「還暦を過ぎた漢たちの挑戦」を支え続けた “FJ” が、今ここに甦る 〜4WD プロジェクト

2020.9.9

    • インタビュー
    • トヨタ

昭和63年に創業した4WD プロジェクト(滋賀県近江八幡市)。代表西川氏が抱いた夢のひとつが「海外ラリーへの挑戦だった」。この途方もない夢の実現は、還暦を過ぎてからのこと。
灼熱のジャングルを3度にわたり挑戦し、還暦を過ぎたオヤジたちを見事ゴールまで届けたのが、ここでご紹介するFJクルーザーだった。

 

還暦を過ぎた漢たちの夢を叶えさせてくれたFJクルーザー
クタクタになったマシンを甦らせ、いつまでも俺の相棒であって欲しい

創業以来、様々なレースを通じて四駆本来の楽しみ方を提案してきた4WDプロジェクト代表西川氏。優勝者にはグアムで行われるレースへの参戦権を与える「XCダート」レースを主催する等、これまで数々のオフロードレースやイベントを企画・開催してきた。
 
オーガナイザーとして活躍する一方で、創業以来、西川氏には抱き続けてきた夢があった。それは「いつか海外ラリーに挑戦したい」というものだった。日常に負われ、気付いたときには還暦を過ぎていたという西川氏に、これまで日本でマシン造りを行いアジアクロスカントリーラリーへ送り出して来た「あきんど号」の山本・辻本両氏から、思いがけない誘いを受ける。
 
「アジアンラリーへの挑戦は、正直70歳を越えたら厳しい。最後の挑戦として、一緒にアジアンラリーを走らないか!」。旧くからの友の誘いを受け、あきんど号のサービスメカニック兼オブザーバーとして、アジアクロスカントリーラリーへの参戦を決意した。
 
2017年、西川氏にとっては初の海外ラリーとなるアジアクロスカントリーラリーへの挑戦(あきんど号はこの時、6年ぶりの復活)は、2019年大会まで3年連続で参戦。いずれも見事完走を果たすこととなった。
 
ドライバー山本氏、コ・ドライバー辻本氏、そして西川氏は、いずれも還暦を過ぎたオヤジたちだ。この途方もない夢の実現を叶えさせてくれたのが、ここでご紹介するFJクルーザーだった。凱旋を果たしたFJクルーザーをデモカーとして、西川氏の傍らに置くことを決めたのは、アジアクロスカントリーラリーに挑戦した最後の年だったという…。

 

ラリー・カーとして堂々たる実績を残したFJクルーザーは
専門店としての誇りをかけた完成度で、今ここにデモカーとして甦る

グレーにオールペンされた大人の佇まい。紳士然としたFJクルーザーに「助手席へどうぞ」と、エスコートされいざ乗り込むと、剥き出しの鉄板やロールケージ、助手席のフットレスト…に驚かされた。外観からは想像もつかない、室内は走るために造られたラリー車そのものだった。
 
真夏の太陽の熱をもろに受ける室内は、クーラーをあざ笑うかのよう。ロールバーと屋根の隙間に挟まれた団扇が、まるでヨンマルのような郷愁を誘い、どことなくほのぼのとさせてくれる。
 
広々とした田園を抜けコーナーを曲がった時、西川氏は「ラリー車ってスタビライザーを外して、ダンパーをダブルショック以上にしてレースに臨むんだよね」と教えてくれた。このFJクルーザーもまた、スタビはなく、ダブルショックとなっていた。もし、このとき教えて頂かなかったなら「少し硬めの脚だったんですね」で、終わっていたことだろう。気付かなかった私もどうか(苦笑)と思うが、ラリーを走るために造られた脚まわりは、FJクルーザー特有のロールや揺れが極めて小さく、助手席に乗る者にとっては、実に心地良い。
 
撮影を進めていくにつれて、スキッドプレートをはじめシュノーケルやサスペンション…至る所にキズが残っていることに気付かされた。このことを問うと、「どのキズも、どこのステージで付けたのか説明がつくんだよ!」と語る西川氏の表情が、いつになく柔和だ。ひとつひとつのキズは、西川氏にとっての良き思い出として、映っているようだった。
 
「アジアクロスカントリーラリーの挑戦最後の年に、このFJをいつまでも僕の傍らにおいて置いておきたいと思うようになったんだ。還暦を過ぎた俺たちを乗せたラリー車として、そして老舗の専門店に相応しい完成度の高いデモカーとしてね」。
 
デモカーとして創り上げられつつも、当時のキズが残されたFJクルーザーは、挑戦を忘れず、戦いながら歳を重ねてきた漢にだけステアリングを握ることが許される、そんな一台だった。
 
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取材と前後して、カヤックとサップを始めた西川氏。「老い先短いからね(笑)。やりたいことは、どんどん挑戦しないと!」と、どこまでも前向きだ。
「琵琶湖の国に生まれ育ったんだから、いずれ四駆とカヤック(水遊び)を融合したイベントを開催したくてね」と、夢を語る。このFJクルーザーにカヤックやテントといったアウトドアギアを積んで…、きっと近くお目にかかれそうだ!
(文:水島 仁)

 

クロモリ鋼ロールケージ

屋根の鉄板がむき出しとなったFJクルーザーの室内には、アジアクロスカントリーラリーに出場した当時のままの「ロールケージ」が備え付けられていた。まるでジャングルジムのようなその姿は、ラリーの激しさを物語っているかのよう。
ちなみに、写真左の “OK” と書かれたシールは、ラリーの車検にパスした証。これもまた当時のまま。
ところで、取材は真夏の太陽のもと行ったのだが、冷房があるとはいえ室内はやはり暑い! この過酷な状況化で還暦を過ぎた漢たちが走り抜いたことに思わず脱帽!

 

BATTLEZ VF-Rリフトアップセット ver.A(50):¥340,000/セット

脚まわりもまた、ラリー時の仕様に。もっとも驚かされたのは、このFJのフロントは、スタビライザーが外されている=未装着であったということ。そもそも、本格的なオフロード(耐久)レース車両やラリーマシンはスタビを外し、その代わりにダンパーをダブルショック以上装着することがスタンダードという。
熱ダレの少ない別タンクタイプのBATTLEZダンパーとKYB補助ショックの組み合わせで、前後ぞれぞれダブルショックとしている。
※このページにて表記されている価格は、すべて税込みとなります。

 

スキッドプレート

ジャングル、泥濘、ガレ場、倒木…過酷な路面環境下を突っ走らなければならないマシンには、頑強かつ広大な面積のスキッドプレートが装着されているが、こちらもまたラリー時のモノだ。
鋼板には、障害物にヒットしたときの深いキズ(写真右)がそのまま残されているが、各所に残るキズを見ると、「これはあのステージでつけたもの」と西川社長はすべて説明できるという。過酷なラリーからFJを守り抜いたというまさに勲章だ。

 

FRPボンネット
TOYエンブレム

オールペンされたボディーと同色のボンネットはFRP製。ラリー車として、軽量化を計るためだ。
ところで、フロントグリルにある「TOY」というエンブレムは、ランクル40グリルにあった「TOYOTA」を外して、このように飾ることがヨンマルオーナーの間で流行っていた、当時のスタイルがモチーフとなっている。

 

シュノーケル

アジアクロスカントリーラリーではコース中に、もしくは天候によって渡河が余儀なくされることがあるため、シュノーケルは必須。
そしてTJM製のシュノーケルにもまた、スキッドプレート同様、深いキズが幾つも刻まれていた。

 

 

 

 

 

ポケットスタイル オーバーフェンダー

グレーとブラックでコーディネイトされたFJクルーザーに、リベット調のポケットスタイルオーバーフェンダーを装着することで、軍用車的な、そして大人の渋い雰囲気を醸し出している。

 

ルーフキャリア

まるでスチール材を使用したかのような重厚なルーフキャリアは、ブラックの吹き付け塗装が施されたアルミ製。
若干のアールを描いた薄いラックは、FJクルーザーにスマート感と、アクティブギアとしての印象を与えている。

 

JAOSルーフスポイラー:¥43,000
FRP リアドア

リアゲートもまた軽量化を計り、ボンネット同様FRP製。さらに、リアの窓は軽量でありながらも強度を誇るポリカーボネイト材が使用されている。
そして、リアドア上部に装着されたルーフスポイラーは、JAOS製。

 

 

 

 

スコップ

リアシート(左側)のむき出しとなったピラーには、スコップが取り付けられていた。もちろんこれは、ラリーにおいて万一スタックしたときに使用する、脱出するための道具だ。
今後、過酷なステージを走ることのないFJクルーザーだが、何気なく設置されたスコップが当時を偲ばせる。

 

フットレスト

助手席の脚下に取り付けられたフットレスト。これは、ドライバーをナビゲートするためコマ図とルートを交互に観ることを強いられるコ・ドライバーが踏ん張るためのモノだ。5点式のシートベルトだけでは、身体を十分に預けることが出来ないという。

 

 

パネル

FJクルーザーのエアコンスイッチパネルの下には、ブレーキのABSを解除するためのスイッチを示す「ABS」のシールが貼られていた。突然、その操作が必要となるため、あえて認識しやすいよう目立たせている。
ちなみに、ラリー時はステアリングの脇に設置されていた。

 

ウィンチ

荷室には積載工具の他に、2インチ角口ヒッチメンバーに装着可能な脱着式「WARNマルチマウント」に固定された「8000ポンドウインチ」が、備え付けられていた。
そしてウインチのワイヤーは、その軽量性を重視し「シンセティック(ファイバー)ロープ」に交換されている。

 

 

 

「TP-2.2」の文字が意味すること

それぞれのオーバーフェンダーの上部(ボディー)には、「TP-2.2」と記されたステッカーが貼られていた。TPとはTire Pressureのことで、「空気圧2.2kgf/cm2」という意味。
だれが見ても即座に空気圧が判るように、貼ったのだという。それにしても、オシャレだ!

 

BATTLEZマフラー

随所にJAOS製品が採用されているが、このマフラーもまた然り。
さて、上段で触れることの出来なかったパーツを列挙しておこう。
◆OS技研 LSD(前・後)
◆JAOSフロントスポーツカウル:¥68,000
◆ジオランダーM/T G003 305/75R16

 

「4WDプロジェクト×アジアンラリー」
過去の記事は以下をクリック!

1)奮戦記「オヤジたちの最後の挑戦」アジアクロスカントリーラリー 2017


2)今年は、学生たちとともに! 「オヤジたちの最後の挑戦」 2018


3)奮戦記「オヤジたちの最後の挑戦」〜人生の集大成に臨むマシンを、学生に託す! 2019

 

 

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http://www.4wdproject.com/