろう。でも、メーカーがこのタイヤで「最低限のオフロード性能を確保した」と判断した意味は大きい。

 

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同じことがコンパクトSUVやクロスオーバーSUVにも当てはまる。もともとオンロード中心の使われ方だが、電子の力を借りればさほどアグレッシブなタイ ヤでなくても林道や河原を走れてしまう。ならばむしろ環境性能や乗り心地を改善しよう! と考えるのは自然な流れ。大多数のSUVユーザーに利益があるだろう。

 

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まさに、そんな時代に生まれたのがこの「ジオランダーSUV」。ひと言で表すなら「静粛性と安全性を有するSUV用低燃費タイヤ」。M/T(マッド テレーン)を頂点とするこれまでのジオランダーシリーズからコンセプトを少し変え、「環境性能」を大きく謳ったブランニューモデルとして登場した。

 

blueearth-thumb-200x142-7173 サイドウォールには「ブルーアース」の文字。これは、乗用車用環境タイヤにのみ採用されてきたコンセプト名。実は、国内のSUV向けタイヤとして環境性能を謳うのは国産大手メーカー初のこと。発売はこの2月(2012年)。コンパクトSUVやクロスオーバーSUV、輸入SUVをターゲットにしているのは明らかだ。

 

 

 

大きく進化した「静」の性能

BV6D2244-thumb-200x133-7166そして試乗当日、私はトヨタRAV4から乗り始めた。面白かったのは、それまでRAV4が履いていた使用過程のジオランダーH/T-Sと比較できたこと。 何よりも分かりやすかったのは両車の騒音(ロードノイズ & パターンノイズ)の差だ。使用過程と新品の違いがあるとはいえ、誰にでもわかるほど静かになっていた。

 

ロードノイズとは、簡単に言えば荒れた路面で生まれる「ゴー」という音のこと。路面の凹凸がノイズとなって車体に伝わり、ドライバーの耳に響く。対してパ ターンノイズはトレッドブロックの溝から生まれる音のこと。溝の中の空気が圧縮されて放出される時に発生するもので、一般に溝が大きなM/T系のタイヤほ ど大きくなる。

 

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数字で見るとジオランダーSUV は H/T-S との比較でロードノイズは13%、パターンノイズは21%の低減(エネルギー換算率)というからかなりのもの。そして「車外通過騒音」もH/T-Sの 73.2dBに対し2.3デシベルのマイナスと、これまた大きな違いを示している。

 

実は、この通過音の大きさもトレッド面の溝体積に依存するもの。ウェット性能を上げようとして溝を太くすれば音が大きくなってしまうわけで、このトレード・オフの関係を克服することも、環境タイヤの課題とされているのだ。

 

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ちなみに、欧州ではこの通過音の規制が2012年からグッと厳しくなる。これに合わせ、各社が知恵を絞っているところだが、日本のタイヤは従来から静粛性 重視。ウェット性重視で溝の太かった欧州タイヤに比べ静かだったが、今後は世界的にさらに静かであることが求められる、と理解して欲しい。

 

脱線ついでに環境タイヤの「ラベリング制度」について言えば、実はこれも元はと言えば欧州発の規制。転がり抵抗、ウェットグリップ、通過騒音などの基準を 定め、メーカーのワクを超え横並びで比較できるようにしたものだ。日本では「転がり抵抗係数」と「ウェットグリップ性能」をそれぞれ「AAA」とか「a」 といったアルファベットで表し、転がり抵抗が「A」以上、ウェットグリップが「d」以上のタイヤを「低燃費タイヤ」と定めている。

 

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じゃあジオランダーSUVはどうなのか? というと、実はこの制度、乗用車用夏用リプレイスタイヤにしか適用されず、純正タイヤやSUV用タイヤ、LTタイヤは今のところ対象外なのだそう。だから こそ乗用車用「低燃費タイヤ」と同等の性能であることを主張するために「ブルーアース」のマークを入れたのだ。

 

H/T-Sより向上した「動」の性能

「音」に続いて分かりやすかったのは走り始めの「軽さ」。これは「クルマが軽くなった」とでも言うべき感覚だ。何やらクルマのメカニカルロスが減ったような印象。正確に計ったわけではないが、慣性だけでスーッと走れる距離が伸びている。

 

特筆すべきは高速時の直進安定性の良さ。ピタッと安定してどの速度域でもクルマにフラつきがない。いいことずくめのように思えるが、1点、グリップ性能は H/T-Sに劣る印象を持った。乗り心地はいいのだが、接地感の微妙な硬さが従来高評価を与えてきたジオランダーと違ったからだ。

 

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一般論で言えば「転がり抵抗」と「グリップ性能」はトレードオフの関係にある。転がり抵抗重視のタイヤならグリップレベルは落ちて当然。燃費はいいがスポーツできるタイヤではないのだろう。そういう言葉が頭を駆け巡っていたのも事実。グリップはむしろ期待していなかった。

 

そうこう言っているうちに目的地、八ヶ岳のワインディングに到着した。この日は曇時々雨。路面は前日からの雨の影響でハーフウェットからウェットに変わる コンディション。グリップへの不安からスピードを控えめに走り出した。が、路面が濡れているにも関わらず思った以上に踏ん張る。あれ? じゃあもう少し、あれれ? じゃあもう少しと撮影中のコーナリングスピードを増しているうち、グリップ限界が想像以上に高いことに気がついた。

 

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おまけに、オフロードタイヤにありがちなニュートラル付近の曖昧さがなく、かといってクイック過ぎず、適度に扱い易いハンドリングがワインディングで心地いい。それは、同時に持ち込んだエクストレイルでも同様だった。ハテ、どうしてだろう?

 

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この思い込みの原因は、後日フリーランダー2に試乗して理解できた。乗用車より重く重心の高いSUVに慣れた自分。コーナーを攻め大きくロールしても、そ れをグリップの証としてねじ伏せてきた私にとってこのタイヤが見せた走りは質の違うもの。姿勢の変化を効果的に抑えた走りだったのだ。いい意味でオフロー ドタイヤっぽくない。そこに接地感のなさを感じた自分の感覚を恨むより他ないが、逆に言えば、乗用車からこの世界にやってくるユーザーにとって違和感のな い味付けと言えるだろう。

 

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果たして、試乗後明らかにされたジオランダーH/TーSとの比較資料を見て驚いた。パイロンスラロームで計るドライ路での操縦性や安定性は1割近い向上、 ウェットコースのラップタイムも2%の向上。制動性能も前回ご紹介した通り。ドライ、ウェット、スノー、アイスなど、あらゆる路面で向上している。

 

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これが、「転がり抵抗16%減」としっかり共存しているのだ。フリーランダーではドライの林道も試してみたが、グリップに何ら不安はない。オフロードもド ライ路面ならH/T-Sよりグリップがいいというから、マッド地形に持ち込まない限り、ほとんどの性能でH/T-Sを凌駕している、と言えるのだ。

 

これは、ただの省燃費タイヤではない。転がり抵抗とグリップはトレードオフ、という言葉に甘んじて「ファン・トゥ・ドライブ」感を捨てたタイヤでもない。 技術者はコンパウンドとプロファイルを改良することでグリップを犠牲にせず、転がり抵抗を減らすことに成功した。シリカやオレンジオイルの配合、そしてナ ノレベルのブレンド技術など、そこにはヨコハマが乗用車で培ったジャパンクォリティーの技術が活きている。

 

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「長く付き合える」という大切な性能

では、重いSUV用として耐久性はどうなのか? ここだけの話だが技術者へのインタビューで正直なところを聞き出すことに成功した。有り体に言えば、H/T-Sと同レベルかちょっと下回る程度の耐久性。 このトレッドゴムのブレンドのままランクルなどの重量級四駆の環境タイヤを作り、それだけの耐久性は維持するには難があるが、コンパクトSUV、クロス オーバーSUV、輸入SUV用としては十分に耐久性のあるマッチング。

 

ことH/T-Sに関して言えば、正直、我々編集者の間でも「耐久性あり過ぎ」で知られるタイヤなのだ。身近に10万㎞走って今なお車検に問題のない溝を 有するグラチェロオーナーを知っているだけに、これとほぼ同等と言われればジオランダーSUVの耐久性はおおよそ想像がつく。アメリカなど日本より圧倒的 に走行距離の多い国でも通用するグローバル/スタンダードな性能が与えられているのだろう。

 

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そして「低燃費」で「静か」。この性能が長く持続できるのがこのタイヤの隠れた特徴だという。一見、迫力にやや欠けるジオランダーSUV。でもその実、低 燃費と低騒音という将来の荒波を見据え、「時代」という過酷なオフロードを乗り切る性能をイチ早く与えられた次世代の「ジオランダー」と言うこともできる だろう。

 

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