オフロード・ドライビング講座 VOL.4

2017.4.29

    • 四輪駆動車
    • Jeep

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ヒルクライム&ヒルダウン

さて、今回はオフロード走行の花形とも言うべきヒルクライムがテーマ。と言っても、国際競技として知られるパイクスピークのようなタイムトライアル・レースのことではなく、オフロードで出くわす急斜面を登るという、よくあるクロカンステージのひとつ。

 

なぜ花形かというと、ヒルクライムはドライバーの腕や度胸、クルマの性能等、総合的なパフォーマンスが試され、それが「登れる/登れない」という明確な形で表れる、エキサイティングなゲーム性の高いクロカンステージだからだ。

 

もちろん、そんな腕試し、パフォーマンス競争とは関係なく、純粋に目的地に到達するための過程である場合も、この「登れる/登れない」は重要な意味を持つわけで、ヒルクライムのテクニックはぜひ磨いておきたい項目のひとつなのだ。そして、登ったら下らなければならないケースも多いので、ヒルダウンも当然セットで重要なテクニックとなる。

 

なお、クルマの仕様、装備等によって最適な運転方法には違いが出てくるため、ここで解説している内容が必ずしも最良、あるいは有効とは限らないケースもある。愛車のタイプや仕様に応じた走り方を工夫しながら、より実践的なテクニック習得を心掛けよう。

 

ヒルクライム/登坂

急斜面を登っている最中は空しか見えなくなる瞬間も多く、しかも、登れなかったらこの急斜面を後退しなければならない…という恐怖感が常につきまとうため、ヒルクライムにはそれ相応の度胸が要る。しかし、基本を押さえていれば自信にも繋がり、ムダに怖がって冷静さを欠くこともない。これは、ヒルクライムでは重要なことだ。

2017042902助走可能な場所なら、出来るだけ勢いを着けて斜面に真っ直ぐアプローチ。

 

 

助走区間が取れる斜面なら、助走段階でシフトアップして速度を上げ、出来るだけ“勢い”を利用。登れるところまで行って速度、回転が落ち込む手前のタイミングでシフトダウン…が理想だが、実際にはLあるいは1速でスタートしてシフトアップしない…というシチュエーションが一般的だろう。センターデフロック機構があればロック、その類いの電子制御スイッチ(いわゆるOFF ROADモード的機構)があればON、トランスファーにローレンジ(副変速機)があるクルマならローレンジのL、MTなら1速か2速にシフト。この場合その車種の変速比設定によるが、最も低いギアからまず試してみるのがセオリーとなる。

201704290320170429042017042905一気に真っ直ぐ登って、登り切ったらアクセルオフ。登った先の安全も確認しておこう。

 

 

真っ直ぐ一気に登り、登り切ったらアクセルオフ…が基本だが、距離が長かったり、途中に障害物があったり、グリップの確保できない土壌であったりする場合に応じて臨機応変なコントロールが必要となる。

 

斜度によってはアクセル全開のケースも多いが、タイヤの空転を感じたらアクセルを緩めてタイヤのグリップを回復させる。空転のタイミングが分からない場合は、「アクセルを踏んでいるのに徐々に失速」を感じた時、アクセルを踏みっぱなしにせず、「ウォン、ウォン」と煽る要領でタイヤの回転を変化させてみて前進できる踏み加減を探ってみよう。

 

登頂寸前、あともう少し…という瞬間もアクセルを踏み込みがちだが、実際には前輪が平地に乗り傾斜が緩くなる瞬間でもあるので、アクセルを緩めた方が確実に登り切れるケースが多い。全開のままで後輪が地面を掘り下げてしまい、あと一歩でハマってしまって無念の後退…もよくあるケース。逆にグリップが良い場合は、前輪がジャンプしてしまいアクスルやサスペンションを破損したり、登り切った先でオーバーラン…なんてこともあるので注意したい。

2017042906アクセル全開のまま登り切ろうとすると、直前で地面を掘り下げて前進が止まってしまうケースも。パワー不足で失速しそうなとき以外は、アクセルを緩めてグリップを保とう。前輪が坂を登り切った状態で前進できなくなることも多く、このような「本当にあとひと息」という状況では、アクセルを踏んだまま左右に何度もハンドルを切りかえしてみる『ソーイング』と呼ばれるテクニックが有効な場合も。最後の「ひとあがき」で試してみる価値はある。

 

ヒルダウン/降坂

登ったら、帰りは下り。というわけで、急斜面を下るヒルダウンにも登りと同様度胸とテクニックは必要だ。ヒルクライムと違って、クルマ自体の性能差は関係ないんじゃない? と思うかも知れないが、やはりここでもクルマの仕様、装備によっても違ってくる。

 

例えば、減速比設定(トランスミッション、トランスファー、ディファレンシャル・ギア)の違いで、エンジンブレーキのかかり方、つまり「ノーブレーキで如何にゆっくり下ることが出来るか」は違ってくるのだ。これは「フットブレーキを使わずに減速」がヒルダウンで重要な意味を持つことを示している。

 

また機能面では、ABS機構の有無、あるいはABS回路を利用してタイヤをロックさせずに自動的にブレーキをかけてくれるヒルディセントコントロール機構の有無も、同じ理由でヒルダウン性能の高低に関わってくる。

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「斜面に対して直角にアプローチし、エンジンブレーキだけでステアリング直進状態で真っ直ぐ下る…これが基本。斜めにアプローチ、あるいは途中でステアリングを切ると、車体は不安定な状態に陥りやすくなり、最悪の場合、横を向いて横転…の危険も。

 

「直角にアプローチ」「エンジンブレーキだけで」「ステアリング直進状態で」と、これらはすべて車体が横向きにならないための基本項目と言える。滑りやすい斜面では、フットブレーキを踏んで減速すると、タイヤがロックして荷重が軽くなっている後輪が滑ってリアが落ちてくる=車体が横を向く、という危険があるためだ。

2017042909グリップの悪い急勾配では、斜めにアプローチしたり、フットブレーキを強く踏んだりすると、後輪が先に滑り落ちて車体が横向きになる危険もある。

 

 

極端な急斜面ではエンジンブレーキがかかりすぎてもタイヤのロックを誘発するケースもあるので、実際にはまず、そのクルマの一番低いギアで下ってみて、ロックしそうならアクセルを踏んでロックを防ぎ、再度アプローチする場合は一段上のギアにシフトする。ただし多くの場合、ローレンジ付きのクルマならローの1速で下れば問題ないだろう。

20170429112017042912ヒルダウンは、斜面に対して直角にアプローチして真っ直ぐ下るのが原則。低速ギアでエンジンブレーキを利かせながら下る。フットブレーキは極力使わないクセをつけよう。

 

 

低速ギアにシフトしていても充分なエンジンブレーキ効果が得られないローレンジなしのクルマ(現在国内で販売されている現行型4×4は、ほとんどがこれ)の場合は、タイヤをロックさせない程度にフットブレーキを使用して安全な速度で下ろう。もちろん、ヒルディセントコントロール機構装着車はスイッチオン、ABS装着車はフットブレーキを踏みっぱなしでOKだ。

 

なお、ヒルクライムに失敗して後退する場合も、基本は全く同じ。リバースにシフトしてステアリングは真っ直ぐ、エンジンブレーキのみで下る。ABSやヒルディセントコントロール機構は、メーカー/車種、年式によっては後退時に機能しないものもあるので、これは事前に確認しておこう。

 

ヒルディセントコントロール機構やABS装着車には必要ないが、フットブレーキは極力使わないクセを付けておけば、どんな4×4でもコントロールできるオフローダーになれるだろう。

 

ヒルダウンの注意点としては、ヒルクライムと違って、一度ステージに入ってしまったら再チャレンジがほぼ不可能なことだ。緩やかな斜面ならともかく、斜度が20度以上あるような急斜面の場合、地球の重力に逆らって元来たルートをそのまま引き返すことは難しい。また、足場の悪い斜面でのレスキュー作業も大変である。だから、初めての場所で急なヒルダウンに出くわした場合は、地形や土質などをよくチェックしてクリアできそうかどうかをしっかり判断しなくてはならない。ヒルダウン中のスタックは絶対にNGと心得よう。

 

 

文/内藤知己
写真/佐久間清人

 

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